BULLY | ナノ





「なまえ! ただいま!」
「おかえり!」


年が明けて帰省組がホグワーツに帰ってきた。
大広間でリリーとハグをして私たちはグリフィンドールの席に座る。
セブルスもスリザリンの席に座ったようだ。


「クリスマスプレゼント本当にありがとう!」
「どう? 喜んでもらえた?」



セブルスと一緒に考えたのよとリリーはいたずらっ子のような笑みを向けた。



「当然! でも、謝らないといけないことがあるの……」


首から下げたカメラを弄びながら言う。
ああ、本当にあの時の自分を恨む。

リリーはこてんと首をかしげた。
私が落ち込んでる意味がわからないようだ。



「バカウサギに夢中になりすぎて写真が一枚も取れてないの」



私が申し訳なさそうに言うと、リリーが吹き出した。
なんで笑うのか理解できない。
こんなに落ち込んでいるのに。



「ふふっ、そんなこと」
「そんなことって! 折角くれたのに使えなかったんだよ」
「そのカメラね、魔法がかかってあるの」
「え」
「12月25日6時15分から20分まで2秒に1回自分から動くものにピントを合わせてシャッターが切られる魔法よ」
「ほ、本当に!?」
「ええ。セブがなまえなら絶対写真撮るの忘れるっていうから二人で魔法を考えたのよ」



すっごく大変だったんだから、とリリーが手を腰に当てて胸を反らす。
えっへんとでも返ってきそうなリリーに思わず抱きつく。


「ありがとう! リリー!」
「どういたしまして。喜んでもらえて何よりだわ」
「セブルスにもお礼言わなきゃ!」
「そうね。セブもきっと当たり前だ、とか言って威張るわよ」



二人で笑い合って机に現れたご馳走を食べた。





***************




「当たり前だ」



夕食が終わってリリーとセブルスと図書館に移動した。
私がカメラにかけられた魔法のことについて褒めるとセブルスがそういった。
威張ったような、誇りに思うような言い方だった。


私とリリーは顔を見合わせて噴き出す。


予想と全くおんなじ態度をとるセブルスが面白くて仕方なかった。




「な、なんだ。何が面白い」



笑いが止まらない私たちにセブルスが慌てる。
笑えて話せない私たちに、セブルスは自分の体になにか付いているのかとローブを見たり払ったりしていた。
ここが図書館だと気づいて必死で笑いを止める。



「違うのよ、セブ。あなたの見た目がおかしくて笑っているわけじゃないの」



リリーが涙を指で拭いながら途切れ途切れに説明をする。
笑っている理由を聞いたセブルスはぶすっと機嫌が悪くなった。
頬がほんのり赤いから少し照れてるんだろう。
セブルスは本当にわかりやすい。



私も笑いすぎて出た涙を拭う。
ああ、久しぶりにこんなに笑った。
やっぱり、リリーたちがいないとだめだ。






「楽しそうだね。僕も混ぜてくれないかな」





横から声が聞こえて顔を見上げるとルーピンが立っていた。
ルーピンは今まで私が誰かといるときやポッターたちが近くにいるときは絶対に話しかけてこなかった。
リリーとセブルスがいるのに声を掛けてきたことに驚く。




「っ、なんのようだ!」


セブルスが杖を取り出して警戒しながら語気を強める。
リリーも睨みつけていて、今までの楽しい和やかな雰囲気が一変してとても殺伐とした。


リリーにもセブルスにもルーピンが私を救ってくれたことや謝ってきたこと、最近良く接触することも言っていない。
どうせ二人と一緒にいるときには話しかけてこないから言う必要はないと思っていた。




セブルスとリリーが周りを見渡す。
多分ポッターたちが隠れていないか探っているんだろう。



「僕は君たちに危害を加えようとして来たわけじゃない。それと、ジェームズたちは新作のいたずらグッズを使うために大広間に残っているよ」



ルーピンが手のひらを私たちに見せて腕をあげた。
武器は何も持っていないし、危害を加えるつもりはないというアピールだ。



「じゃあ、何をしに来たの」


リリーが訝しむように聞く。




「ただ君たちの話に混ざりたいと思っただけさ」
「何が目的だ」
「今言ったとおりさ。まあ下心がなかったといえば嘘になるけど」


ルーピンが悪びれもなくそう言う。
下心?
そんな言い方したらセブルスが余計に食いつくに決まってる。
普通あっても言わないはずなのに。



「下心? 言え」


スネイプが杖を下ろさずに言う。
完璧疑ってる。
絶対ポッターの差し金だと思ってる。





「エヴァンズやスネイプと仲良くしようと思って」
「どうしてそうしようと思うの?」
「みょうじさんと友達になるために外堀から埋めていこうと思って」



ルーピンが私に視線を移していう。
今言ったことに偽りはないという目でまっすぐ見てくる。
視線に耐えられなくて俯く。


「なまえ、どういうこと?」


リリーが俯く私を覗き込んで聞く。
エメラルドが私を見つめてくる。



リリーとセブルスにこれまでの経緯を説明した。
湖で助けてくれたのはルーピンで、今までのことを謝ってくれて友達になりたいと言われた。
全て話すと、リリーとセブルスは正反対の反応をした。




