夢うつつ | ナノ




「あーあづいぃー……」


ほんと、こんな真夏にエアコンと扇風機が同時に潰れるとかありえない。
窓開けても風なんか入ってこないし。
蒸し焼きになるよ、ほんと。


幸村に近付いたら、なんか顔真っ赤にして逃げるし。



『……あの、大丈夫でござるか?』
「大丈夫じゃない。ってか、幸村は温度感じないから羨ましいよ」



涼しい顔して。
こっちは、汗ダラダラ流しながら団扇であおいでるのに。

どっか、涼みに行きたいー。
図書館にしようかな。
……だめだ。図書館は静かだから幸村と話してるのが目立つ。




「どっか、喋れて涼める場所しらない?」
『それならば、スーパーはどうでござるか?』
「あ! それ良い考え!」



そういや、チラシ見てたら今日は隣町のスーパーがセールとかだったよね。
うん。涼みに行くついでにアイスも買おう。


「スーパー行こっか」
『うむ!』


ということで、スーパーに行くことになった。











「おぉー涼しー」


スーパーの自動ドアが開けば、涼しい空気が私にぶつかった。
ここの冷気を私の家まで運びたいよ。


『やはり、人が多いでござるな』
「そうだね」


まあ、セールだから、お母さん方が買いに来てるんだろうからね。
それに今は夏休みだから、子供とかもお菓子買いに来てるかもしれないし。

アイスとか無くならないうちに買わないと。



「幸村はどんなアイス食べるー?」
『そ、某でござるか? 某は小豆か抹茶が良いでござる!』
「あー幸村ってそんな感じがするよ」


できるだけ小声で少し離れた幸村に話しながら歩いてると、アイス売り場に着いた。


「んー私はこれにしよっかなー」

かき氷を手にとった。
やっぱり、夏にはクリーム系よりもあっさりとした氷菓系だよねー。


『某は小豆に!』

そう言った幸村は小豆のかき氷に手を伸ばすと、当然の如くすり抜けた。
あ、そういえば幸村って物質に触れられないんだった……。


「食べられないね」
『む? なぜでござるか?』
「え、だって触れないじゃん」
『触れたでござるよ?』


そう言って幸村が差し出した手には、小豆のかき氷が乗っていた。

「え!? さっきすり抜けたじゃん」


……ってか、あれ?
なんか、かき氷も透けてない?

「もしかして、かき氷のお化け……?」
『そうでござる。某、生きているものは触れぬが、死しているものは魂を取り出して触れることができるでござる』
「え? けど小豆のかき氷は生きるも死ぬもないんじゃ……」
『小豆も植物でござるよ?』
「あ、そういうこと」


小豆もちゃんと生きてる時代があったってことか。
それにしても、魂を取り出せるなんて初めて知ったよ。
いままでご飯食べてるとこ見たことないし。


……そういえば、幸村っていつもご飯とかどうしてるんだろう


「ねえ、いつもご飯ってどこで食べてる?」
『食べておらぬが』
「え、食べてないの?」
『うむ。幽体離脱してから腹は空かぬ』
「そうなんだ。けどかき氷は食べるの?」
『う、うむ。久しぶりに甘い物が食べたくなったでござる』
「あはは、甘いもの、好きなんだ」


少し照れてる幸村を笑うと、肩を叩かれた。
あ、やば……一人で喋ってる変人だと思われた?


「ねえ、みんなから変質者だと思われてるよ?」
「え、や……あのっ、これは……」

追い出されると思って、恐る恐る振り向くと、見覚えのある顔だった。


「あ……佐助君……?」
『おお!佐助!』
「俺様の名前知ってたんだ」
「なんでここに?」
「そりゃ、セールだからいっぱい買わないとね」


専業主婦みたい。
夏休みだからおつかいでも頼まれたんだろうね。


「なまえちゃんだっけ?」
「え、うん」
「変な目で見られてるからはやく買うもの買って出た方が良いよ?」
「うそ」


周りに目をやると、ひそひそ言われてたり、小さな子供達が私をガン見してた。
わ、すごい……。
はやく行かないと、通報されそう。

つか、この頃通報って言葉よく口にするんだけど。
そんなに怪しい行動してるのかな、私って。



「俺様も会計しようと思ってたところだから一緒に行こ?」
「……うん」
『すまぬ、なまえ殿』
「あはは、もう慣れたから別に良いよ」



そう言ってできるだけ早足でレジに向かい、会計を済ませた。
さっさと店の外にでて、人気の少ないベンチに座った。

店の中で涼んでたかったけど、変な目で見られてたから、落ち着けないし。
それより、さっきから幸村の態度が気になる。
いつもみたいな挙動不審ってわけじゃないけど、なんか距離置いてるような。


「ね、なんで離れて座るのさ」
『え!? 離れておらぬが……!?』
「目、泳いでる。なに考えてるか知れないけど、さっきから思ってたんだけど、なんで歩いてる時も離れてんの?」
『なまえ殿の気のせいでは!?』
「ふーん。ま、話したくないなら良いけど」


別に問い詰めてまで訊こうなんて思ってないし。
どうせ、しょうもないことだろうしね。





「それより、あつい……」


佐助君がここで待ってろって言われてたから待ってるけど、早くしてくれないかなー。
まあ、結構レジ並んでたし、佐助君の買う量が半端なかったから結構時間掛かるだろうな。


なんて思いながらアイスを食べる。


「幸村、おいしい?」
『……味がしないでござる』
「アイスのお化けだから、味はしないんじゃない?」
『うう……そうなのか……』
「まあまあ、はやく本体に戻っていっぱい食べたら?」
『そうでござるな……』


そこまで落ち込まなくても、と慰めようと思ったけど、私も好きな食べ物が食べても味しなかったら、落ち込むだろうから言わなかった。
幸村は顔を顰めながら、私はおいしくアイスを完食した。



「お待たせー」
「あ、佐助君。すごい荷物だね」
「そう、安いからってついつい買いすぎたよ」
「一個持とうか?」
「あ、ほんと?ありがとー」


そう言って、五つあるうちの多分一番軽い物をくれた。

『某も持てればよいのだが……』
「しょうがないよ。通り抜けちゃうんだし」
『……女子に荷物を持たせて、某はのうのうと歩くなど、男の恥!!』
「いや、そこまでじゃないと思うけど」


くそう! なんて言って悔しがってる幸村を見て苦笑いしか出来ない。


「なに? 旦那、なんて言ってるの?」
「女の子に荷物持たせて自分は持たないのって男の恥なんだって」
「あはは、旦那言いそうそれ」
『笑うな佐助!』


幸村は怒ってるけど、佐助君には聞こえてないから笑ってる。
声が聞こえないって大変だね。


「あ、そうだ」
「なに?」
「お昼ごはん一緒にどう?」
「え? いいの?」
「荷物持ってくれたし、ご馳走するよ」
「幸村、行く?」
『うむ! お館様にお会いしたいでござる!!』
「幸村も行くってさ」
「じゃ、行こうか」


今日はお母さんいないから昼ごはんどうしようって困ってたんだよね。
荷物持つだけで昼ごはん浮くなんてほんとラッキー。

出来れば、今日も幸村に幽体離脱〜ってやってもらおう。
多分無理だけど。




(拒絶からの歓迎)
[ 9/23 ]
[*prev] [→#]
[戻る]
×