BULLY | ナノ




「し、シリウス……」
「んだよ」
「い、いや……やっぱり何でもない」
「用がないなら話しかけんじゃねーよ」
「ごっごめん」



「何イライラしてるんだい」
「うるせえ」



ジェームズが俺の向かいに座る。
見透かすように俺の瞳を見つめる。
気まずくて、視線を逸らす。
ピーターが怯えたように羊皮紙に向かっていた。
しかし羽ペンが動いてないため、レポートが進んでるわけではないんだろう。




「ピーターが怯えてるじゃないか」
「うるせえって言ってんだろ」


虫の居所が悪いなんてものじゃなかった。
とりあえず誰にも話しかけられたくなかった。
しかしジェームズがそんなことを待ったく気にせずに話しかけてくる。

こいつはそういうところがある。
怒っているとそれを楽しんでおちょくってくる。
余計に怒らせようとしてくる。



「はあ、親友の僕にも言えないことかい? 親友の僕にも!」
「別になんでもねえよ」
「君は何にもないのにイラついているのかい。生理?」
「うっせえよ! もう寝る!」


天蓋カーテンを乱暴に閉めてベッドに潜り込む。
全くイライラが収まらない。


すると部屋のドアが開く音がした。
リーマスが帰ってきたようだ。


「あれ、シリウスはもう寝てるんだね」
「ああ。なんだか生理でイライラしているみたいなんだ」


からかうようなジェームズの言葉にまた怒りが腹の底で蠢く。


「うるせえよ!」



布団から顔だけを出して怒鳴りつける。
リーマスのため息をついた。
ジェームズが肩をすくめているのが見なくてもわかった。



「ジェームズ、君は本当にデリカシーがないね」
「まさか! こんなイギリス紳士の手本になんてことを言うんだい」
「ほんと、幸せそうだね」
「当たり前さ! これでエヴァンズが付き合ってくれたら僕の人生はより薔薇色になるのに!」
「はいはい」



リーマスが面倒くさそうに返事した。






「っ、くそ」


布団に頭まで潜り込みながら悪態をつく。

全くこのムカつきは収まらない。

理由はわかってる。
今朝の自分のせいだ。



なんで俺はあんなにあいつにされるがままだったんだ。

地面に置かれたものを食べて。
あいつに撫でられるのを黙って受け入れて。
あいつが笑顔になるために気を使って。


一体俺は何をやってるんだ。

あいつを傷つけてやろうと思ったのに。
脅して恐怖で歪んだ表情を見て笑ってやろうと思ったのに。

なんであいつのいいなりになんてなってたんだ。


ありえない。
俺があいつの下になっただなんて。


そんなわけない。
俺があのイエローモンキーの劣等生よりも劣ってるなんて。
そんなはずがないんだ。






ふと、今日の光景がフラッシュバックした。
笑顔で俺に肉を差し出して撫でるイエロー。




「くそったれ!!」





起き上がって枕を殴りつけた。





「ひぃっ!」
「大丈夫かい、ピーター」
「あーあ、せっかくのレポートがインクで真っ黒だ」



(俺があいつの言うことを聞いただなんて)
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