fate. | ナノ




手をつないだまま歩いているとキルアがぴくりと反応した。



「どうしたの?」
「いや、なんでもねえ」




何事もなかったかのように歩き出すキルア。
何か見つけたんだろうか。
お宝かも知れないんだから止まってじっくり確認すればいいのに。

あまりいい商品じゃなかったのかな。
そう思いながら歩いていると、今度は立ち止まった。




「お、少しだけどオーラ出てる」
「ほんと?」



立ち止まってキルアが手にしたのはなんだかよくわからない木像。
これがオーラを出してる?
念っていうのはよくわからないなあ。
札を確認するとまたあの名前が。




「ゼパイルって人がまた書いてるよ」
「げ、マジかよ。コイツももしかして俺らとおんなじ考えか?」



ゼパイルも念を使えるかもしれない。
すごいね、案外念使える人多いんだ。



また2.5倍の値段に書き換えたキルア。



「ゴンに電話するわ」
「わかった」






ゴン君に電話して報告してるみたい。
私はその間暇だからとなりのアクセサリーの店を見る。


あ、このネックレス可愛いな。
けど、この髪留めも可愛い。
きらきらと光っててなんだかおしゃれだ。
いいなあ、これ買っちゃおうかな。


手に取ると、それが奪われた。




「こんなのが欲しいわけ?」




いつの間にか電話が終わったキルアが私が持っていた髪留めを持っていた。
全然後ろにいる気配無かったよ。




「可愛いでしょ、これ」
「やめとけよ」
「えーなんで!」
「なまえには似合わねーよ」
「そうかなあ」




キルアがそういうんだからしょうがない。
可愛かったけど諦めるか。

髪留めを元の位置の戻す。



「なまえ、さっきの人形のところまで自分で戻れるか」
「え? ああ、戻れるよ」
「もうすぐ12時だからよ見てきてくんね?」
「わかった」
「もし上乗せされてたら2.5倍な!」
「オッケー」




そう返事して立ち上がる。
そうか、キルアはこの木造を手に入れるから私はあの人形を手に入れるのね。
これでゼパイルが来ても両方手に入る。
さすがキルア、やっぱり賢いね。


人ごみ紛れてさっきの人形が置いてある店まで戻る。



けどやっぱりさっきの髪留め欲しかったなあ。
キルアに内緒でやっぱり買おう。
後で戻ってきた時に買えるかな。






「あったあった」


さっきの人形を手に取るとキルアの値段がゼパイルに書き換えられていた。
うわ、やっぱり念つかえるよこの人。
頑なにこのオーラが出てる人形を欲しがるんだし。
しかもキルアの値段の4倍って……。
よっぽど欲しいんだな。



確か規定時間は12時だから一分前とかに書き込んだほうがいいよね。



時計を確認すると11時55分。
うわ、もうすぐじゃん。
もう書いていいかな。
いや、けど、また書き換えられたら嫌だし。
また4倍とか上乗せされたら嫌だし。





結局59分まで待って、書き込んだ。
12時1分になって店の人にこの商品を買ってもいいか聞くとオッケーしてくれた。


「5万500円……」



しがない定食屋の娘としてはとんでもない痛手。
けど、可愛い弟のためだ……!
あの髪留めは諦めてお姉ちゃんがお金を払ってあげようじゃないか……!



薄い財布の中を探せばなんとか足りて、涙を飲んでお店の人に渡した。
うう、これもキルアのため……。
五万くらい安いもんだ!
すっからかんになった財布を鞄にしまう。



人形を受け取ってキルアのところへ戻ろうと歩いているとキルアもこっちに向かって歩いていた。



「キルア! 落札できたよ!」
「おーさんきゅ。いくらだった?」



財布を開けながら言うキルア。
私にお金を返すつもりなんだろう。



「いいよいいよ! 大丈夫! お姉ちゃんからのプレゼント!」
「はあ? お前金持ってねーだろ」


返すから値段言えとキルアが言う。
ちょっとくらい私にもお姉さん面させてくれてもいいじゃないか!





「いりません!」
「はあ、お前絶対後悔すんぞ」
「しません!」
「まあ、そんなに言うんだったらいいけどよ」




呆れたように言うキルア。
後悔なんかしません! ……多分。

人形をキルアに渡す。




「オレ、もう行くわ」
「え、行っちゃうの?」
「おー。これオークションに出さねえと」
「そっか……もう行くのか」




ああ、こんなに淋しいのは私だけなんだろうか。
まだ一時間くらいしか一緒に居てないのに。



「んな顔すんなよ」
「だって、次会えるのなんていつかわからないのに!」
「あー、まあそうだな」
「キルアあああ!」


寂しいよ、パドキアに帰っておいでよ。
前みたいに一緒に暮らそうよ。


キルアを引き止める言葉はいっぱい浮かぶけど、こんなことは言えない。
キルアは今楽しんでるんだから。
可愛い子には旅をさせなきゃ。












「ほら、これやるから」





キルアを寂しそうな目で見てたのがバレたのかキルアは気まずそうに拳を差し出してきた。



え、何かくれるの?

手のひらを差し出すと髪留めがそこに乗せられた。



「え」
「お前がさっき欲しがってた髪留めより、こっちのほうが絶対似合う」



歩いてる途中にこれ見つけて買ってやろうと思ってたら、お前がさっきの店で自分で髪留め買おうとするから焦ったぜ。
と、耳を赤くしながらそっぽ向くキルア。


だから、さっき一瞬だけ足止めたのか。
私に似合う髪留めを見つけてくれたんだ。
だから私が自分で髪留め買おうとしたのを止めたのか。




もうなんか、いろいろ溢れてきてキルアに抱きつく。




「キルア! ありがとう! 一生大事にするからね!」


やばい、自然と涙腺が緩む。
なんて優しい子なんだ。



「一生とか大げさだろ」
「いや! 墓場まで持っていくからね!」
「気持ち悪ぃ」




言葉は辛辣だけど声色は嬉しそうだ。
その証拠に私を引き離そうとしない。
ああもう好きだ!



だから私が背中を押してあげないと。




「キルア、ゴン君と仲良くね」
「わーってるよ」
「怪我や無茶はいっぱいしてもいいけど死んだらダメだからね!」
「……」
「絶対また私に顔見せに来てね」
「……」
「辛かったらいつでも連絡してね」
「……」
「私はいつでもキルアの味方だからね!」
「……おう」





キルアを思いっきり抱きしめる。
キルアもほんの少しだけど、片手だけど、抱き返してくれた。



名残惜しく離れておでこにキスをする。



急に慌て出すキルア。




「なっ、なにすんだよ!」
「キルアが無事に旅ができるようにおまじない」
「くっそ、恥ずいやつ。……もう行くわ」
「おう! 気をつけてね」
「おー」





耳まで真っ赤にしてキルアは私に背を向けた。


……もう行っちゃうんだなあ。



逞しくなった背中に寂しさを感じる。



こうやって私の知らないうちに成長していくんだな。






しばらくキルアが歩くと振り向いた。


あれ、何か忘れもの?





「……っ、じゃあな! ねえちゃん!」




走って行ってしまった。




(不覚にも顔から火が出そうになった)
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