「まだ、折ってるの」 イルがお風呂から上がってきた。 今日はなんだか長風呂だったなあ、イル。 そんなに汚れちゃったんだろうか。 まあ、髪の毛長いからちょっと汚れが増えるだけで大変だからなあ。 「カルト君覚えが早くてね、今はゾウ教えてるんだー」 「へえ」 「兄様! このキリンもボクが作りました!」 「ふーん」 「にい、さま……?」 ……なんか、イル冷たくない? 自信満々にキリンをイルに見せたカルト君も可愛い笑顔が消えた。 さっきカルト君が鶴を見せたときは感心してたのに。 いきなりどうしたんだろう。 「イル?」 「ねえなまえ」 「な、なに?」 私が話しかけた言葉にかぶせるように声をかけてきたイル。 なんだか折り紙の話をしたくないみたいだ。 「その髪留め、市で買ったの?」 「あ、これね、キルアが買ってくれたの」 「え」 「え!?」 イルだけではなく、カルト君も驚き声を上げた。 あ、これ言わない方が良かったのかな。 まさかキルアを連れて帰るなんて言わないよね。 その時はキルアのためにこの二人を止めてあげよう。 私なんかが止められるかわからないけど。 「キル兄様に会ったの!?」 「うん、たまたまね」 カルト君が作った折り目の綺麗なキリンを放り投げて私に詰め寄ったカルト君。 カルト君もキルアのことすごく好きだもんね。 「なんで連れて帰ってこなかったんだ!」 カルト君が顔を歪めて私に聞く。 その顔が今にも泣き出しそうでなんだか申し訳なくなってくる。 「ごめ……」 「待って」 またイルが私の言葉に被せてきた。 「カルト」 呼ばれたカルト君の体が硬直する。 泣きそうに歪んでいたカルト君の顔が今度は青ざめていく。 「なんでカルトが驚いてるの」 「っ、あ……」 「護衛でなまえの傍についてたはずだよね」 やばい。 そうだった、カルト君がそばに居てたら一緒にキルアに会ってるはずだ。 カルト君が一緒にいなかったことがバレた。 「護衛、どうしたの」 「す、すみませ、ん……」 「カルトはオレのお願いを聞いてくれなかったんだね」 「にいさま……」 「お願いじゃなくて命令にすればよかったね」 ゆっくりと濡れた髪をかきあげてカルト君に近づく。 カルト君は怖がって動けないようだ。 「い、イル! あのさ」 「なまえは黙ってて」 今日のイルは私の話を聞いてくれない。 カルト君を私の胸に閉じ込めてイルからの視線から庇う。 「なっ……」 カルト君は混乱しているようだけど、離れようとはしなかった。 よかった、嫌がられなくて。 「なまえ」 イルが更に不機嫌になったような気がしたけど、気にしないようにした。 「カルト君を叱らないであげて!」 「オレは悲しんでるんだ。カルトが兄ちゃんのお願いも聞いてくれない子だったんだなんて」 無表情でそういうイル。 表情ないけど顔怖いよ。 カルト君も怯えたように私の胸の中で震えた。 「私が一人でゆっくりしたいからカルト君にどっか行ってって言ったの!」 「え」 「だから、カルト君は何も悪くないんだよ! だから叱らないで」 驚いたような声を出すカルトくんを強く抱きしめる。 私が悪いってことにしておけばいいんだよ。 「イル、ね、おねがい」 「なまえこそお願い。ちょっと違う部屋に行ってくれない」 「イル!」 「……なまえ」 「イル……おねがい」 「…………」 イルから目を逸らさずに言う。 目を逸らしたら押し通せない気がする。 言葉を発さずに目だけで訴える。 下手に言葉にするよりもこっちの方が通じる気がする。 お願い、見逃して、イル。 「……はあ、カルもう行っていいよ」 「え?」 カルト君が私の胸から顔を上げてイルを見た。 「今回は不問にしてあげるから、自分の部屋に帰りな」 「よかったね! カルト君!」 「う、うん……」 カルト君はまだよく状況を分かってない様子だ。 だから私がカルトくんから離れて背中を押してあげる。 「兄様、本当にごめんなさい……」 「もういいよ、カル。なまえにお礼言いな」 「はい。あ、ありがとう……」 「いいよ! また後でゾウ一緒に作ろうね!」 「うん」 返事してカルトくんは部屋から出ていった。 ドアが完全にしまったのを確認してイルが私の隣に座った。 「イル、ありがとう」 「……今回は何もなかったから良かったけどもし何かあったらどうするの」 「うん、ごめん」 「今ヨークシンは治安悪いって言ったよね」 「ごめん」 「カルを庇ったでしょ」 「バレてたの?」 「うん」 やっぱりイルには嘘つけないかあ。 それでも見逃してくれたんだからイルは優しい。 「お願いだから心配させないでよ」 「ごめんね」 イルの手が伸びて、キルアがくれた髪留めに触れた。 「キル、元気だった?」 「うん、身長も伸びてたし、体もがっちりしてたよ」 「……そう」 羨ましそうに髪留めをいじる。 「今度は三人でどこか出かけよ」 「え」 「あ、カルト君も入れたら四人か。どこか買い物行こう」 「……うん」 「私がキルアと手繋ぐね」 少しからかう気持ちを込めて言ってやる。 イルも対抗するだろうな。 「だめ」 やっぱりね。 イルはキルアのこと大好きだし。 別に私とキルアが手繋いでもまだキルアのもう片方の手が残ってるから別に争わなくても繋げるのに。 イルはそんなこと考えてないんだろう。 可愛いなあ。 「左手でキルと繋いで、右手でなまえと繋ぐから」 「え……」 「だからキルと繋ぐの諦めて」 「わ、私とも繋ぐの?」 「うん。だってオレがなまえを守らなきゃ」 髪留めをいじっていた手を私の頬に添えたイル。 「ふふ……」 「なに」 「嬉しいんだよ」 「嬉しいの?」 「うん、嬉しい」 そう言うと、イルが私の顔を見つめてきた。 見つめる意味がわからなくて首をかしげると、イルがぽつりと呟いた。 「オレ、なまえの嬉しい顔好き」 「え」 イルが私の膝に頭を乗せてきて目を閉じた。 いきなり熟睡の体勢だ。 「髪の毛乾かしてないけど……」 まだしっとりとする髪に指を通した。 (深い意味はないとわかっていても胸が飛び跳ねた) [戻る] ×
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