凍傷は一晩で治った。 私は出来るだけルーピンと出会わないようにポッターたちを避けていた。 なんとなく気まずかった。 そのおかげでここ三日は何事もなく過ごせた。 「なまえどこ行くの?」 夕飯を食べ終わってあと30分で消灯という時間に談話室に降りていくとほかの友達と話していたリリーが私に気づいた。 ほかの友達と話が途中なのにも関わらず私によって来てくれて嬉しかった。 「本を返しに行こうと思って」 返却期限が今日までの本を見せるとリリーは納得した。 「けど危ないわ。もう消灯だし。着いて行きましょうか?」 「ううん。大丈夫」 「けど……」 「今日は大丈夫だと思う。もうみんな寮に戻ってるだろうし」 私がリリーの後ろを見ながら言うと、リリーも振り向いた。 視線の先にはチェスに夢中になっているポッターたち。 ポッターとブラックが対戦していてペティグリューは横で興奮したように眺めている。 こいつらさえ来なければ安全に行けるだろう。 リリーも納得したのか私が一人で図書館に行くことを許してくれた。 冷える廊下に出て図書館に向かう道を歩いた。 この時の私はずっとルーピンのことを考えていたと思う。 あんなに誠実に謝られたのは初めてだったからだ。 今更謝っても遅いという許したくない気持ちと、私の苦しみに気づいてくれた嬉しさで満たされていた。 どちらの気持ちも拮抗していて、私では処理しきれていなかった。 「みょうじさん?」 声に振り向くとルーピンが立っていた。 どんな顔をして会えばいいのかわからなかったため、すぐに目をそらして道を急ぐ。 「まって! こんな時間にどこ行くの!」 肩を掴まれて足を止める。 ひょろくて病弱のような身体つきのに力は強かった。 やっぱり男だった。 私の前までやって来て腕の中にある本を見てどこに行くか理解したらしい。 私は目を合わせられなくて廊下の壁と床の境目を見ていた。 セブルス以外の男と話すなんて久しぶり過ぎだ。 「危ないし、ついていくよ」 「いらない」 「どうして。俺がついていくの迷惑?」 悲しそうな声色に思わず顔を上げると表情も捨てられた子犬のようだった。 こんな顔されたら私が悪いみたいだ。 それにこんな顔してるのに全然引き下がる様子が見られない。 「め、迷惑って、いうか……私と歩いてるところを見られたらルーピンもいじめられる、と、思う……」 迷惑だって言い切ってしまえばいいのに、言えなかった。 ルーピンを傷つけるかもしれないと思うと、口に出せなかった。 私はもっと酷いことをされてきたはずなのに。 「……君は、もっとわがままになっていいと思うよ」 「え?」 「いや、行こうか。早くしないと消灯時間になってしまう」 「ちょっ、だから、一緒には……」 全く寮に帰ろうとしないルーピンに私が説得しようとしたらアイスブルーが視界に入った。 それはルーピンも同じのようで、視線の方向は同じだった。 「ほっほっ、仲良きことは素晴らしいことじゃ」 私がもう一人会いたくなかった人に出会ってしまった。 この日は厄日だったと思う。 そして校長は私たちが友達にでもなったと思ってる。 そんなことありえないのに。 顔をしかめてしまったのが校長にバレてしまったらしい。 しかし校長はなんとも思っていないのかニンマリと笑ったままだった。 校長になかなかの暴言を吐いてしまった。 リリーやセブルスにも言ったことのないこと。 自分の隠していた本音を言ってしまったし、それにあれだけ凍傷の件を隠したのにいじめられていることを普通に言いまくってた。 校長は私の本心に気づいているから。 そんな相手に会いたくなかった。 私はいじめられていることを誰にも言うつもりはなかったのに。 「さあさあ、早く戻らねばフィルチ先生に怒られてしまうぞ」 「本を返しに行ったら直ぐに帰ります」 「そうかそうか」 なぜかルーピンが受け答えをしている。 意味が分からないがルーピンの言うことは間違えではないため私はさっさと校長の前を通り過ぎる。 そして相変わらずルーピンは寮に戻る気はないみたいだった。 「なまえや」 後ろから声をかけられて足を止める。 なんだかいまから言われることが怖くて振り向けなかった。 校長に背を向けて言葉を待つ。 「わしは最近物忘れがひどくてのう。思い出し玉を折角買うたのにどこに置いたか忘れてしまった」 言っている意味が分からずに思わず振り向く。 校長はベルトに挟まれていたヒゲを優しく撫でていた。 「おぬしとこの前話したこともほとんど忘れてしまった。実に情けない話じゃのう……」 ダンブルドアの意味を理解して目を見開いた。 あの会話をなかったことにしてくれるんだ。 「あ、あの」 お礼を言おうとした。 意を決して一度瞬きをしたらもう校長はそこにいなかった。 (ぐるぐる変わる) [戻る] ×
|