リリーは話していくうちに目をキラキラさせて笑顔になった。

「すごいじゃない! なまえ! 新しい友達ができるのね。
ちゃんと謝ってくれて今までの辛さもわかってくれたんでしょ? ポッターの友達だって関係ないわ! だって彼は彼でポッターじゃないわ。何も気にせず友達になったらいいじゃない!
私、なまえにももっと友達ができたらいいってずっと思っていたの! だってあなたはこんなに優しくてとってもキュートだもの!」


私の手を握りながら言うリリー。





セブルスは話していくうちにどんどん眉間のしわが深くなっていった。

「なまえ、今までされてきたことを忘れたわけじゃないだろう。謝罪の一つや二つで許せるものなんかじゃないだろう! お前はどんなに辛い思いをしてきた。
なのに今更謝って友達になりたいだと? しかも! あの忌々しいポッター達親友だ! 絶対に裏がある。もしこいつが本気で謝っているとしても今更もう遅いに決まってるだろう。なまえよく考えろお前にこんな偽善者の友達はいらない!」

未だ杖を下ろさず、すごい剣幕で言うセブルス。



びっくりするくらい正反対で、けどふたりの意見は私が思っていた事と全く同じだった。

嬉しい気持ちと恨みの気持ち。
相反する二つの感情に私は結局ケリをつけられないままだった。



私がふたりの意見のどちらにも賛成や反対できないでいるとまさかの二人が言い合いに発展してしまった。



「セブ! 許さないと一生この関係は終わらないわ! あなたが言っているのはおかしい!」
「許す? そんなことできるわけがない! 僕たちがどれだけのことをされたと思ってるんだ! リリー、君の言っていることは楽観的すぎる!」
「なまえが新しい友達を作って一歩踏み出せるかもしれないのよ!? どうしてあなたが邪魔できるの!」
「邪魔じゃない! なまえのことを思っているんだ! なまえにこんな友達はいらない!」


「や、やめてよ……」



私の言葉は二人に全く届かない。
どうしようと慌てる。
ふたりの早すぎる英語に上手く入っていけない。
どうすればいい。
私がなんて言えばこの争いが終わるの。


大切なふたりが喧嘩なんて耐えられないのに。



「あなたが人の友達作りに口出しなんてやめて」
「どうしてわかってくれないんだ、リリー!」


「この際だから言わせてもらうけどね、私だってあなたの最近の友人関係は納得いかないのよ!!」



リリーが机を拳で叩いた。
その行動にセブルスは少し怯む。
わたしも肩が跳ねた。

こんなに怒るなんて。



「エイブリーとマルシベールたちよ! あの人たち、すごくマグル生まれのことを馬鹿にするのよ」
「そ、それは」
「セブにあんな友達がいるなんて耐えられないわ。けど、あなたが選んだ人ならって。私にはわからないけど、私の友達のセブが選んだ人ならきっといいところがあるはずだからって。だから私は今まで口に出さなかったのよ! 私の中の葛藤があなたにはわからないでしょうね!」
「り、リリー」


誰がどう見てもリリーが優勢だった。
リリーの今まで明かされなかった胸中にセブルスを心から信用していることがわかった。
リリーのことが好きなセブルスがそのことに舞い上がらないはずがない。
現に今のセブルスは少し頬が染まっている。


普通に考えてリリーが好きで口下手なセブルスと口が達者なリリーとでは勝敗は始まる前から見えていた。



もはや議論の内容を忘れて感動していたセブルスだけど、はっと思い出して気まずそうに先ほどの覇気は全く感じられないように言った。




「っ、け、けど、ポッターの友達はだめだ! 信用できない」
「証拠もないのに? ルーピンは本当に謝ってるかもしれないのよ」
「じゃ、じゃあ! 信用できない証拠を集めてくる! それなら問題はないだろう!」
「ええ、それならいいわ。私に一片の疑問も残さないような証拠を持ってきてちょうだい」



今度はセブルスが手を机に叩きつけて立ち上がった。




「お前たちが退学になるような証拠を絶対に見つけてやる……!」



セブルスが忌々しそうにルーピンを睨みつけて図書館から出て行った。



「ま、まってセブルス……!」
「放っておきましょなまえ。気にしなくてもいいのよ」
「け、けど」
「いいから。セブは少し頭が固いからこれを期に変わるべきよ」



追いかけようとしたがリリーに腕を掴まれてそれは叶わなかった。




「ごめん、僕のせいだね」


ルーピンが私の向かいに座りながら申し訳なさそうに言った。


「いいえ、あなたが悪いわけじゃない。なまえやセブに対しての扱いが間違っているってよく気づいてくれたわ」
「いや、スネイプが言うことも間違っていない。謝っても許してもらえるわけがないんだ」




誠実に反省しているルーピンに感動したらしいリリー。
ふたりが打ち解けていく中私は出て行ったセブルスのことしか考えられなかった。



(ふたりが喧嘩したのはうじうじして答えを出さなかった私のせいだ。)
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