夢うつつ | ナノ




「どっか、遊びに行きたいなぁ……」


プールとか、遊園地とか遠出がしたい。
けど、幸村は私が変な目で見られるって言って、人がいっぱい集まるところには行きたがらないし。

人気のないところかぁ……。
夏休みに人気のないプールとか遊園地なんてありえないよね。



「あー暇だー」
『なまえ殿?』


ごろりとベッドに寝転がったら、幸村が窓から顔だけを出してきた。
散歩、もう終わったんだ。


そうだ、無理だと思うけど聞くだけ聞いてみよ。


「幸村ってさ、遊園地とかプールに行きたくない?」
「人が多いところは、その……」



ああ、やっぱり嫌かぁ。
私のことを思って言ってくれるんだから、あんまり強要もできないし。


うーん、やっぱり友達と行くしかないか。
本当は幸村と行きたかったんだけどなぁ。
しょうがないよね。



「そっか。じゃぁ他の子とでも行くことにするよ」
『む……』
「のど渇いたし、お茶飲んでくるよ」


起き上がって、ドアに向かおうとすると手が急に寒くなった。
これが、幸村が私に触れてる証拠って言うのが最近分かった。



「なに?」
『そ、その……他の子とは男でござるか……?』
「さあ? 女の子かもしれないし、佐助君とか男の子かもしれないけど?」
『なっ!?』


幸村の反応を楽しみながら、部屋を出た。
いつもお茶飲みに行くぐらいなら部屋で待ってるけど、今日はついてきた。


『お、男ならば、某がお供する!』
「え、ほんとに?」
『ということは……!? 男と行かれるのか!?』
「あ、いや、それは分からないけど」
『そ、そうでござるか』



幸村がついてくるなら男の子と行こうかな。
けど、男友達っていっても佐助君と政宗君とポニーさんしか知らない。

誘っても来てくれるかな。

あの人達も忙しいだろうし、来てくれない可能性のほうが高いだろうな。
ま、その時は素直に女友達と行こう。

とりあえず、幸村がまた散歩とか行ってる間に佐助君たちに電話してみよ。



『なにか企んでいる気がするでござる』
「んー? なんでもないよー」

あははーと空笑いしながら麦茶をコップに注ぎ込んだ。














「わー遊園地久しぶりだー」
「ああ。俺も遊園地なんて何年ぶりだ」
「どこから行く?」


振り返って聞いた。


『某はジェットコースターに乗りたいでござる!!』
「俺はvikingに乗りてぇな」
「うーん、じゃあバイキングに行こっか。幸村のは後でね」
『うむ』



幸村が頷いたのを確認して、バイキングに足を進めた。
幸村が拗ねなくてよかった。

なんか幸村って政宗君のこと嫌ってるって言うか、敵視してるしね。




「幸村、拗ねてんのか?」
『拗ねておらぬ!』
「まだ拗ねてないよ」
「ほう、そりゃ良かった。拗ねて逆ギレされたら堪ったもんじゃねぇしな」



やば、笑顔が引きつる。
幸村って拗ねたらほんとに政宗に逆ギレしそうだし。

お願いだから、拗ねてどっかに行くとかだけはやめて欲しいな。
今日遊園地に来たのは、幸村と来たかったからなんだから。
どっか行っちゃたら来た意味なくなるじゃん。



まだ普通の幸村に拗ねないように願いながらバイキングの列に並んだ。


「うわぁ……すっごい並んでる……」
「夏休みだからな。家族連れも多いだろ」
「そうだよね……」

いくら平日でもやっぱり多いかぁ。
あんまりアトラクションには乗れないだろうな。

こうやって並んでる時間の方が多いとか嫌だけど、仕方ないか。




「なまえ、のど渇かねぇか?」
「ん、そういえば渇いたかも」
「OK.待ってろ」
「え、ちょっ」


私が止める前に政宗君は列から離れてどこかに行ってしまった。
一人で並んでるとか寂しいんだけど。



「どこに行ったんだろうね?」
『さ、さあ……?』
「どうしたの?」


なんか、幸村の目が泳いでるっていうか、きょろきょろしてるような。
何か後ろめたいことでもした?


『その、人が多い故、某と話されるのは……』
「あ、そっか」


あーあ、ほんと幸村って意外に神経質だよ。
私は周りなんて気にしないのに。


けど、幸村が嫌がるから、話しかけるのはやめた。
しばらく立っていると、またあの痛みが襲ってきた。


「い、っ……!」
『なまえ殿!? どうなされた!?』


頭、割れそ……!
なに、これっ……!!

この前より酷いよ!



「だ、大丈夫ですか?」
「従業員の人呼びましょうか!?」
「い、や……だいじょ、ぶですっ……!」

こめかみを強く揉んで痛みを抑えるようにした。

幸村だけじゃなく周りの人の視線も振りそそがれる。
なんか心配もされてるし。

ああ、もう……こんな所で痛くならないでよ!



