BULLY | ナノ




あれから授業がないときはずっと自室に引きこもっていた。
リリーは心配したように何があったか聞きに来てくれたが、何も答えることはできなかった。
すべてを説明するにあたってルーピンが人狼だっていう事実が話の核になるからだ。
それを避けながらなんて話せやしない。


リリーも言えないことがあると察してくれたのかそれ以上何も言うことはなかった。
リリーはセブルスが勝手に暴れ柳そばのトンネルを下りていって命の危険にさらされたところをポッターに救われたという噂を信じているようだった。


私はずっとルーピンのことを考えていた。
人狼であることを隠して今まで生きてきたルーピン。
もし誰かにバレてしまえば一環の終わりで、迫害されるような運命。
隠しきれない自傷の痕に満月の夜は必ず姿を消さなければならない。

勘のいい人ならバレてしまいそうなほどの証拠をいつも晒して生きていかなければならない。


ルーピンのホグワーツでの生活はまさに綱渡りだったんだろう。
ほんの少し油断すれば自分の人生は転落してしまう。
そんな危険な生活を送ってきたんだ。



ポッターとブラックは人狼であることを知っていたようだ。
多分ペティグリューも知っているはずだ。
命懸けの生活の中で心安らげるのはあの4人組と一緒にいるときなんだろう。
唯一人狼であるルーピンを受け入れてくれた3人。
ルーピンにとってはかけがえのない親友なんだろう。
何があってもルーピンは命をかけてあの3人を守るだろう。


私にもよくわかる。
ルーピンにとってのポッターたちは私にとってのリリーやセブルスなんだから。
私もあのふたりのことだけは何があっても守る。




しかしルーピンはあの時、そんな親友を裏切ってまで、私のところに駆け寄ってくれた。
ポッターに杖を向けて、私の味方についた。



私が同じ立場でもできただろうか。
答えは否だ。
リリーがもし、マルシベールに再起不能になるまで叩きのめしていたら?
セブルスがもし、闇の魔術を使ってメリーをいじめていたら?
絶対に私は止めない。
止めて友情が壊れるくらいなら私はそれを黙認する。


ふたりがたとえどんな悪いことをしたって、私のそばに居てくれればそれだけでいいから。




けど、ルーピンは違った。


ルーピンは、心の拠り所を捨てることになっても私を助けてくれた。



そんな私はルーピンになにかしてあげただろうか。
私はいつも蔑ろにしていた。
自分の気持ちが整理できないのを理由に。
整理できないんじゃない、しなかったんだ。


一歩進むのが怖くて無かったことにしていたんだ。


そして今も一緒だ。
ルーピンが人狼だということを知って完全に接触を避けている。
人狼であることを知って確かに私は怯えてしまったんだ。
自分の中にいる闇に立ち向かっているルーピンに怯えてしまった。
私は彼を人ではなく、狼だとみなしてしまった。



こんなの、この学校のやつらと変わらないじゃないか。
私が東洋人であるだけで迫害するこの学校のクズどもと。
私の中身を誰も見ようとせず、外見だけで判断するのと一緒だ。


私もルーピンを人狼だという外見だけで判断してしまった。
ルーピンの心の中は誰よりも強くて、勇敢で優しいというのに。







意気込んでベッドから飛び降り、自室をでて談話室に向かう。


今日は休日であるため、談話室は人で賑わっていた。


談話室の隅の方にルーピンは座って本を読んでいた。
相変わらず顔色は悪いが、この前よりは少しマシになったと思う。
その横ではポッターとブラックがチェスをしていて、それをペティグリューが見ている。

あの一件で仲違いをしていなかったことに安心するが、どこかあの四人はぎこちなかった。
多分あの一件の話は四人の中でタブーとなっているんだろう。




「なまえ! もう大丈夫なの?」

ソファーに座って話していたリリーが私に気づいて駆け寄ってくれた。
普段、談話室は人が多いため私は通り道としてしか使わない。
長居すれば何をされるかわからないからだ。


そんな私が談話室に留まっていることにリリーは訝しんだ。



「どうしたの? 震えているじゃない」
「リリー……わたし、友達できるかなあ」



内に秘めた不安をリリーに隠さず漏らせば、一瞬リリーの目が見開かれた。
けどすぐ元に戻り、優しげなエメラルドが私を見つめた。



「ええ、きっとできるわ。あなたはこんなにも優しくて魅力的だもの」


リリーの聖母のような微笑みに私も自然と笑顔になる。
私は意を決してルーピンのもとに向かう。



ルーピンの目の前に立ったとき、談話室全員の視線が私に向けられたのを感じた。
さっきまでの喧騒が嘘のようにひそひそと話す声だけが聞こえた。

人に注目されることにいい思い出がないため居心地がすごく悪い。




本に陰が差したルーピンも顔を上げる。




「……ルーピン」
「おい、てめえ」


ルーピンの横に居たブラックが私に食ってかかろうとしたがルーピンがブラックの前に腕を差し出したためにおとなしくなった。
ポッターは懐に手を忍ばせているため、多分私にいつでも呪文をかけられるように準備しているんだろう。




「なにかな」




ルーピンの顔は先程よりも青白くなっている。
冷静を装っているようだが、手にしている本のページが強く握りすぎてシワになっている。




「わ、わたし……」


喉が引き攣って上手く声が出ない。

私は何にも力を持っていない。
私はヒーローになんてなれない。



強きはくじけないし、弱きも守れない。
ホグワーツで嫌というほど学ばされた。


自分は無力で何もできないことを。




けど、弱きを守れなくても、寄り添うくらいなら。
寄り添って一緒に傷つくくらいなら。


私にもできるかもしれない。






「わたしと、友達になってください。リーマス」





裏返ってしまったし、声も小さくて四人組にしか聞こえないような声量だったけど。
それでも私は言うことができた。


変な汗が背中を伝う。



横でポッターとブラックが息を呑んでいたが気にすることはできなかった。


目を見開いてるルーピンを私は逸らさずに見つめる。
私はいつもこの目から逃げてきた。
もう、逃げない。



本を落としたルーピン
バサリと重力に逆らわずに落ちた本は開けたページを下にして落ちたため、クシャリとシワができた。




「ぼ、ぼくが、友達で、いいのかい……?」



ルーピンの声も震えていて裏返った。
手が震えてる。
俄かには信じられないといったような表情だった。




私は目を逸らさずに頷いた。





「なまえ……!」




目に涙を貯めたルーピン――――リーマスが傷だらけの右手で顔を隠した。


「遅くなってごめん」


しゃがんで太ももに置かれたリーマスの左手を握った。




「いいんだ、ありがとう……っ!」





「なまえ!! よくやったわ!」



リリーが駆け寄って私を抱きしめてくれる。

勇気を出して言ってよかった。



(初めてここで意味のあることができた気がした)



一部終了です。
次回からガラリと雰囲気が変わります。

たくさんのコメント本当にありがとうございます!
返事なかなか返せなくて本当に申し訳ないです(><)
みなさんの応援のお言葉励みになってます。
これからもよろしくお願いします!

これからの話でクディッチの話が少し出てくるんですがジェームズはシーカーにしたいと思います。
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