夢うつつ | ナノ





眩しい朝日で目が覚めた。


「んー!」

起き上がって身体を伸ばすと、頭もしっかり起きた。
隣を見ると、いつも居る幸村は居ない。


幸村、昨日ヤリ逃げしたし、居ないのも当然か。


うわぁぁぁああ!! って叫んでいきなり窓の外に飛び出したからね。
ほんと、逃げ足速すぎ。


まあ、居なくてありがたいけど。
なんか、気まずいし。
それに、何話していいかわかんない。



つーか、昨日の幸村の真剣な顔が格好良いなんて思ったりして……。


「仕方ないよね……」


だって、あんな顔見たことなかったし。
口調だって違って……。

あんな積極的な幸村って……!


顔が熱くなって、ぼすんと枕に顔を埋めた。

何ドキドキしてんの私!

それより、さっきの私の発言も可笑しい!
した事なんてキスだけだったのに。体交えたような発言してるし……。


「……って、何考えてんの!!」


私、絶対可笑しくなってる。

幸村と、そんなことになるなんてありえないのに……。


頭を振って、変な考えを無くそうとした。
けど、こういうのって忘れようと思えば思うほど忘れられないんだよね。

頭の中は幸村ばっかり。
心臓も締め付けられて苦しいし。


まるで自分が幸村に恋してるみたいで。


「こ、い……?」

は? 馬鹿じゃないの私。

幸村はそういう対象じゃなくて、ただの友達じゃん。
……ただ、本体に戻るのを手伝ってるだけ。

ただそれだけの関係でしょ……。


「何自分で言っておいて悲しくなってんの……」



もし、幸村が元の身体に戻れるようになったら、もう幸村と会う必要はなくなるんだよね。
じゃあ、もう、電車とかで会っても久しぶりで終わるってことだよね。

そんなの嫌だ。


「幸村……」


全く関係なくなると、もう離れていくのかな。なんて思ってぽつりと名前を呟いた。


『な、なんでござるか!?』
「うわっ!?」

窓からいきなり、幸村が顔を出してきた。
完全に幸村は来ないと思って、油断してた。
もう慣れたはずなのに、油断してたから心臓が飛び跳ねたよ。


『す、すまぬ!! 驚かすつもりは……』
「あ、いや……私が油断してただけだから」
『そうでござるか……』


そこで、話が途切れた。

どうしよう、すっごい気まずい。
なんか、初デートの初々しい恋人達みたいなんだけど。



「いつから居たの?」
『なまえ殿が起きる少し前には外に居たでござるよ』
「え!? ほんとに!?」
『うむ』



やば、じゃあ私が幸村のことを考えてた時も知ってるの!?


『なにか、悶えておられたが』
「あ、や……その」
『悩みごとでもあるのでござるか?』
「なんでもないよ! うん。大したことないし!」
『ならば良いのだが。何でも某に相談してくだされ』
「うん。あ、ありがと」


うーん、なんか複雑。
幸村のことで悩んでたのに、そんな風に言われると、ちょっとね。
幸村は純粋に私を心配してくれてるのにさ。

自分が悪いことしてる気分。



そんな罪悪感を消すために、違う質問をしてみた。

「夜の間ってどこに行ってたの?」
『家に戻っておりました』
「え、家? 自分の体を見に行ってたの?」
『うむ。自分の身体に戻れる可能性を信じて……』


結局戻れなんだが……。と少し恥ずかしそうな顔をして幸村は言った。


「そっか……」

良かった。戻らなくて。


……あ、れ?
私、幸村が本体に戻れなかったことにほっとしてる?

幸村が本体に戻ったら繋がりがなくなるから?




「あ、あのさ……」
『なな、なんでござざるか?』
「本体に戻ったらさ、もう私とは……」


もう一緒に居られないの? その言葉を飲み込んだ。
何言おうとしてんの。
こんなの、当たり前のことじゃん。

幸村には幸村の生活があって、私には私の生活があるんだから。


『なまえ殿?』
「あはは、やっぱ何でもないよ」
『そうでござるか?』
「うん、あはは」


から笑いだけして、幸村に背を向けた。
やば、ちょっと悲しくなった。

「は、早く本体に戻れるように頑張らないとね」
『う、うむ……そうでござるな』
「私達、相性いいと思うから、もうすぐだよ」
『……そうでござるな』


やっぱり、幸村も早く戻りたいんだ。
そうだよね。
生きてるのに、物に触れられないし、私以外と会話できないし。
そりゃ、戻りたいよね。


「そしたら、私も普通の生活に戻れるしね」
『……そうでござるな』
「が、んばろうね」
「うむ……」


やば、ちょっと涙出てきた。
幸村は本体に戻れるし、私は普通に戻れるし良いこと尽くしなのに。


「じゃあ……朝ごはん食べてくる」
「……うむ」


流れる涙を拭いて、部屋を出た。



(自分のことがわからないよ)
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