BULLY | ナノ



上手く英語が発音できなくて、喋ることが怖くなった私は自然と口数が減った。
一日で話すのはリリーとセブルスだけだった。


そんな私はまったくもって成長するわけもなく。


いつまでたっても話せない。
リリーとセブルスが教えてくれるおかげでゆっくりであれば聞き取りはできるようになった。
書き取りもレポートを出せば、先生が添削してくれるし、二人以外と話すことがない私は自然と本の虫になったため、読み書きが徐々にできるようにはなった。それでも英和辞書と文法書は手放せないが。


一番の問題はスピーキングだった。
どうしても日本人では難しい発音が多く、人と話すことを拒んでいた私は上達する訳もなくいつまでもカタコトのままだった。

そのため一番の苦手科目は妖精の呪文と変身術だった。
浮遊呪文が全くできなかった。
どれだけ出来の悪い子でも授業の終わりには数センチだけでも飛ばせることができるのに、わたしの羽はピクリとも動かなかった。


周りのみんなは馬鹿にしたように私を嘲笑い、フリットウィック先生も困ったように眉を下げていた。
リリーだけは唯一励ましてくれた。


この二つの授業の時間が来るたびに私は憂鬱で仕方なかった。


この授業で余計に私は口を開くことが怖くなった。


私が何かを発すればみんなが笑っている気がしてならなかった。
みんなが私を馬鹿にしているようにしか思えなかった。




妖精の呪文や変身術は言うまでもなく最下位。
レポート書くにしても単語がわからないから本当にほかの人よりも5倍は時間がかかる。そのため宿題は溜まっていく一方で、期限を守れないことが多くなった。
聞き取りができないから何を言っているかわからないため、授業についていけない。
また、羊皮紙で伝えてくれたらわかるが、たまに先生は次の授業に必要な持ち物を口頭で言う。
さらっと言われる「次の授業には○○を持ってくるように」というような言葉にノートをとるので必死な私は聞き取れないのだ。
そのため忘れ物も多くなる。



それが積み重なって私は劣等生という称号を与えられた。



悔しかった。
言葉さえ理解ができればこんなことにはならなかったはずなのに。
けど、これが現実だった。


けど、英語を覚えるためにほかの子と関わろうとか授業中にわからないところを質問しようとする気にはなれなかった。
発音がおかしくて馬鹿にされたくなかった。




リリーとセブルスは頑張って私に英語や授業を教えてくれた。
放課後や空きコマには図書館に行き、二人にいつも教えてもらった。

わたしの心の支えがこの二人だった。


この二人がいなければもう私は学校を辞めていた。絶対に。
二人が根気強く優しく教えてくれたおかげで私の心は壊れないでいてくれた。
私はこのふたりに完全に依存しているんだ。今も昔も。







「ジャップ」




廊下を通ると、その言葉がたまに聴こえてくるようになった。
声に反応して振り向くと大体スリザリンだった。



私たち日本人を蔑む言葉だ。
悔しくて血が滲むんじゃないかというくらい拳を作った。


リリーが抗議しようとしてくれたが、リリーの手を引いて逃げるようにセブルスと待ち合わせをしている図書館に向かった。
理不尽に真正面から立ち向かう以前の私の陰もなかった。
権力に、多数の力に屈したんだ。






リリーは憤慨した様子でセブルスに出来事を話した。
私にジャップといったのはヘンリー・マッケンと言うらしい。
そいつらはマグル生まれでスリザリンの中でも迫害されている側だとセブルスが言った。

その時、腹の底が冷えた。
人間はなんて醜くて浅ましい連中なんだろう、と。



人間は、自分が迫害されて辛い思いをしているからほかの人には決してしないという感情なんて湧かないのだ。

人間は、自分がされたことを自分より下のやつに同じことを繰り返す生き物なんだ。
そりゃ戦争なんかなくならないわけだ。
同じことを繰り返してそれが負の連鎖になる。
今までヒーロー気取りだった私は人間の本性を初めて知った。


私も、自分よりも下の人間を見つけたら、同じことをするんだろうか。
欠点を見つけて馬鹿にするんだろうか。

なんて浅ましいんだ。
自分がとても醜い生き物のように思えた。


私は差別なんかしたくない。そう思った。
私はあんな奴らと同じ土俵になんか立ちたくない。

多数には勝てないし、卒業するまで私は多分一生迫害され続けるんだろう。
ここでは強きを挫くことなんてできなかも知れない。

けど、せめて、せめて、弱きを守る立場では居続けたいと思った。






まだ私の心にはヒーローの部分が残っていたらしい。


(それが嵐を呼ぶとは知らずに)
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