BULLY | ナノ





次の日、今日は昼からの授業のため、のんびり起きた。

もうすぐ朝食が片付けられちゃうから急ごうというリーマスに仕方なくついていく。


「なまえ!」

あくびをしながら大広間までの道を歩いていると、リーマスが明るく呼んだ。
どこかに急ごうと小走りになっているイエローが足を止めて振り向いた。


「あ、リーマス! ……おはよ」



リーマスの声に振り向いた時は機嫌が良さそうだったが、俺と目があった瞬間無表情になった。
気に食わない表情だ。
昨日の怒りが湧いてきた。
朝食前に軽く運動してやるか。



ローブから杖を取り出して浮かせてやる。



「っ!」
「シリウス! やめるんだ!」
「朝からうざってえ顔見せやがって。山に帰れよイエローモンキー」


「ははは、マヌケな顔だね」




ジェームズが笑う。
浮かされてくるくると回るイエロー。
無様だな。



「下ろすんだ、シリウス」

俺の杖を持つ手を掴んだリーマス。


「うっ」



杖先がイエローから離れたため呪文が解けて地面に叩きつけられた。
潰れたような声が聞こえた。
情けない姿に口角が上がる。



「なまえ、大丈夫かい!」
「今のは俺が悪いわけじゃねえぜ」



駆け寄ったリーマスはイエローを起こした。
するとローブの中から紙で包まれた何かが出てきた。

匂いでわかる。
骨付き肉だ。
……こいつ、なんで今日も。



すぐさまイエローは包みをローブで隠すように持って走って逃げた。
あっちは禁じられた森の方だ。





「シリウス! 約束したじゃないか……! それなのにどうして」


イエローの背中を寂しそうに見送ったリーマスが俺に詰め寄る。
けど俺にはリーマスの声はよく耳に入らなかった。


「悪い……先に行っててくれ」
「シリウス? どうかしたのかい」
「いや、なんでもねえよ。あとで追いかける」



俺の真剣な顔にジェームズはなにか悟ったのか、いまだ怒っているリーマスを宥めて大広間に向かった。



「あいつ、もしかして……」



また俺に会いに行こうとしてるのか?



俺も禁じられた森の方へと向かう。
森について木の陰に隠れて昨日の場所を見れば、イエローが全く同じ場所に座っていた。


なんで。
なんであいつは今日もいるんだ。

昨日俺に襲われたこと忘れたのか?
本気で噛み付いてはいなかったが、どう考えても恐怖を感じただろう。
もしかして俺に肉をやったことで餌付けに成功したと思ってんのか。
野犬がそんな簡単に懐くわけねえだろ。
犬の急所を知っているくせにそんなこともわからねえのか。



目を閉じて精神を統一させて変身する。
目を開けると今日もなんの不備もなく犬になれていた。




陰から飛び出して昨日のように低く唸る。



物音に気づいたイエローが俺を見た。




『来てくれたんだね! 昨日は気に入ってくれたみたいだったから今日も持ってきたよ!』



また日本語を話して俺とイエローの間に先程の包み紙を開いて置いた。
包み紙の上には3本骨付き肉が乗っていた。




『遠慮せずに食べて』


……なんだこいつは。
わけがわからない。


俺は怒りながら出てきたはずだ。
普通なら怯えるはずなのになんでこんなに笑顔なんだ。



なんで、笑顔なんだ。


普段見たことがない表情に戸惑ってしまった。

こいつ、こんな顔して笑うのか。
なんだか拍子抜けした。
廊下で会ったときは憎たらしくて仕方なかったのに。
今のこいつはいじめる気も怒らなかった。



『もしかして、いらない?』




少し寂しそうな顔をする。
……笑顔が消えた。

なんだ、急に。
なんでそんな寂しそうなんだ。


顔を見ていると、イエローの視線は肉に注がれていた。



もしかして食べないから、寂しそうにしてるのか。



気づいたら鼻をスンスンと肉に向けていた。
一舐めしてやると、顔が輝いた。


俺は一体何をしてるんだ。
なんでイエローモンキーに与えられたものを口にしようとしているんだ。
しかも紙が敷かれているとはいえ、地面に置かれたものなのに。


がぶりと噛み付く。
肉汁が溢れ出ててうまい。
ぺたんと腹ばいになって前足で器用に骨をはさんで噛む。



『美味しい?』


微笑みながら近づいて来るイエロー。
その表情をなんだか見ていられなくて視線を肉に戻す。


ふわりとした感覚が背中を駆け巡った。
予想していなかった感覚にびくりと体がはねた。
振り向けば俺の横に座って背中を撫でていた。



『ご、ごめんね。食事中に邪魔されるの嫌だった?』



申し訳なさそうにするイエロー。
また表情が変わった。


無視して肉を食べ続けていると、またあの感覚があった。
また俺の背中を撫でてるのか。


本来ならイエローに体を触られるなんて許せないのに。
俺にも黄色が移るかも知れないのに。


俺は肉を食べ続けた。



(本来なら俺に触れる腕を噛みちぎってやるのに)
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