夢うつつ | ナノ




「ありえないでしょ……?」


なんで? なんで?
動いてよ!!
私にはこれがないと死んじゃうのに……!


「何でエアコン潰れるの!?」
『……仕方ないでござるよ。エアコンも寿命なのだろう』

「いくらなんでも家中のエアコンが一日で全部潰れるってある!?」
『あまり聞いたことがないでござるな……』
「つか、なんでそんなに涼しい顔してんの!?」
『某は温度を感じぬ故』
「え、うそ」


幸村には猛暑だろうが極寒だろうが関係ないってこと?
ずるい! そんなの不平等じゃん。

私は今日、寝苦しい思いしないといけないのに、幸村はのうのうといつも通りに寝られるなんて……。


「今日、絶対眠れない」
『氷枕があるではござるよ』
「そんなのしたって眠れない!!」
『すぐに慣れるでござるよ』
「現代っ子を舐めるなぁ!」


うう……寝たいのに寝られないなんて信じられない。
しかも、明後日にしか修理に来てくれないし。
ありえないー。



「……どうしよう」
『文句を言っても、エアコンは直らないでござるよ』
「そうだけど……」
『夏の気温を体感するのも良い機会でござるよ』
「そんなぁ……」

『では某はもう行くでござる』
「……おやすみ」
『いい夢を見てくだされ』


そう言って幸村は出て行った。
いつも女子の部屋へ深夜に邪魔をするなど破廉恥!! なんて言って出て行くけど、今日ぐらい一緒に付き合ってくれてもいいのに。
どうせ、私は寝られないんだから別に破廉恥でも何でもないのに。


……悩んでも仕方ないし、がんばろう。



ベッドに寝転んで、目を瞑って寝られるように頑張る。




暑い。
セミうるさい。
風ない。
汗流れる。
車のライトうざい。




普段なら思わないような些細な事まで気になって仕方ない。




「……眠れない」


むりむり、熱中症で死んじゃう。
幸村と喋って寝るまでそばにいてもらおう。
いつか疲れて寝るかもしれないし。



「幸村?」
『何でござるか?』

呼べば、窓からにゅっと首だけ出してきた。
はじめは心臓止まるぐらいびびってたけど、毎日繰り返されるからいい加減慣れたよ。


「私が寝るまで喋ろ」
『このような深夜に男女が話し込むなど……!』
「破廉恥でござる?」
『う、うむ……』


未だに首だけを出してる幸村。
部屋にさえ入れてしまえばこっちのもんだし。


「はやく全身入って来なよ」
『うう、断るでござる』
「はやく」


手を伸ばして手招きした時に偶然頭に触れた。
触れたところがひんやりと冷たい。

そういえば、幸村は幽霊だから冷たいんだった。


「ちょ、お願い! 少しだけで良いから入ってきて!」
『……ほんの少しだけでござるよ……』


そう顔を赤らめながら不服そうに部屋の中に入って、ベッドの横に座った。


「こっちじゃなくて、こっち」


端につめて、空いたベッドのスペースをぽんぽんと叩いた。
幸村と引っ付いて寝たらよく寝られそう。


『なななっ!? そ、そのようなこと……!』
「いいから、いいから。親睦を深めると思ってさ」
『ふふ深めすぎでござる!!』

真っ赤な顔をして、後ずさった。
うろたえすぎでしょ。


「なに想像してんの。幽霊と人間でどうこうなるわけないじゃん」
『う……』
「さ、はやく」
『うう……しかし……』
「はやく」
『わ、分かったでござる』


少しきつく言えば、困ったように頷いて、私の隣に寝そべった。
幸村に寄り添うと、霊気でひんやりとした。


「わー気持ちいー」
『っ、あ……う……』
「そんな固まらなくても。くつろいでいいよ」
『でで、できぬ……!』


硬直して一本の棒みたい。
人間だったらその体勢をずっとしてたら疲れるけど、幽霊だし、大丈夫だよね。


「寝られそう……」
『な、そ某はどうすれば……!?』
「涼しくなったらどっか行って良いよ」
『某、気温変化を感じとれぬ!』
「へぇ……」
『ね、寝ないで下され!!』
「……すー……」
『なまえ殿!?』


幸村の悲痛な叫び声が聞こえた気がした。




++++

幸村side



ど、どうすればよいのだ!?
なまえ殿が俺に寄り添って……!


あ、う……俺は、いつここから離れて良いのか分からぬ!!


本当になまえ殿には俺と性別が違うことを分かっていただきたい!
もし俺がなまえ殿に触れることが出来れば、俺は……!


っ!? 俺は何を考えている!
……政宗殿ではあるまいし!!


俺は断じて政宗殿みたいな歩く破廉恥ではない!


そう思っていても視線はなまえ殿の唇へ向かってしまう。

……!!
感触がなかった故、気付かなんだが……。

なまえ殿の唇が俺の肩に当たっておる……!


『……は、破廉恥っ!』


これ以上なまえ殿の近くにいれば、政宗殿と同類になってしまう!!
離れなければ……!

危険を察知し、離れようとすれば、なまえ殿の寝顔が目に入った。



『っ……』



……そ、そのように気持ち良さそうな顔をされては離れ難いではないか!
寝顔ごときで離れられなくなるなど……!




『……も、もう少しだけ』


……まだ、暑いだろう。
もし離れてはなまえ殿に叱られてしまう。
それ故、まだ離れぬのだ。


…………俺は一体誰を説得しておるのだ?


誰に。と言っても心の中で話しておるのだ。俺しかありえぬ。
自分に言い訳をするなど、男の恥なり!!




『……叱ってくだされ……お館様……』



(俺は、やはり政宗殿と同類なのか)
[ 8/23 ]
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