セブルスがどこにいるかも分からないまま走る。 もしかしたらスリザリン寮にいるかもしれない。 もしかしたら怪我して医務室にいるかもしれない。 最悪の状態を予想して医務室がある二階に向かう。 廊下を歩く生徒に気持ち悪がられているが、気になんかしていられなかった。 二階に下りて角を曲がると、セブルスが歩いていた。 生徒がセブルスを避けるように人っ子一人いなかった。 「セブルス!」 私の声にセブルスが振り向いた。 顔はいつもよりも土気色で、目の下には隈が出来ていた。 窶れた様子に涙が出そうになる。 「セブルス……!」 「……なんだ」 「ぽ、ポッターに」 私がその先を言おうとするとセブルスが怒鳴った。 「お前まで言うのか! 僕は決してあんな奴に命を救われたわけじゃない!」 セブルスは因縁のポッターに命を救われたと噂されているのに苛立っているようだった。 屈辱以外の何でもないからだろう。 「そんなことどうでもいいの!」 「そんなこと……?」 セブルスの左眉がぴくりと上がった。 イラついているようだ。 勘違いする前に言わないと。 「命の危険があったんでしょ? 怪我はしてないの? 苦しいところはないの?」 セブルスがポッターに命を救われたかどうかなんてどうでもいいんだ。 『命を救われた』という噂が回るくらいなんだからセブルスには少なくとも『命の危険』があったっていうことだ。 私にはセブルスに怪我があるかないかどうかが重要だ。 予想していなかった言葉が返ってきたのか、セブルスは目を見開いた。 私の言葉に落ち着きを取り戻したようだ。 「……ああ。少し擦りむいただけだ」 「そう……よかった」 私はほっと胸をなでおろした。 「やあやあ、スニベルス。今日も素晴らしい日だね」 後ろから聞こえてきた声に私たちは振り向く。 「……ポッター!」 セブルスはいつもの比じゃないくらいに恨みのこもった声を上げた。 ポッターとブラックは相変わらず嫌な笑みを浮かべていた。 「命の恩人になんて態度なんだ! 僕は身を呈して君を守ったというのに!」 「黙れ! 貴様は僕を救ったわけじゃない! 自分自身とルーピンのためだろうが!」 どうしてそこにルーピンの名前が出てくるのかわからなかった。 けどセブルスのすごい剣幕に私は会話に割っては入れなかった。 「けど、結果お前はジェームズに救われたんだ。普通床に額こすりつけて礼を言うんじゃないのか?」 「ふふっ、それも最高だけどね、そんな野蛮なことは僕は望んじゃいないさ。今後一切エヴァンズに近づかないと誓ってくれたらいいんだ」 「死ね」 憎しみを込めてそう言い放ったセブルス。 その言葉にポッターは眉をぴくりと反応させた。 「これは教育しないといけないと思わないかい? 相棒」 「だな!」 ブラックの返事を最後に雰囲気がガラリと変わった。 私もただならぬ雰囲気に杖を取り出して構える。 四人が杖を出して各々に向ける。 向かい合わせだった私とブラック、セブルスとポッターという対戦相手になる。 どうしよう。 こんな、戦うなんて。 呪文が苦手な私にブラックの相手ができるんだろうか。 今まで反抗せずにすべての呪文を受け入れてきた私が。 ブラックも私が杖を出したことが意外だったのか、柳眉をつり上げた。 「なまえ、僕の後ろに隠れてろ」 私の前に腕を出して、セブルスが私の前に立つ。 呪文が苦手な私がブラックに勝てないことを危惧してのことだろう。 「けど……」 「ははっ! ナイトのつもりかい、スニベルス!」 「いいじゃねえか、なきみそスニベルスとイエローモンキーか! 最高の組み合わせだな!」 「黙れ! セクタムセンプラ!」 「っ、プロテゴ!」 セブルスの放った聞きなれない呪文はポッターによって弾かれた。 「なんだい、今の呪文」 ポッターたちも聞きなれなかったようで驚いてる。 「さすが闇の魔法使いだな。新しい闇の魔術作ってんのかよ」 「貴様みたいな鳥頭とは出来が違うんでな」 「黙れ! ステューピファイ!」 「ディフィンド!」 「っ、プロテゴ!」 ブラックの攻撃は防御ができたけど、ほぼ同時に放たれたポッターの引き裂きの呪文は防げなくてセブルスは切り傷だらけになった。 「セブルス!」 よろけたセブルスを支えようと手を伸ばせば振り払われた。 黙ってセブルスの後ろに隠れてろってことらしい。 そんなことできるわけない。 だって、セブルスは今の呪文で血が出てるのに。 「インペディメンタ!」 ブラックが放った妨害呪文でセブルスの体が吹っ飛ぶ。 セブルスの後ろに居た私も一緒に飛んで地面に叩きつけられた。 「っ……!」 地面との摩擦で太ももが焼けるように熱い。 見れば擦過傷となっていて、血がにじんでた。 直接呪文を受けたセブルスはもっと酷くてさっきの傷口から余計に血が出ていた。 それでもセブルスは私を守ろうと立ち上がろうとする。 もうこんなにボロボロなのに。 「惨めだな、スニベルス」 「黙れ……!」 私は一体何をやってるんだ。 こんなにセブルスに守ってもらって。 私は、セブルスやリリーに守ってもらってばかりだ。 私が彼らになにかしてあげたことなんてあっただろうか。 杖を握り締める。 「早くエヴァンズにもう近づかないように誓ってくれないかい?」 「……誓ったところで、お前なんか相手にされない」 「ふーん。あくまでも誓う気はないんだね。じゃあ眠ってもらおうかな」 見下すようなセブルスの言葉にポッターの目が怒りを宿した。 「ステューピ……」 「エクスぺリアームズ!!」 ポッターが呪文を唱え終えるまでに私がセブルスの前に出て呪文を放った。 ポッターの杖が宙を舞って私の手の中に収まった。 場違いだけど、呪文が成功したことに感動してしまった。 今までセブルスに的になって貰った時にしか成功できなかったのに。 セブルスも驚いたように息を飲んでいる。 「インペディメンタ!」 「なまえ!」 ブラックに呪文をかけられて吹っ飛んだ。 衝撃でポッターの杖を廊下に落としてしまう。 廊下に叩きつけられてむせる。 「……ほんと、イエローモンキーの癖にむかつくなあ」 自分の杖を拾ったポッターが私に向かって歩いてくる。 起き上がろうとしても叩きつけられた衝撃で節々が痛んで立てない。 ポッターの目が本気で怒っている。 「がはっ……! ごほ、ごほっ」 私のもとについたポッターはそのまま私の腹部を蹴り上げた。 衝撃にむせる。 胃液が上がってくる感覚に気持ち悪くなった。 「さっさと山に帰れば? イエロー」 「ぐっ……!」 そのままお腹を踏みつけられて力を込められる。 痛くて苦しくて、息がうまくできない。 「やめろ! セクタム……」 「エクスぺリアームズ! お前は黙って這いつくばってろスニベルス」 「ブラック……!」 だんだん力が強くなってくる。 「う……あ、っが……!」 「このまま内蔵潰してあげようか?」 両手で足を掴んでも、上からかけられる圧力の強さに変わりはなかった。 「……なにしてるの」 目の前が霞んだときルーピンの声が聞こえた。 (いつもより傷だらけの顔で私よりも辛そうな顔をしていた) [戻る] ×
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