夢うつつ | ナノ




客間らしき場所に通されると、ジュースが出てきた。


「じゃ、ここでジュースでも飲んで待ってて?」
「うん。佐助君はどこに行くの?」
「昼ごはん作りに行くよ」
「え、佐助君が作るの?」
「うん」

佐助君が作るなんて思っても見なかった。
おじいさんの奥さんが作るんじゃないんだ。
……主夫になんだ、佐助君は。
意外すぎる。てっきりおつかいを頼まれたと思ってたのに……。



「じゃ、テレビも好きに見て良いし」
「あ、うん」


出て行った佐助君を見て、オレンジジュースに口をつけた。


『佐助の飯は世界一でござる!』
「そうなんだ。なんか楽しみ」
『うむ! 期待して損はないでござる!!』


幸村がここまで押すんだから、よっぽどなんだろうな。


わくわくしてると、玄関から乱暴に引き戸が開いた音がした。

「Hey,邪魔するぜ!」
「邪魔するよー」
『こ、この声は……!』
「ん? 知り合い?」
『う、うむ……』


なんか、すごい嫌そうなんだけど。
仲悪いのかな。


「ちょ、なんでこんなタイミングに来るの!」
「Ah? こりゃ、女の靴じゃねぇか」
「お、佐助の好い人かい?」
「Really!? 見に行くぞ、慶次!」
「おうよ!」


なんて声が聞こえてきた。



「なんか、こっちに来そうな勢いなんだけど」
『むう……! なまえ殿、こちらでござる!』
「え、逃げるの!?」
『うむ! なまえ殿には会わせたくない!』
「おぉ? 分かった、逃げれば良いんでしょ?」
『うむ!』


しょうがない。昼ごはんまでの運動をしよう。
幸村が案内する場所に逃げるために、障子を開いた。


「うわっ!?」
「うおっ!?」


目の前には眼帯した男の人とポニーテルの男の人が立っていた。

「超鉢合わせなんですけど」
『まさかそちら来るとは……!』


なんか、悔しそうにしてる幸村。
どっちから来てるのかちゃんと把握して私を誘導して欲しかったな。
私、只の間抜けじゃん。


「これが佐助のgirl friendか」
「違います」
「ちょ、この子は大切なお客さんなんだってば!」
「Ah? 客?」
「そう、旦那の初めての女友達」
「Really!? 幸村の!?」


すごい驚かれてるよ。
どんだけ女の子と関わりなかったの。
初心だね、なんて思いながら幸村を見ると、本気で嫌がってた。


「幸村」
『な、なんでござるか』
「眉間にしわ寄ってる」
『はっ! す、すまぬ!!』
「あは、よっぽど嫌なんだね」
『なまえ殿には会わせたくなかったでござる』
「そっかー」

なんで私には合わせたくないんだろう。
よっぽど性格が合わなさそうとか。
ありそうかも。

笑ってると、何か視線を感じた。


「なまえちゃん、初めて会う人の前でそれしちゃだめでしょ」
「え、なにが?」


「おい女、誰と喋ってんだ?」
「あ」

またやっちゃった。

「どうしたんだい? そっちに何か見える?」
「えっと、幸村が見える」

ま、こんなこと言ってもまた佐助君みたいになるんだろうけど。


「……頭大丈夫か」
「政宗、女の子にそんなこと言っちゃあだめだろ」
「なら、テメーは信じんのか」
「……それは……」
『なまえ殿は正常でござる!! それをお主ら……! 許さぬ!!』


やっぱりね、そう言われると思った。

それに幸村、佐助のときはそんなに吠えなかったのに、今日はどうしたの。
かなり怒ってるけど。
よっぽど嫌いな相手なんだろうな。


「幸村、聞こえてないから。あと、信じないなら別に信じなくても良いから」


そう言うと同時に幸村は眼帯さんに近付いた。

「Why!?」
「どうしたんだい政宗?」
「いや、急に寒くなったよな」
「いや、別に普通だけど?」

「あ、それって旦那が近くにいる証拠だよ」
「佐助、お前も信じてんのか?」
「だって、証拠見せられたっていうか、感じたし。なまえちゃん、旦那ってどこにいる?」
「眼帯の人の目の前で腕振り上げてる」

「What!?」



そう言って眼帯さんは驚いて一歩下がった。
信じてんじゃん。
やっぱり人間って見えないものに怯えるんだね。


「幸村、もう良いよ。別に怒っても傷ついてもないし」
『そうでござるか?』
「うん。だからもう座ろ」
『なまえ殿が言うならば……』


私たちは机の周りに腰を下ろした。


「寒くなくなった……」
「政宗、本当に?」
「ああ」

「はぁ、じゃ俺様昼ごはん作ってくる」



佐助君が溜息をついて出て行くと二人は私の左右に座った。



「なあ、本当に幸村見えんのか?」
「うん」
「わ、霊能力者って奴?」
「そうじゃない?」
『なまえ殿のに近付いてはいけぬ! 破廉恥でござる!!』

なに焦ってんの。
どこが破廉恥なわけ?
基準がわかんないよ。


「幸村、落ち着いて」
「なに? 幸村が何か言ってる?」
「私に近付いたら破廉恥だって」
「Ha! 相変わらず意味の分かんねぇこと言ってんのか」


あ、信じたんだ。
案外早かったね。


「つか、本当に霊なんていたんだな」
「うん。俺も信じない派だったんだけど、今日で信じたよ」

「なあなまえ」


なんで私の名前知ってんの?
……あ、そういえば佐助君が私のこと呼んでたっけ。

なんか、慣れ慣れしいようにも感じるけどいっか。


「なに?」
「本当にお前は幸村のfriendか」
「え、そうだけど?」
「幸村の女じゃねぇのか?」
「あー俺も思った。あの初心な幸村が女の子といるなんて信じられないし。付き合ってるの?」

