fate. | ナノ



本当に久しぶりに来たゾルディック家の屋敷。
重々しい扉を前に立つ。


あの時はイルのこと大嫌いだったな。
仕返ししてやるって思ってたっけ。

懐かしいな。




「親父、入るよ」



キルアのお父さんからの返事を待たずに扉を開けるイル。
焦ってるのかな。



中に入るとお父さんだけじゃなくゼノさんまでいた。
なんだか厳しい視線を向けられて腰が引ける。


……なんだか敵を見るような目だ。



なんで、初対面の時はもっと優しかったのに。
ゼノさんのこんな表情見たことない。




昔のイルに向けられるような殺気、というか威圧感に部屋の中に入れない。
怖くて足が動かない




「大丈夫だから」




イルが手をつないで引っ張ってくれた。
怖い。
イルがいなかったら腰抜けてる。





「イルミ、どういうことだ」
「親父。オレなまえと結婚するから」
「ターゲットと? 何を考えている」




私を一瞥して鼻で笑った。



ターゲット?
私が?

……私が殺しのターゲットだったなんて。
だからイルは私を殺そうとしたのか。





「なまえとは家族になるから、この依頼は破棄して」
「自分が何を言ってるかわかっているのか」
「なまえは一般人じゃろう。それをゾルディックに向かい入れることになるんじゃぞ」
「わかってる。オレがなまえを守るから」





私たちは気軽に結婚を決めたけどやっぱり簡単なことじゃない。
人を殺したことのない一般人と殺し屋のトップであるゾルディックが結婚することはおかしいんだ。

イルもそのことは十分わかっているんだろう。
けど結婚を諦める気はないらしい。
イルの目は揺らがなかった。



「これがオレの唯一のわがままだから」








――――お願いします。許してください。








イルが敬語を使って頭を下げた。
その様子を見てまた涙がこぼれそうになった。






「私は人を殺せないけど! お願いします!」



私も頭を下げる。
お願い許して。
私にはイルが必要だから。





「……本気か」
「うん」
「ゾルディック家にその女を向かい入れるのか」
「なまえじゃなきゃだめなんだ」




イルがはっきりそう言うと、キルアのお父さんがため息をついた。




「なまえ、来い」
「えっ」
「親父……」
「来い」




二人で顔を上げるとまだ鋭く私を射抜くキルアのお父さん。
イルも不穏に感じたのか止めようとしてくれる。
けどお父さんはそんなことは気にも留めてくれなかった。



……行かなきゃ。
私はゾルディックの、イルの家族になるんだ。




恐怖で震える足を叱咤してお父さんの前まで歩く。
怖い。
殺されるかもしれない。



お父さんの前に着くと、手が伸びてきた。
大きな手が迫ってきて体が固まって動けない。
目を瞑る。


首を締められるかと思ったけど、頭に乗せられた。






「頼むぞ、なまえ」
「え」



目を開けると、二人は先程までの表情と打って変わっていた。




「結婚式はやはり一般人のようなものがいいのか」
「え、ちょ」
「ゾルディック式と一般式がいいか」
「いや、わしはジャポン式のも見てみたいのう」
「ああそうだな」




ふたりの会話についていけない。
なんでもういきなり結婚式の話になってるの。
もっと怒るんじゃないの。
うちの息子を誑かしやがって! とか言われるのかと思った。




「親父、なんで……」



後ろにいるイルも状況が把握できていないみたいだ。
そりゃそうだ。
いきなり雰囲気が変わってついていけるわけ無い。
ついさっきまで殺気を漂わせていたのに今では家族の団欒だ。








「イルが嘘の依頼でなまえを本当に殺さんで良かったわ」




かっかっか、と笑うゼノさん。




「う、そ……?」
「ああ、そろそろ結婚しても良い頃だと思っていたが、イルが全然そんな話を持って来ねえからな」
「わしらが人肌脱いだってわけじゃよ」



普通に考えてなまえのような一般人を殺すためにわざわざ大枚はたいてゾルディックに依頼するわけ無いじゃろう。


ゼノさんがからかうように言った。
確かにそうだけど。
私なんか依頼しなくても普通に殺せる。



「じゃあ、なまえを殺さなくてもいいの」
「ああ。そんな依頼存在しない」
「っ、親父!」
「まあ、結果オーライだろう」
「……」



イルの機嫌が悪くなる。





「あんなに感情を表に出すイルは初めて見るのう」
「え……」
「イルにとってお主はそれ程の存在ってことじゃ」
「ゼノさん……」
「イルを頼んだぞ、なまえ」
「っ、はい!」



ゼノさんの優しい表情に力強く頷いた。
私は、イルと幸せになる。





「あとは二人に任せる。まだやるべきことはあるだろう」





キルアのお父さんにそう言われる。
そうだ。私の両親に何も言ってない。
それに、キルアのお母さんにも……。
ああやだ、憂鬱になってきた。





「なまえ行こう」




けど、憂鬱な気持ちもイルがいれば乗り越えられそうな気がする。



ゼノさんとキルアのお父さんに頭を下げてからイルに駆け寄った。
手をつないで部屋を出る。




「わっ」


扉が閉まったとたん、繋がれた手が引っ張られてイルの胸に飛び込む。


「なまえを殺す依頼が嘘でほんとに良かった……」
「……うん。殺さないでくれてありがとう」



心の底から安心したような声に私も嬉しくなる。
本当にこれが嘘で良かった。

……けどこれがなければイルも結婚しようとは思わなかったんだろうな。
本当に結果オーライだね。





「これでなまえはオレのお嫁さんだね」
「これでイルは私の旦那様だよ」





視線を交わすと、イルが初めてこんなに嬉しそうな顔で笑った。
離れて、手をつなぐ。
イルの部屋に向かって歩き出す。






「イルのその笑顔好きだよ」
「オレもなまえの嬉しい顔好き」






繋がれた手が離れないように強く握った。



(あんなに遠かった距離が、ほら)

*end*


完結しました。
みなさま本当に応援ありがとうございました。
更新が気まぐれで本当にすみません。
みなさまからの拍手コメント、お返事していないことが多いですが一つ一つ取りこぼすことなく読ませていただいてます^^
皆様からのコメントは励みになりますし、嬉しくてニヤケが止まらなくなっちゃいますw
何回も読み返させていただくことがほとんどです!

これからも当サイトをよろしくお願いします。
次の連載まで気長に待っててくださいね!

らいおん
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