夢うつつ | ナノ





「幸村」



呼んでみても、返事どころか姿も見えない。

どこ行ったんだろ。もう三日も見てないけど……。


それに幸村がいなくなった三日は体調も悪いし……。
まあ、それは偶然だろうけど。


「んーなんか喉痛いな」


夏風邪ってやつ?
前兆だろうね、たぶん。
風邪薬飲まないと。



それより、幸村ってほんとどこ行ったんだろ。



「幸村、出てきてよ」


もうエアコンは直ったから良かったけど。
もし直ってなかったら、私死んでたよ。


周りを見渡しても、幸村は現れない。


「幸村……」

もうそろそろ顔見たいのに……。
なんで現れないんだろ。

やっぱり、私を助けられなかったことが悔しいのかな。
そんな気にする事でもないのに……。
私も怒ってないし。



「幸村」

……これだけ呼んでも来ないってことは、やっぱり今日も来ないんだろうね。

溜息をついて、部屋を出ようと後ろを向いた。


『……なまえ殿』
「っ、幸村!?」


振り向けば、幸村が悔しそうでそして、悲しそうな顔をして立っていた。


「もう来ないのかと思った」

ほっと胸を撫で下ろすと、幸村が膝をついた。


『すまぬ!!』
「え!?」

土下座!? 何で?
幸村が土下座してんの!?


「ちょっ、幸村!? 何してんの!」


顔あげなよ。と私も幸村の前に座った。


『某は、某は……!』


目に涙を溜めて顔を上げた。

なんで? なんで泣いてんの!?


『某が不甲斐ないばかりに、なまえ殿を危ない目に……!』
「え、違うって! あれは……」
『某は、無力だ。女子一人も護れぬ……』
「物質に触れられないんだから、そんなの仕方ないよ」


どうしたら分かってもらえるんだろう。
私はなんともなかったし、気にしてないのに。

「ほんと、大丈夫だから、ね?」
『……佐助や政宗殿が来なければ、と想像するだけで気が狂いそうになる』
「幸村……」


そんなに私のこと心配してくれてたんだ。
悲しい雰囲気なのに、なぜか心が温かくなった。


「気にしなくていいよ。私は大丈夫だから」
『気にする! 某は、某は……』


苦しそうに顔を顰めて、幸村は言った。



『某は、なまえ殿を護りたいのだ』
「っ!?」


なに言ってんのこの子。
こんな気障な台詞言って恥ずかしくないの?
こっちが赤面するよ、全く。


そうやって言いたいけど……どうしよう、すごい嬉しいかも。
私を護りたいって言ってくれるなんて……。




『故に、護れなんだことが悔しくて堪らぬ……!』


そんな風に思ってくれる人が居るなんて、私幸せ者だよ。


幸村が格好良くて、可愛くて、どうしようもなく抱き締めたい衝動に駆られた。
私はその衝動を素直に受け入れて、幸村を抱き締めた。


触れられないから、幸村をちゃんと包み込めているかを目で確認してすり抜けないよう、手を背中に回した。
ただ空気を抱き締めてるだけ。

感触はないけど、霊気で抱き締めたということが分かった。
それだけで心が温かくなった。



「幸村、ありがとう」
『なまえど、の……?』
「今度は、護って」
『しょ、承知した!』



幸村の声色が元気になって安心したから幸村に回した手を解いた。

もういいよね。
なんか雰囲気に流されて抱き締めことが恥ずかしくなってきた。
なに抱き締めてんだろ、自分。

幸村だって嫌だったかもしれないのに。


身体を離そうと、少し下がった。


『っ、なまえ殿!』
「なに?」
『あのっ……もう少しだけ……』


言い難そうに顔を真っ赤にして幸村は言った。


『もう少しだけ、抱き締めてくれぬか……?』


幸村の顔はトマトみたいに真っ赤になって、下を向いてしまった。

やばい。私の顔も絶対真っ赤だ。
このあつさは夏の気温だけじゃじゃない。


「……いいよ」
『真でござるか……!?』
「うん」


もう一度、幸村に近付いて抱き締めた。
相変わらず冷たいだけで感触はないけど、思わず口が緩んでしまう。


『なまえ殿に抱き締められると……その、安心するのだ』
「……なんで、そういうこと言うかな」
『む? 変なこと申したか?』
「ううん。こっちの話」


ほんと、私、きゅんきゅんしてる。
可愛いし、嬉しい。


今、幸村に顔見られたら、やばい。
赤すぎて心配されるかも。



ああ、もう。
幸村とこうやって離れられないのは、好きとかじゃない。
ただ引っ付いてると涼しいからなんだよ。



「幸村……」
『なんでござるか?』
「……なんでもないよ」



天然たらしに嵌りそうで怖いよ。



(気付き始めた)
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