リリーとセブルスは魔法薬学のスラグホーン教授のお気に入りだ。 優秀な二人だから当然だろう。 そんな二人に私は鼻が高くなった。 その日も二人は先生に呼び出されていて、いなかった。 寂しかったけど仕方なく私は一人で夕食をとるため大広間に向かった。 人と目を合わせないように俯いて歩いていた。 するといきなり頭がねっとりしたもので包まれた。 頭だけでは足りず、服にも、足にまでたれてきた。 スライムのような液体は目が痛くなるような蛍光の黄色だった。 近くに居た生徒が悲鳴を上げたのが聞こえる。 その悲鳴を聞いた生徒たちが次々に騒ぎ出した。 そんな悲鳴に構ってられず、スライムが降ってきた上を見ると箒に乗ったポッターとブラックがバケツを持っていた。 ニヤニヤと厭らしい笑みを私に向けてくる。 犯人はこいつらだとすぐに理解した。 黄色いスライムは拭っても拭っても肌から取れる様子はなかった。 「イエローモンキーにふさわしい色に変えてやったんだ! 感謝しろよ!」 ブラックが声を張り上げた。 イエローモンキー、聞き取れた単語にぴくりと体が反応する。 私を囲むようにして傍観している生徒たちがまた騒ぎ出す。 イエローモンキーの意味がわからない生徒は知っている生徒に説明を受けているんだろう。 黄色人種を蔑む言葉だ。 「ホグワーツにサルは入学できないはずなんだけどね、紛れ込んでいるみたいだ」 「サルが人間の真似をしようとしても限界があるだろ!」 「今まで女の子だからね、英国紳士としては手を出さないでいてあげたのに! よくも恩を仇で返してくれたね!」 「よく考えたらコイツはサルじゃねえか。サルなんだからメスだろうが手を上げても問題はねえだろ!」 「確かにそうだ!」 ゲラゲラと笑うブラックとポッター。 周りもふたりの言葉に笑い出す。 全部理解できなくても、馬鹿にされていることはわかった。 「みんな! 聞いておくれ!」 ポッターが箒の上で大げさに手を広げて演説をする。 「僕たちはマグル生まれと純血で長らく対立しているだろう。僕はそんな争いなんてなくしたいんだ。実に不毛だとは思わないかい?」 ひとりひとりに問いかけるように傍観する生徒たちの目を見ながら自信満々に言う。 やけにゆっくりとした言葉だった。 私が聞き取れるように配慮して話しているんだろう。 より深く私が傷つくように。 ぐるっと一周生徒を見たあと、最後にスライムに塗れる私を見てにやりと笑った。 「彼女は出来損ないで、英語も話せない。更には東洋人でジャップでイエローモンキーだ! 見てくれ、この低い身長、低い鼻、細く睨んでいるような目を! 到底僕らと同じ人間だとは思えない! こんなサルを目の前にして僕たちがマグルだとか純血だとかで対立するのは馬鹿馬鹿しい! もっと程度の低いやつが目の前にいるのに!」 ポッターが選挙のような演説を終えると、周りから歓声が起こった。 黄色で支配される視界で周りを見下ろすと、マグル生まれの奴らが人一倍喜んでいた。 ああ、自分よりも下を見つけて虐げるのか。 人間はそうすることでしが自我を保てない愚かな生き物だ。 なんて醜い。 ここの学校の人間は腐ってる。 わかりきってたことだ。 別に何を言われたっていいじゃないか。 私はこんな奴らと同じレベルには成り下がりたくない。 大丈夫だ、私が何を言われても。 リリーとセブルスがいてくれたらほかには何も望まない。 「それにこのイエローモンキーは闇の魔術が大好きなスリザリンのスニベルスともつるんでいるんだ!」 「ホグワーツの平和のためにこんなやつ追い出すべきだろ!」 スニベルス、セブルスを蔑むあだ名が聞こえてきて頭に血が上った。 『セブルスの悪口を言うな!!』 咄嗟に出たのは日本語だった。 杖を手にしてポッターに向けようとした。 「エクスぺリアームズ!」 私の杖はブラックの放った聞きなれない呪文によって床に落ちた。 「すげえ、シリウスのやつ1年なのに武装解除使えんのかよ」 「やっぱあいつすげえんだな」 周りのざわざわとする会話は聞き取れなかった。 大方私を貶しているんだろう。 「見たかい? 意味のわからない言語を話して杖を向けてきたんだ! なんて恐ろしい!」 「みんなで追い出そうぜ!」 早すぎてふたりの言葉は聞き取れなかったが、ブラックの言葉を最後に傍観している生徒は声を揃えた。 「でーていけ! でーていけ!」 合わせた大勢の声が廊下で反響して大きく響く。 出て行け、私はそう言われているのか。 止むことのない出て行けコールに耐えられなくなって、杖を拾って寮に向かって走った。 (1年生の6月下旬、私の地獄が始まった) [戻る] ×
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