BULLY | ナノ



一時間目から授業がないときはほぼ毎日俺に会いに来ていたイエロー。
最近、会いに来なくなった。


多分、学年末テストが近いからだろう。
劣等生のあいつだ。テストは並の努力じゃ通過できないんだろう。
だから俺に会う時間を割けずに全て勉強に費やしている。
リーマスがよく勉強を教えていると言ってた。



学年でトップを争う俺とジェームズは余裕だ。
ここの学校のテストは簡単すぎて退屈なくらいだ。
勉強しなくたって上位の成績が取れる。


そのためみんなが真っ青になって勉強している今も、俺たちは人気のない湖の近くに来ていた。
アニメーガスの修行だ。
いつでもどこでもどんな精神状態でも確実に変身できるようになって、時間を延ばすことが俺らの今の課題だ。
慌てて変身するとどうしても人間の部分が残ってしまう。
それじゃあ意味がない。

ピーターはやっと十回に一回ねずみになれるようになった。
といっても、いつもどこか人間の部分を残しているけど。
この前は足の親指だけ人間で死ぬほど笑えた。





何度も牡鹿と黒犬になって不備なく変身できるようにする。
十回連続なら不備なく変身できた。
けどこれは落ち着いた精神状態でのことだからまだ完璧とは言えない。



今は耐久レースだ。
どれだけの時間犬でいられるか。



芝生に置いた時計が三十分たったことを知らせた。

それからジェームズの様子がおかしくなった。
もぞもぞと体を動かし、どんどん角が短くなっていった。



「っ、はあっ……だめ、限界」



額に汗を浮かばせて人間に戻ったジェームズ。
息も荒れていて、疲れたように芝生に座り込んだ。


俺はまだまだ余裕だった。
なんでだ。
俺とジェームズは同じくらいしかもたなかったのに。




「え、シリウスまだいけるのかい?」



ジェームズは驚いたように目を開いた。
俺はジェームズに答えるように頷いた。



「すごいね。どうしたんだい。もしかして僕らに内緒で特訓してたの?」




特訓……。
特訓したつもりはないが、思い当たる節はひとつだけあった。


イエローといるときにはいつも犬になる。
しかも一緒にいる正確な時間はいつもわからない。
いつも朝食と授業の間にイエローは来るからだ。
日によって時間はバラバラ。

長い時は五十分以上一緒にいたような気もする。
もしかして、それで鍛えられたのか。
イエローと一緒にいることで継続時間がどんどん伸びたのか。




結局俺は一時間五分保つことができた。
ジェームズが僕の二倍以上……。と悔しそうに言った。

額に滲む汗をぬぐって俺も座り込む。
目の前にいるジェームズに得意げに笑ってやった。



「置いていかれるなんて悔しいな。僕も今日からもっと特訓することにするよ」
「そうだな。最低でも八時間は持つようにしないと」
「ああ、リーマスのために」


ひと晩は変身していられるようにしないと。
そう思うと俺たちはまだまだだった。



少し水分を取って休憩していると、ジェームズがニヤリと笑った。


「なんだよ急に」
「あそこ、見てごらん。スニベルスだ」




ジェームズが指をさす方を見ると、茂みからねっとりした髪が見えた。
頭だけだったから顔は見えていない。

けどあの頭は確実にスニベルスだ。



俺の口角も自然と上がった。
何も言わなくても悪戯を仕掛けることがわかった。
そろりと、身を潜めて近づいて行く。



近づくとだんだん声が聞こえた。
どうやらスニベルスだけじゃなかったようだ。




「プろテゴ!」
「だめだ。何度も言ってるだろう。お前のそれはL発音だ」
「うー……Rの発音難しい」
「舌を上あごに付けるんじゃない」
「ろー、ろー、ロー」
「そうだ。その発音だ。もう一回やってみろ」



スニベルスと一緒に居てるのはイエローらしい。
どうやら闇の魔術に対する防衛術の実技試験対策をしてるんだろう。



ジェームズが俺の顔を見た。
俺が最初に仕掛けろと言ってるんだろう。
こくりと頷く。
 


指で3、2、1とカウントダウンして0の時に人差し指をスニベルスたちがいる方向に向けた。
同時に立ち上がる。



「エクスぺリアームズ!!」
「っ!」


「くそっ……!」
「インペディメンタ!」

イエローに向けて呪文を放つと、そのままイエローの杖が後ろに飛んだ。
スニベルスが咄嗟に杖を出して呪文を放とうとしてきたが、ジェームズによってそれは防がれた。


吹っ飛ばされて近くの木にスニベルスがぶつかった。


「セブルス!」


「せっかく、お前の特訓の手伝いをしてやろうと思ったのに。何やってんだよ」



セブルスの方に駆け寄ってくイエローに笑いながら言う。


「ほら、俺が呪文かけてやるから防御してみろよ」

杖のないイエローに言ってやる。
セブルスを心配していたイエローが俺を見た。
怯えた表情かと思ったが、また無表情だった。


その表情に腹が立つ。



「んだよその表情は。俺がわざわざ手伝ってやろうって言ってんだ。もっと喜べよ」
「サルに何を言っても無駄だよシリウス。こいつらには礼儀ってものが知らないからね」


「っ、黙れ……!」

スニベルスが痛そうにゆっくりと立ち上がった。



「デンソージオ!」

ジェームズが歯呪いをかけた。
見る見るうちにスニベルスの歯がリスの前歯のように伸びた。


「ぶはっ!」


思わず吹き出す。
何だそのマヌケな面。
めちゃめちゃ面白い。


呪文をかけた本人も爆笑している。
スニベルスは屈辱的だというような表情で俺たちを睨みつけた。
目つきの悪さもリスのように伸びた前歯ではなんの迫力もなく、ただただ俺たちを笑わせるだけだった。



笑いすぎて腹が痛くなってくる。


さぞイエローも笑いを堪えてるだろうと視線をやった。




光もなにも映さない瞳だった。
顔は俺のほうを向いているのに、視線は俺を全く捉えていなかった。




ムカついて、もう我慢ができなくなった。



「ステューピファイ!」




失神したイエローは目を閉じていた。


あのムカつく表情はなくなったが、まったくもってすっきりしなかった。



(あんな表情見たくなんてなかった)
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