障子を開けると、眠ってる幸村がいた。 「うわ、透けてない幸村だ」 『おお! 久しぶりでござる!!』 近付いて、隣に座ると寝息が聞こえた。 「普通に寝てるみたい」 『魂が無いだけで、身体の各器官は働いたままでござるから』 「そっか。じゃあさ、一回重なってみたら?」 『身体にでござるか?』 「うん」 もしかしたらそのまま中には入れるかもしれないし。 「どうしたらいい?」 『そ、そのっ……なまえ殿は本体の手を握ってくだされ』 「うん、わかった」 私が本体の手を握ると、幸村は真っ赤になった。 何赤くなってんの? なにか恥ずかしいことでもあった? 「どうしたの」 『ななななんでもないでござる!!』 「……ま、早く重なりなよ」 『わ、分かったでござる』 何想像してるのか分からないけど、しょうもないような理由だろうな。 目を本体に移すと、幸村は慌てたように上に重なった。 お、完全に重なって、魂が見えなくなった。 これ、戻ったんじゃないの? 「幸村、起き上がってみなよ」 『承知!!』 なんて言って幸村が起き上がると、魂だけだった。 うわ、失敗。 ってか、今の体勢……。 「あははっ!」 『な、何がおかしいのでござるか!?』 「あのさ、今の体勢ってどっかの双子じゃん!」 幽体離脱〜なんてやってるぽちゃっとしてる芸人みたい。 ま、こっちはネタじゃなくてリアル幽体離脱だけど。 大声で笑えば幸村が慌てて否定した。 『そ、某はあんなに太っておらぬ!』 「似てるのは体勢だけだって……ぷはっ」 『笑わないで下され!!』 「ごめんって! あはは」 『言ってることと、してることが違うでござる!!』 あ、怒った。 さっきとは違う風に真っ赤になってる。 これ以上したら、消えちゃうかも知んないし、ここまでかな。 「もうほんとに笑わないから」 『顔が笑っておる』 幸村がいじけて、幽体離脱〜の状態をやめた。 普通に私の向かい側に座ったらおもしろく無いじゃん。 なんて思ったけど、それを言えば余計に怒るからぐっと押し込んだ。 「ごめんごめん。ほんと笑わない」 『ほんとでござるか』 「うん」 『……ならば許すでござる』 うん。心の広い子でよかったよ。 笑いを堪えてると、廊下から声が聞こえた。 「入るよ」 「あ、うん」 わ、佐助君だ。 ってか、佐助君って呼んで良いのかな。 本人に聞けば、絶対いやって言われるだろうな。 障子が開けばお盆にお茶を乗せたぶすっとした佐助君が立っていた。 よっぽど私が気に食わないんだろうな。 「さっき、笑い声が聞こえたんだけど」 「ああ、あれは幸村が芸人みたいに幽体離脱〜なんてやったから思わず笑っちゃって」 『某はやったつもりはないでござる! なまえ殿が勝手に……!』 「はいはい。やっぱさっきの取り消して、幸村がやったんじゃなくて偶然ああいう体勢になったんだ」 「ふーん。それ今旦那が言ったの?」 「うん」 そう言うと、佐助君は怪訝な顔つきになった。 何回見たかな、この表情。 なんて思ってると、お茶。なんて不愛想に私にお茶を差し出した。 うん。夏に熱いお茶持ってくるなんて、よっぽど嫌われてるね私。 あははー湯気がはんぱない。 「あ、ありがとう……」 ちゃんと笑えてるかな。 なんか、顔がひくひくするけどとつり上げられてる感じがするけど、気にしないでおこう。 「で、霊の旦那はどこにいるの」 「幸村は布団はさんで私の前に座ってる」 『佐助! 某はここでござる!』 「……見えない」 そう佐助が言えば、がくりと幸村の肩が落ちた。 かわいそうに。 まあ、霊感が無いんだからしかたないよね。 「あのさ、私のことまだ信じてない?」 「うん」 即答なんだ。 うん、予想はしてたから傷つかないよ。 どうしたら、信じてもらえるかな。 「説得されても証拠無かったら俺様信じないから」 「そうだよね」 うーん。信じられる証拠は……。 ……あ、そうだ。 「幸村、ちょっと触るよ」 『む?良いでござるが、触れぬのでは?』 「大丈夫」 そう言って、私は幸村のお腹に手を突っ込んだ。 やっぱり、幸村と約束の握手しようしたときに感じたのは幸村の温度だったんだ。 触れられはしないけど、ひんやりと冷たい。 これが幸村の存在してる証拠だ。 「ねえ、ちょっと手貸して」 「……いいけど」 佐助君の了承を得て、差し出された右手を手に取った。 そして、幸村のおなかに佐助君の手をやると、佐助君の手が震えた。 手を引っ込めたあと佐助君は手を開いたり閉じたりして驚いてた。 「え、なんで……ここだけ冷たいの」 「これ、幸村がいる証拠。よくテレビのお化け特集とかで、お化けのいる場所は気温が低いって言うでしょ?」 