『なまえ殿!! 気を確かに!!』
「う、ん……!」


と答えたところで痛みが治まった。


「あ……治った……」
『大丈夫でござるか!?』
「うん」

「あの、救護室に行かれたほうが良いんじゃないんですか?」
「あ、大丈夫です。頻繁に起こるものなので」



ご心配掛けてすみませんと周りの人に謝った。
わー気まずい。
みんな心配するように見てくるし。
幸村は何か言いたそうだったけどみんなの視線に感づいて、喋りかけてこないし。


早く政宗君帰ってこないかな。




ぽけーっと政宗君の歩いていった方向に目をやった。
すると、男が走ってきた。

な、なに、ってか誰?


目を凝らすと必死で走ってくる政宗君だった。

え、なんで走ってんの!?
何かあった!?


「ど、どうしたの!?」
「はァ、はーっ、疲れた……」
「そりゃ、あんだけ全力疾走だったんだから疲れるでしょ」


汗だくだし。
脱水症状になっちゃうよ。



「ね、何があったの?」
「……追いかけられた」
「え!? 誰に!?」
「女」
「女ってどういうこと?」
「一緒に遊べって誘ってきやがった」


断っても断っても、来るもんだから振り切ってきた。なんて溜息をつきながら言われた。
すごいね。モテる男は。

断っても断っても女が寄ってくるって、どんだけ。
そんなの、芸能人以外ありえないと思ってたよ。


「大変だったんだ」
「Of course.」
「で、どこ行ってたの?」
「お、忘れてたぜ。これ飲めよ」


差し出されたのはオレンジジュース。
もしかして、これ買いに行ってくれたの?

……モテる理由がわかったよ。
とんだジェントルメンじゃないか。


「……ありがとう」
「Ha! そう思ってんならkissしろよ」
「はぁ? なんでそういう方向に行くかな」
『ははは破廉恥でござる!! なまえ殿、そのような行いをしてはいけぬ!!』
「しないから、落ち着いて」



するわけないのに、なに私と政宗君の間に入ろうとするかな。
幸村の態度が想像できた政宗君はjokeだjokeって笑ってるじゃん。


それに好きでもない人とキスするほど私も夢を失ってはいないよ。
一応、ファーストキスは好きな人と、って決めてるからさ。


のどを鳴らして笑っている政宗君の後ろに女の子二人組みがやってきた。


「あのー」
「Ah? なんだ」
「一緒に遊びませんか?」


わ、逆ナンってやつだ。
はじめて見た。

けど、一応女の私が一緒に喋ってるの見てたはずだよね。
女と遊びに来てるって分かるじゃん、普通は。

それでも誘いに来るなんて相当な自信なんだね。

まぁ、二人とも可愛らしい顔立ちしてるけど。



「Sorry.他当たってくれ。連れがいる」
「え、けどその人彼女じゃないですよね?」
「そこのお友達も一緒でいいですよ」


わお、おまけとして私も行っていいのか。

うーん、これは心が広いっていうか、ただアウトオブ眼中ってことだよね?
今の子はすごい発言するよ、全く。

なんて、ある意味感心してると、政宗君に肩を抱かれた。


「ん?」
「生憎、こいつは俺が愛してやまないMy sweet honeyでな。ダチじゃねぇよ」



……何言ってんの、この人。
こんなの信じるわけないじゃん。
どう見ても私たちの間に漂う雰囲気は友達だし。


「えー彼女だったんだ」
「それじゃ、しょうがないよね」


そう言うと、女の子達は立ち去って行った。

信じちゃったよ。
なに? イケメンの言うことは聞くってか?
顔で信じるか信じないか決めるなんて悲しい時代だよ。

呆れて肩を抱かれたまま立ち尽くした。



……それより、暑いんだけど。
夏に抱き寄せられるとかほんと勘弁。


「もういいでしょーが、離れて」
「幸村が怒ってんのか?」
「え、幸村?」


私が離れて欲しいのは幸村がいるからじゃなくて、暑いからなんだけど。
なんてことは別に弁解する必要もないし、黙って政宗君の手を退けて幸村の方を見た。




「あ……」


そっぽ向いちゃってるよ。
ああやばいよ。
どうしよう。



「幸村……?」
『なんでござるか』
「怒ってる……?」
『怒っておらぬ』


短く答えて、そのまま何も話さなくなった。


この態度は拗ねてるか怒ってるかのどっちかだよね。


「どうしよう……」
「Ha! 予想通りjealousy感じてたか」


いつもの幸村だったら、嫉妬などしておらぬ!! なんて言って怒りそう。
けど、不機嫌な幸村の耳には届いてないのか、それとも無視してるのか、反応しなかった。




(幸村が楽しくないと楽しくない)
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