fate. | ナノ





昼休み、イルがご飯を食べにやってきた。


私は余り物で作ったチャーハンまがいのもの。
イルはいつも通りきつねうどん。



隣に並んで黙々と食べる。





「今日はいつ帰る?」
「一時間後には仕事に行く」
「ええ! もうすぐじゃん!」
「うん」




こんなとこで優雅にうどんすすってる場合じゃない。




「早く家帰らないと!」
「まだ一時間もあるよ」
「だ、大丈夫なの?」
「うん」




もう食べ終わったのか箸を置いたイル。
相変わらず食べるの早い。




「眠い」




無表情でそう小さく呟いたイル。
全然眠そうには見えないけど、本人がそういうんだから眠いんだろう。




……あ、ほんの少しだけ目がとろんとしてるかも。
ほんの少しだけどね。




「どうする? 三十分くらい仮眠取る?」
「……」




はいはい、無言は肯定。
今日は天気がいいから布団はベランダに干してある。
だからそれを取り込むために立ち上がると、腕を掴まれた。





「え、なに?」




無言は肯定じゃないの?






「イル? 布団とか取り込まないとイル寝られないけど……」
「違う」




違う?
何が違うの。



相変わらず主語がないから全然何が言いたいかわからない。
もうイルと出会って二年経つけど、こんな意思疎通は流石にできない。
ってか、キルアも絶対出来ないと思う。



もうちょっと考えが顔に出たらなあ。
けど、考えてることが顔に出るイルとかいやだ。



「ねえ、あれして」
「あれ?」
「せーざ」
「せーざ? ああ、正座?」
「うん」





とりあえず言われた通りに正座するとその上に頭を乗せてきた。




「お、おおっ……」
「なに」
「いや、なんでもない、けど」
「けど?」
「……なんでもないです」
「じゃ、寝るから。おやすみ」
「……おやすみ」





目を閉じて私のお腹に顔を寄せてきたイル。



思わず固まる。

なんでいきなり。






あ、もしかして仮眠だから?
ベッドで寝たら熟睡しちゃって寝過ごすかもしれなから?



……だからこの寝方か。





ああ、そういうことか。
こうやって考えないとわかんないから困る。





さらさらの絹のような黒髪に指を通す。

起きるかな、と思ったけどそんな気配はなかった。
案外熟睡してる?









「これじゃあベッドで寝てるのと変わんないじゃん」






吹き出しそうになるのを耐える。
まあ、私が傍にいるから起こしやすいし、いいか。





何度か髪を撫でてから、手を止めてだらりとおろす。
せっかくの休憩だし私も少し寝ようかな。
なんだかイルが寝てるのを見ると私も眠くなってきた。
座って寝るわけだから、寝過ごすなんてことはないだろうし。





目を閉じようとすると、腕を掴まれた。





「ぎゃ! な、なに!?」
「なんで止めるの」
「起きてたの!?」
「続けてよ」



私の質問に答える気はさらさらないらしい。



掴まれた手がイルの頭に乗せられた。





「撫でればいいの?」
「…………」





無言は肯定だね。







また頭の形に沿って撫でる。



綺麗な丸い形だなあ。
髪もサラサラで羨ましい。



これだったら飽きずに撫でられるね。



多分眠ってるイルが子供みたいで可愛くて頬が緩む。













―――― 十五分後







「っ、い、イルっ……! イル……!」
「……ん。なに、もうそんな時間?」
「ごめっ、ちょ、どいて!」
「え?」



イルが退いてくれて、前のめりに倒れる。


膝立ちから、手を畳に付けたからなんだかガーンというような効果音がなりそうな体勢になる。


できるだけ膝から下に負担が掛からない体制にならなきゃいけないから仕方ない。





「っ、ふーっ」
「どうしたの」
「うっ……! なんでもない!」
「……」
「うぎっ!」




イルが私の足に触れた。





「足、痺れてるの」
「お願い、放っておいて! あぐ!」
「痛い?」
「やめて! ちょ!」




逃げようとしても、振動が加わると響くからノロノロと動くとまたつつかれる。





「やめてってば! いっ!」
「はっはっはっ」
「イル!」
「はっはっはっ」
「イル!」



(こんな楽しそうなイル初めて見たよ!)
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