夢うつつ | ナノ




「ねぇ、幸村の本体が見たいんだけど」

夏休み中暇だった私のこの一言で、幸村の本体を見に行くため、ほんの二駅ほど旅することになった。








「うわぁ家でかー。幸村の家ってお金持ちなんだ」
『いや、正確に言うと某はこの武田家の里子でござる』
「え? この家の子じゃないの?」
『うむ。両親は事故で亡くしてしまっため、昔から交流が深かった武田家に預かってもらっておる』
「そうなんだ。それより、この家に私って入れてもらえるの?」
『大丈夫でござる! 武田家はみな心優しいのだ!』


こんだけ豪華な家なんだから警備とかいろいろ厳しいのかと思ったけど、幸村の自信をみれば本当に大丈夫なんだろう。
幸村が事故する前は顔も見たことないいような他人が家の中に入れてもらえるのか不安だったんだけど。


「じゃ、押すね」
『うむ』


インターホンを押すと、男の人の明るい声が聞こえてきた。

「はーい。……どちら様」

あれ? はじめ明るかったのに、ドアを門を少し開けて私の顔見たとたんに無表情になったんだけど。 
なに? 私怪しかったっけ?
インターホン押してから幸村とは話してないけど。


「幸村の友達のみょうじなまえですけど」
「なんの用ですか」
「幸村の様子を見に……」
「結構です」
「え? え……ちょまっ……」


私の声を全部聞かず、門を閉めてしまった。
うそん。なにそれ。
かなり冷たかったけど?優しさの欠片も無かったよ?


「どういうこと? これ」
『むう。どうしたのだ佐助。いつもはもっと陽気なはずなのだが』

 
陽気? どう見てもありえないっしょ。
氷のような目で見られたけど。



まあ、今まで見たことないような人間がいきなり仮でも家族に会いに来たなんて信じられないよね。
しかも植物人間っていう大変な状態だし。


「ねえ、佐助って人は幸村の仮兄弟にあたるの?」
『某も佐助も里子で養子縁組を組んでおらぬ上正式には違うが、佐助は一番の友であり兄弟のようなものでござる!』
「電車で見たっていう友達も佐助って人?」
「うむ!!」


 佐助は某のことを一番よく知っておる最高の友でござる。なんて良い笑顔で自慢する。
 良い友達を持ったんだね。



「……って、そうじゃなくて、本体を見れないじゃん」
『あ……』
「どうすんのさあ。電車賃無駄になったじゃん」


 幸村の家は学校と反対方向だから定期使えないし。
 無駄足踏んだよ、ほんと。


『しし心配いりませぬ!』
「無理でしょ。あんだけ拒否されたんだから」
『某に良い考えがある』
「なに?」
『これから某の言うことを出来るだけ大きな声で復唱してくだされ』
「うん? まあ、別にいいけど」


幸村のしたいことはよく分からないけど、とりあえずやってみよう。
もしこれで中には入れたら儲けもんだし。 



『佐助はカエルが苦手だ』
「佐助はカエルが苦手だ!!」

『佐助は母という言葉に敏感』
「佐助は母という言葉に敏感!!」

『佐助は罰ゲームでチャイナ服を着たことがある』
「佐助は罰ゲームでチャイナ服を着たことがある!!」

『佐助の尻には三つ並んだほくろがある』
「佐助の尻には三つなら……」


言おうとすれば、左側の門の扉が勢いよく開いた。
わ、もし開いた門が右側だったら私の顔面直撃だったよ。
危ない危ない。


「あんた、どこでそのこと知った」


今まで叫んでた言葉って全部本当なんだ。

「いや、幸村に聞いた」
「あんた、ほんとに旦那の友達?」

旦那って幸村のことだよね。

「うん」
「俺様、旦那の友達は全員把握してるんだけどさ、女の友達なんて一人も居ないんだけど」
「え、そうなの?」
『う、うむ……女子と話すのは恥ずかしく……』
「ふーん」


私も一応女子なんだけどな。
なんで恥ずかしがらないわけ?

うーん。完全に女の扱いうけてないよ。


「誰と話してんの」
「え!? あ、いや……言って良いのかな、これ」
『いいでござるよ』
「ん。じゃあ言うよ」

幸村の了承を得たから、佐助っていう人のほうを見ると頭おかしい奴を見るような目だった。
あ、やば。
この人には幸村見えてないんだった。


「えっと、幸村と話してた」
「は? アンタ大丈夫? 旦那は今意識無いんだよ?」
「うん。けど、幸村は生霊として今ここにいてる」
「……病院行ったほうが良いよ」

 
あーあ。すごい哀れみの目で見られたよ。
嘘ついてないのにな。

まあ、私も幸村と出会う前だったら信じなかったし。
しょうがないか。



「ほんとだって。どう説明すれば良いかな」
「別にいいよ。ほんと良い病院紹介するから帰って」


溜息つかれた。
ほんと、どうしよう。
この人、信じる気ないし。


……あれ?この人なんか、門閉めようとしてる?


「え、ちょ……待って!」
「はいはい、旦那のこと好きなのはよく分かったよ」
「は?」
『は!?』
「旦那に会いたいんだろうけど、もう少しマシな冗談良いなよ。俺様も暇じゃないんだよね」


なに?何言ってんのこの人。
なんか幸村、真っ赤になってるし。

「なに勘違いしてんの?違うんだけど。ほんとなんだって」
「はぁ、ストーカーもいい加減にしてよ。帰らないと通報するけど」


やばいって、違うのに。
しかもかなりの勘違いしてる!


「いやいや、さっきあんたの秘密言ってたじゃん!」
「……どっかで調べたんじゃないの? ……ほんと、脱帽したいぐらい最低だね」


軽蔑されてるよ私。
あんたの一番の友達であり、兄弟でもある子を助けようとしてるのに。


「待って待って! じゃあ今から、あんたと幸村しか知らないこと言うから!」
「別に言わなくて良いよ」
「じゃあ、どうしたら信じてくれるのさ」
「俺様自分で確かめられる物しか信じない主義なんだよね。だから信じられない」
「じゃあ、信じなくても良いから中に入れてよ」 
「信じられない人を中に入れるほど俺様は無用心じゃないんだよね」


それって私を入れる気はさらさらないってこと?
うわー超骨折り損。


「じゃ、さよならー」 


そう軽く言われて、門が閉まった。





『昔から疑り深いのは知っていたが、まさかここまでとは……』
「あーあ。あの人どれだけ証拠見せても入れる気ないよ」
『どうしたのだ佐助は……』


幸村にはああいう風に接した事ないのかな。
知り合いの人は優しく接するんだろうね。


「はぁ……」


もうここにいても仕方ないしね……。
「……帰ろっか」
『うむ。……すまぬ、なまえ殿』
「いいよ、幸村は悪くないんだから」


駅の方に歩を進めようと思えば、後ろから声がした。


「……そなた、今幸村と言いおったのか?」
「え?」


振り向けば、つるっぱげな大きなおじいさんが立っていた。



(……幸村、なんでそんなに目を輝かせてんの?)
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