夢うつつ | ナノ




「はいできたよ」
「ん、お母さんありがと」


くるりと回って確かめると、自分で言うのもなんだけど結構似合ってた。
うん。良い感じ。


「ほんとに友達と行くの?」
「うん。友達だけど?」
「彼氏は?」
「そんなのいないって。じゃ、行ってきます」


あはは、とだけ笑って私は鞄を手に取り下駄を履いたところでうずくまる。

「いたっ……」

なんだろう、頭痛いような……。


感じた激しい痛みは一瞬だけだったから大して気にせず、家を出た。



「幸村」

玄関を出て、名前を呼べば真っ赤な幸村が出てきた。
わ、ありえないほど顔赤いんだけど。


「幸村、どうしたの?」
『っ! な、何でもないでござる!』
「そう? じゃあ行こっか」
『う、うむ!!』



私たちは祭り会場へと歩みを進めた。







「んーどこから行こう?」

屋台とかいっぱいあって迷うなぁ。
人もいっぱいで、かなりに賑わってる。



「……幸村?」

とりあえず暑いし、かき氷が欲しいなと思って幸村に言おうと顔を向けたら、なんか沈んでた。
そういえば、人が多くなるに連れて静かになってるような……。

どうしたんだろう。
実は幽霊って人込みが苦手とか?


「気分悪いの?」
『い、いや、なんでもござらぬ! 早くなまえ殿の欲しいものを買いに行くでござる』
「うん。たこ焼きとかき氷買いに行こ」
「う、うむ! 承知した!」




はじめにかき氷を買って、次に焼きそばを買いに行った。
その間もなんか、幸村は無口で様子が変だった。
幸村の方を見れば、男が幸村を通り抜けた。


「うわっ、なんかここ寒くねぇ?」
「えーそう?気のせいでしょ」


そういえばさっきもこんな台詞聞いたかも。
もしかして、それが嫌だったとか?
うわー私ってほんと気が利かない女。


欲しいもの買ったし、さっさと人気のないようなところに行こう。



「幸村、行こ!」
『え、ど、どこにでござるか?』
「いい場所あるんだよね、こっち」


人の流れとは逆に歩いていく。
わ、超キツイ。
かなり流されそう。


ぶつかった人に謝ったり、謝られたりを繰り返して、やっと人込みを抜けられた。


『だ、大丈夫でござるか?』
「はぁ……ちょっと疲れたけど大丈夫。あ、いい場所ってここだよ」
『公園でござるか?』
「うん」


みんなは、頑張って花火に近付こうとするけど、少し離れたこの公園でも十分花火は見られる。
この公園、木とか民家とか周りにあんまりないからよく見えるし。
それに、ここは人気が少ないしね。


「大丈夫?」
『え、某でござるか!?』
「うん。すり抜けられたり、寒いとか言われるの嫌だったんでしょ?」
『いや、そんなこと思ってはおらぬが……』
「え? けどさっき無口だったじゃん。それに下も向いてたし……」


それが理由じゃないなら、なにが理由なんだろ。
それ以外のことなんて思いつかないんだけど。



『そ、それは……』
「ほかに理由あるの?」
『そ、某が普通に話せばまたなまえ殿は周りに変な目で見られるでござろう?』
「え、それ?」
『うむ。なまえ殿は気にするなと申したが、某はやはり嫌でござる』
「いいのに」
『しかし、スーパーでは気分が悪かったでござろう?』
「それは……」


確かにいい気分じゃなかったけど。
別に話してることには不快じゃないのに。
ちょっと通報されないか心配なだけで。


『それ故、なるべく人前では話さないでいると決めたでござる』
「……幸村がそこまで言うならいいけど」


なんか、結構真剣っぽいし。
私が別にいいってどんだけ言っても聞かないんだろうな。

まぁ、私のことを思って決めてくれたことなんだから悪い気もしないし、別にいっか。



『あ、あと……』
「まだあるの?」

なんか、今度は俯いたんだけど。
なに、言い難いことでもあんの?


『……なまえ殿、きょ、今日はう、美しいでござる……!』
「はっ!?」
『う、美し過ぎる故、下を向いていたのでござる』


な、なにそれ。
私が美しい!?
しかも過ぎるって言葉までまでつけるほど!?

なにを言ってんの!?


「そ、そんな褒め言葉どこで覚えたの」
『お、思ったことをそのまま申しただけでござる』
「っ!?」

こ、この子天然たらしっていうやつ!?