「うん。確かにそんなこと言ってたかも……」 「私なりの推測だけど、それは霊に触れてるからだと思うんだよね」 「だから、この冷たいのは旦那がいるっていう証拠ってこと?」 「うん」 これで信じてもらえるかな。 ……けどありえないほど疑り深い人だから、もう一回証拠見せとこう。 「幸村、私の横に来て」 『うむ』 幸村が佐助君とは反対の私の隣に座ったのを確認して、もう一度佐助君の手を幸村がさっきいたところにやった。 「あ、れ……? 普通……」 「私の隣に手をやってみて」 佐助君は私に言われるがまま私の隣の幸村に手をかざした。 「冷たい……」 「これで信じた?」 「……これって、信じるしかないかも……」 良かった。 やっと信じてもらえた……。 佐助君、ちょっと驚きすぎて放心状態だけど。 『流石でござるなまえ殿』 「でしょ?」 『……佐助は大丈夫なのだろうか』 「ちょっとびっくりしてるだけだよ」 もうすぐしたら普通の佐助君に戻るかななんて思いながら熱いお茶を飲んだ。 わ、あっちい。 「旦那……?」 『なんだ』 「ここにいるんだよね?」 『ああ』 「旦那、いつ戻ってくるの?」 『…………分からぬ』 「分からないよね」 佐助君には聞こえないはずなのに、話が噛み合ってるんだけど。 「俺様、旦那が帰ってくるの待ってるから」 『……ああ』 すごいね。これぞ兄弟であり大親友だよ。 幸村なんか、うるうるきてるし。 ここは親友二人にした方が良いのかな。 まあ、佐助君には幸村が見えないし聞こえないけど。 なんて思いながら、部屋を見渡すと時計が目にはいった。 四時半……って、あ……お母さんに五時には帰ってきなさいって言われたんだった。 やば、もうそろそろ帰らないと。 「幸村、私もう帰らないと」 『そういえば母上殿が五時に帰ってこいと言われてたでござるな』 「うん。別に幸村は後で帰ってきても良いよ?」 『いえ、某も一緒に帰るでござる』 「そっか。じゃあ私帰るね」 「うん。そうだ、旦那なんて言ったの?」 立ち上がって廊下を歩きながら喋る。 佐助君が隣を歩くなんて、さっきじゃありえなかったよ。 「私と一緒に帰るって」 「そうなんだ。あの女の子が苦手な旦那が女の子の家に一緒に帰るなんて……」 『さ、佐助!! 何を言っておる!!』 そういえば門のところで苦手って言ってたよね。 そんな子が女の子の私と同じところに帰るなんて、意外だよね。 けど、この子ただ私を女として見てないだけだから。 「あは、あんた、旦那の……」 『わああああああああ!!』 「ちょっ! 幸村うるさい!!」 「あ、言っちゃだめだよね。ごめん聞かなかったことにして」 「なになに? わかんないんだけど」 「それならそれでいいよ」 佐助君はなんか楽しそうに笑ってるし。 それより、うるさいよ幸村。 あんたの声は脳内に直接くるから頭ぐらぐらするんだよね。 しかも、脳から耳に響いて、耳痛くなるんだから。 自重して欲しいよ。 玄関で靴を履きながらそう思う。 「お邪魔しました」 「また、暇な日に来て良いよ」 「ほんと? じゃあまた来る」 おお! 信用されてる! 佐助君変わりように感動してると、おじいさんが来てくれた。 「なんじゃ、もう帰るのか」 「はい。用事があるんで」 「そうか。……幸村は、どこにおる」 「私の右隣です」 「おお、そこか」 おじいさんは、私の右隣に目をやった。 見えてないはずだけど、すごい幸村と目が合ってる。 「幸村よ」 『な、何でございましょう!』 「いつか自分の身体に戻って来い。それまでのお前の身体はわしらに任せておけ」 「っ、はい!!」 幸村はまた感動のあまり目が潤んでる。 「行こっか、幸村」 『う、うむ!』 「じゃあ、失礼します」 「また遊びに来い」 「はい」 二人に背を向けて歩き出した。 ほんとは幸村、ここに残りたいんじゃないのかな。 あと、もう一言おじいさんが言えば、涙腺崩壊しそうだよ。 なんて思うと、おじいさんが口を開いた。 「幸村、わしらはお前が戻ってくるまで、待っておるからな。安心せい」 『うっ……ふっ、くっ……!お、お、おやかたさばぁ……!』 「幸村……」 涙腺崩壊しちゃったよ。 霊なのに涙ぼろぼろ流してるし。 「幸村、泣いてます」 「しっかりせい! 男が泣くではない!」 『ず、ずびばぜん!! このゆぎむら、精進いだじまず!!』 「精進したしますと」 「そうか! 男らしくなって帰って来い!」 『はいっ……!!』 見えてないはずなに、二人がほほ笑みあった。 この人達のためにも、はやく幸村が本体に戻れるように私も頑張らないと。 (改めて信頼しあうと誓った) [戻る] ×
|