BULLY | ナノ





ホグワーツの劣等生で、リリーとセブルス以外の全校生徒から馬鹿にされている私だが、すべての授業が最下位というわけではない。




「よくなまえは魔法史の授業を起きてられるわね」



リリーはその言葉が魔法史の授業が終わってからの常套句となった。

魔法史の担当であるゴーストのビンズ教授は教科書の内容を単調に読んでくれる。
そのため文字を目で追いやすく、ゆったりとした話口調なので聞き取りやすい。
唯一私が理解できる授業なのだ。

もともと魔法の歴史には興味があったため魔法史は私が楽しみにする授業のひとつになった。

リリー曰はく、単調な読み方は眠気を誘うらしいが私は理解できるため楽しくて仕方なかった。



「なまえは魔法薬学もなかなかいい線を行ってると思うぞ」



セブルスがそう褒めてくれた。
スラグホーン先生は予習してくる為に次の授業で作る魔法薬を教えてくれる。
作り方は教科書に載っているため事前に私はセブルスに聞いてレシピを熟読して理解して授業に臨む。
それに、細々とした作業は日本人の私に向いているらしく、大きな失敗をしたことはない。
可もなく不可もなくの魔法薬をいつも完成させている。






セブルスは気難しいから褒められることはなかなかない。
嬉しくて思わず口角が上がった。
私のその時の表情は随分緩んでいたことだろう。

セブルスにお礼を言うとリリーが抱きついてきた。
私はもっと笑ったほうがいいと言ってくれた。
笑った顔をみんなに見せたら私の印象はもっと変わると言う。
私の表情は無がスタンダードだ。

こんな、人間の汚い部分が多く見えるこの場所でにこやかになんてできるわけがなかった。


私の目は普通の感情でただ見ているだけでも睨んでるように見えるらしい。
私の目つきが悪いのではない。
そりゃ西洋人のパッチリおめめから比べたら私の目は細くて目つきが悪く見えるだろう。
これでも日本では中の上の大きさだったのにだ。
西洋人からしたら糸のように見えるんだろう。



「私にはリリーとセブルスがいてくれるだけでいいから」




それが私の口癖だった。
本心だった。
本当に二人さえ居てくれれば、ふたりが笑ってくれてさえいればそれでよかった。





「インカーセラス!」



だからこそ、許せなかった。



二人から笑顔を奪う存在だけは。






セブルスが倒れた。
セブルスの足を見れば紐が巻きついていて、両足が縛られていた。



反射で呪文が飛んできた方を見るとろうかに並ぶ四人組。




「ポッター!!」



リリーの顔が怒りで赤くなった。
セブルスも腕で起き上がって悔しそうに睨みつけた。





「やあ、エヴァンズ!」
「何が"やあ"よ! 私たちに構わないで!」
「そうはいかないさ! 君がふさわしくない連中とつるんでいるのは見ていられないんだ」



ポッターたちはリリーに気があるらしい。セブルスに聞いた。
そんなポッターは私たちのような嫌われ者がリリーに近づくのが許せないらしかった。
そのためことあるごとに私たちをリリーの前で馬鹿にしてきた。


しかし、杖を出してきたのはこれが初めてだった。


セブルスの手のひらを見ると擦りむいて血が滲んでいた。




「こんな東洋人の出来損ないと陰険根暗のスニベルスなんかと君はいるべきじゃない! そうだろうシリウス」
「ああ、お前の評判落とすだけだぞ」


ニヤニヤと嫌な笑みを向けてくる。


「黙れ! ペトリフィカス・トタルス!!」



怒りで咄嗟に杖を出したセブルスはポッターに向けて呪文を放った。
しかし、足が縛られて体勢が悪かったからか呪文はポッターではなく、隣にいたぺティグリューに当たった。
呪文が当たったぺティグリューは石のように固まり、後ろに倒れた。



「てめえ! インカーセラス!」


キレたブラックはセブルスの口を紐で縛った。


「やめなさいって言ってるでしょう!」


リリーが怒鳴りつける。
呪文をかけられた反動で倒れてしまったセブルスに無事かどうか確かめると、口を縛る紐が鼻にも回っているようで息がしづらそうだった。



呪文を終わらせる呪文はなんだったっけ。
そんなの習ってない。
どうすればセブルスを救える。


頭の中でぐるぐると考えても答えは出なかった。
どうせ私が呪文を唱えたところで上手く発音できないからセブルスを助けられない。
劣等生の私は何も、何もできない。
強い奴になんか勝てるわけないんだ。






「地面に這いつくばってるのがお似合いだね、泣きみそスニベルス」




クスクスと笑いながらセブルスを見下した。




頭に血が上った。
何が強い奴に勝てない、だ。
私は弱きを守る立場でいると決めたじゃないか。
勝てないからといって、諦めるわけには行かない。
大切なものは守りたい。






「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!」


咄嗟に杖を出していた。




「うわっ!」
「なまえ! あなた……!」




ポッターとブラックが浮いていた。
リリーが隣で驚いているのがわかった。



「てめえ、下ろせ!」



ブラックが叫ぶ。


人が違う国の言語を覚える時にまずは、自己紹介や挨拶を覚える。
その次には大体、悪い言葉を覚えるのが定石だ。

私も例外ではなかった。






「黙れ、腐れ童貞共」





「なっ!」

どこで覚えたかなんて覚えてないけど、気づいたらこの言葉が口走っていた。


浮遊呪文が解け、二人は背中から落ちてうめき声をあげた。
リリーにセブルスの呪いを解いてもらってポッター達に背を向けて歩き出した。




曲がり角を曲がった時リリーが大笑いした。


「あなた最高よ! 見た? あいつらの顔!」
「くくっ、そうだな」


セブルスも肩を震わして笑っている。


「それに! 今まで一度も成功しなかったのにできたじゃない! 浮遊呪文!」



リリーが興奮したように私に抱きつく。
私もいまだ手に握られた杖を見て、初めて自分の手が震えていることがわかった。

できた。今まで何も浮かすことができなかったのに。
初めて自分の魔力で浮かせることができた。
初めて上手く呪文の発音ができた。



初めての授業で習った浮遊呪文が9ヶ月を経て、1年生の6月に使えるようになったのだ。
そのことに私は興奮で感情が爆発しそうだった。



(これからの地獄を知らずに)
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