『な、何を申される!! はははは破廉恥ぃぃいい!!』
「うっさい幸村!!」
『あ、う……すまぬ……』


幸村の声量にはほんと、気をつけて欲しい。
脳みそ揺れるんだってば。


「いっつぅ……で、なんて言ってたっけ?」

こめかみをマッサージしながらもう一回とねだった。
なんて言ってたっけ?
幸村の大音量で内容が吹っ飛ばされた。


「なまえちゃんは幸村と付き合ってるの?」
「幸村と? 心配しなくて良いよ。ただの仲が良い友達だから」
『なまえ殿……』
「あれ、幸村どうしたの?」
『……何でもないでござる』


なんか、幸村が悔しそうで、意味が分からない。
この男二人と私が話してるの、そんなに気に食わない?


「今のは、きついな」
「うん。俺もそう言われたら傷つくよ」
「何が?」
「理解してねぇところがまた罪だ」


罪? そんなに酷いこと言ってたっけ。
なに言ったんだろ?


首を傾げて考えてると佐助君が入ってきた。


「はい、昼ごはんできたよ」
「Ah? 冷やしうどんかよ。もっと良いもん出せよな」
「あんた達が急に来るから仕方なく変えたんだよ」
「あらゆることに備えてないと完璧な主夫にはなれないぜー」
「なろうと思ってないから。なまえちゃんごめんね、こんな昼ごはんになって」
「冷やしうどんでも十分良いよ」



食べさせてもらえるだけでありがたいのに。
机に下ろされた冷やしうどんを取った。


「いただきます」
「はい、どうぞ」


ちゅるちゅるとうどんをめんつゆにつけてすする。
ん、おいしい。
そうめんばっかだったから、うどんっていうのも新しくていいかも。


「それよりさ、なんで来たの」
「何でって、そりゃ明後日のfestivalのためだろ」
「祭り? あ、そういえば花火大会だったよね」
「どうせ今年も女なんていねーんだろ」
「うっさいな。いないんじゃなくて作らないだけだって」



わーモテ男発言。
その気になればいくらでも作れるってわけね。


ま、ここにいる男はみんな格好良いし。
そりゃそうだろうね。



「来なよ! 祭りはいいよ!」
「そんなこと言ってもあんたらいっつもナンパに行くじゃん」
「それが醍醐味だろ?」
「醍醐味は花火なんだけどね」



ナンパしに祭りへ行ってるんだ。
そんな輩も多いだろうね。
話に入れない私は黙々とうどんをすする。


『わたあめにりんご飴、かき氷、たこ焼き、焼きそば……! 食いたいでござる!!』
「けど、味しないんじゃないの?」

『はっ!……不覚!! 味がないのであれば意味がないではないか!!』
「あはは、残念。本体に戻ったら好きなだけ食べなよ。私も付き合うし」
『真か! ありがたいでござる!!』
「うん」


本体に戻ったら、一緒に祭りに行っても良いかな。
幸村といったら食べ物ばかりで花火とか落ち着いて見られそうにもないけど。


「幸村はなんて言ってんだい?」
「んー屋台の食べ物が食べたいって。けど幽霊は食べても味しないから悔しがってる」
「へーそうか。幽霊は飯の味わかんねぇんだ」
「うん」



幽霊って便利ってときもあるけど、やっぱり不便なことの方が多いよね。



「あ、そうだなまえちゃんは来ないのか?」
「え、私? 一緒に行く人いないし、行かないかな」

それに、私が行ったら幸村もついて来るだろうし。
そうなったら、幸村だけ何も食べられない状態になったらかわいそうだからね。


「じゃあ、俺達と一緒に行こうよ」
「えーいいよ。どうせみんながナンパに行ったら私一人になっちゃうし」
「なに言ってんの! 女の子が来るなら話は別だよ! ナンパなんて中止中止!」

「えーけど……」



行きたくないってわけじゃないんだけど、私のせいでナンパが中止になるなんて悪く思っちゃうし。
それに幸村が……。


「ま、考えといて?」
「……うん」



決まったらメールしてと言われて、必然的にメアドを交換した。
そのついでにってことで、眼帯さんと佐助君とも交換した。



どうしよう。行こうかな。
ってか、行くならやっぱり浴衣だったりする?

なんて思いながら幸村を見ると、不機嫌そうに冷やしうどんの魂を取りだしてすすっていた。
味しないはずなのに、食べてる。




(拗ねちゃったよ、この子)
[ 10/23 ]
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