こんな女の子を喜ばせるようなテクニック持ってるなんて聞いてないんだけど!


「ちょ、ほんとそういうの軽々しく言わない方がいいよ」
『か、軽々しくなどではない! なまえ殿だからこそ申したでござる!』


ああもう! なにこの子!
どうしてそういう風に言うかな!?

絶対私の顔真っ赤だよ。
つーか、あんな台詞言ってた幸村も真っ赤ってどういうこと?

なんか恋人みたいだし。


「あー!!」
『ど、どうしたのだ!?』
「……恥ずかしい。顔冷やしたい」


こんなのって私じゃない。
お化けの事以外は私って、結構冷めてるはずだったのに。

幸村と会ってからなんかいろいろ変になったかもしれない。


くそー、仕返しだ。


「顔冷やすために胸かして!」
『なっ!?』


抱きつくことは出来ないから、幸村の胸に顔を寄せた。
感触はないけど、幸村の存在を証明する冷たい霊気が感じられて心地いい。


『そ、その……は、離れてくだされ……!』
「いや」


少しだけ甘い雰囲気になったかな。なんて柄にもなく思ってみたのにそれをブチ破るような輩がやってきた。


「ぎゃはははっ!」
「てめーそれはありえねぇって!!」



「……なにあれ」
『……祭りで騒いでる馬鹿でござろう』



むかつく。
なんでこういうときに来るかな。
いい雰囲気だったのに。

って、私なに考えてんの!?
別に幸村となんか……!

ちょっとしたあれだ、流されただけだ。
うん、絶対そうだ。




「あれって女の子じゃね?」
「お、まじだー。ナンパすっか?」
「しよーしよー」



……ここまで聞こえてるんですけど。
こんな大声でナンパ宣言されたら逃げるでしょ。
ふらとふら覚束ない足取りだから、多分かなり酔ってる。

まあ、酔ってるからこそ私にナンパするんだろうけど。


「幸村、移動しよっか」
『うむ』


立ち上がって、移動しようとすれば、男達がこっちに歩いてきた。

気持ち悪い。
さっさと移動しよ。

浴衣でしかも下駄だから走れないけど、できるだけ早足で男から離れるように歩く。
出口が一つしかないってのが最悪。

結局、男の近くを通らなければ出られないんだから。


「ねえねえ、俺達とあそぼー」
「なんで逃げんのー?」


てっきり酔ってんのかと思えば、素面っぽかった。
すぐに肩を掴まれた。

ああもう最悪。


『汚い手でなまえ殿に触れるな!!』
「聞こえてないって」
「誰と話してんの?」
「友達」



そうだ。いつものように幸村と話せば気持ち悪いって言ってどっか行くかもしれない。


「ねぇ、気持ち悪いよね」
『うむ。最低でござる』
「だよねー」

「は? マジで誰と話してんの?」
「幽霊の友達」
「幽霊?この子大丈夫か?」


よし、これでどっかに行く。
気持ち悪いって思いやがれ。


「あれだって。これが不思議ちゃんってやつじゃねぇ?」
「不思議ちゃん? ああ、そうかもな」
「不思議ちゃんなんて初めて扱うからよ、おもしろそうだな」


ええ!? なんでそういう風にとるわけ!?
やっぱり絶対酔ってるよ、酒臭いし。


「ってことで、俺達と遊ぼー」
「ちょっ! どういうこと!?」
「あはは、いいじゃん」
『離せ!! 触るな!!』
「ほんと、いやだって!!」


幸村が相手に殴りかかってる。
だから、霊気が漂ってて私みたいに慣れた人じゃなかったら不気味に感じるはずなのに。

やっぱり、こいつら酔ってて感覚神経が麻痺してる……!
だから、私みたいな女をナンパしてんだ。
もっと可愛い子だっているのになんで私なわけ!?

酔ってるからって、私はないでしょーが!


「離して!!」
「一緒に花火見るだけでいいからさー。ね、行こ!」
「そうそう。あと十分程で始まるし」
『貴様ら!! なまえ殿から離れろ!!』

ぐいぐいと引っ張られる。
どんだけ踏ん張っても男の力には勝てない。


「幸村っ!!」
『なまえ殿!!』


手を伸ばして届いても、幸村とは触れられなくて。
やばい。
どうしよう。こんな酔ってる奴らと花火なんか見たら、最後どっかに連れて行かれる……!
こんな漫画みたいなことが起こるなんて……!


「いやだっ! 助けて、幸村っ」



(触れられないもどかしさ)
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