「ふー温まった、温まった」 お風呂を上がって、2階に上がる。 はー明日も早いし寝よ寝よ。 部屋のとドアを開けて中に入る。 「……? ぎゃああ!」 電気をつけるとベッドにイルが座ってて思わず飛び上がる。 「なまえ……」 「い、イル……帰ってきてたの? 大丈夫、怪我してない?」 「なまえ」 「え、どうしたの? 何かあったの?」 立ち上がってイルが私の方にゆっくりと歩いてくる。 え、なんか怖いんだけど。 なに、またキルアと何かあったの。 もしかして帰ってこなかったとか? うわ、ありそう。 「なまえ、なまえ」 「い、イル?」 近づいてきたイルにそのまま抱きしめられた。 なんで抱きしめられてるの。 なにこれ、意味わかんない。 「なんで、なんで電話かけてこないの」 「あ、いや……」 「首締めたのでオレが嫌いになったの」 「え?」 「嫌になったの。ごめん、ごめん」 「ちょっ、ちょっ! イル!? 落ち着いて!」 肩を押してイルから離れる。 この子一体何言ってるんだ。 全然話が読めない。 「私が連絡しなかったのは何時から何時までが試験中かわからなかったからだよ」 「え」 「もし私が電話かけたときにサバイバル中だったり、敵から身を隠してる時だったりしたらやばいでしょ」 もしそんな生きるか死ぬかの瀬戸際で私からの着信音が鳴るなんてことがあったら。 私がイルを殺したも同然だよ。 そんなリスクをしょってまでイルに連絡なんて出来るわけないでしょ。 だからイルから連絡くるの待ってたんだけど……。 よくよく考えれば私はイルの連絡先知ってるけど、イルは私の連絡先知らない。 ついうっかり。 イルも私からの連絡待ってたんだね。 なんだか申し訳ないことしちゃったかなあ。 「……そっか」 「納得してくれた?」 まさか連絡してこないのを私が首絞められたこと根に持ってるからって悩んでたなんて。 イルがまさか人を傷つけたことに対して反省してるなんて思わなかった。 ……殺し屋だし。 「よかった……」 「怒ってると思った?」 「うん」 また抱きついてくる。 今日は甘えたい日なんだろうか。 それともこんなに弱るほど悩んでいたんだろうか。 「ま、確かに、覚えのない罪着せられて、首締められるなんてねえ」 「……」 「私の話なんか全く聞かないでいきなり馬乗りになるし」 イルの腕が私が言葉を紡ぐたびに反応する。 自分がどれだけ悪いことしたかちゃんと理解できてる。 「それに窓。次の日ゾルディックの執事さんが直してくれたけどさ、一晩は窓空きっぱなしだったんだよね」 「……」 「一月だよ。あの時、確か今シーズン最大の寒波だったよなあ」 それにガラス片が床中に散らばってさ、手とか足とか切っちゃうし。 ああ、痛かったなあ。 わざと嫌味ったらしく言ってみる。 あの日はお母さんたちと寝たから別に何も問題はなかったんだけど。 ここまで反省してるイルをみるとなんだか意地悪したくなってくる。 イルの抱きしめる力が強くなった。 「ごめん」 「もうしない?」 「絶対しない」 「そっか。じゃあ許してあげる」 背中をぽんぽんと叩いて離れる。 イルの顔を覗き込むと、無表情だったけどどこかホッとしたような雰囲気が感じ取れた。 二年もいると案外わかるもんだね。 「ところでキルアはどうだったの?」 「うん。帰ってきたよ」 「そっか! 一安心だね。試験は?」 「オレは受かったよ」 「そっか」 ってことは、キルアは落ちちゃったんだ。 まだ十二歳だし、早いよね。 ハンター試験を十二歳で受かるほうがおかしいよ。 またイルくらいの年になったら再挑戦したら余裕で受かるんじゃないかな。 「キルア、落ち込んでないといいけど」 「別にハンターになりたいわけじゃなかったみたいだし、大丈夫じゃない?」 「……力試しみたいなもの?」 「さあ」 そっか自分がどれだけの力がついたか試しに行ったんだね。 じゃあ、まだ力が足りないことに気づいて頑張れるかもしれないね。 「難しかった?」 「ううん。簡単だったよ」 ベッドに並んで座る。 「どんな試験だった?」 「簡単に言うとマラソンと料理、迷路、サバイバル、トーナメント戦かな」 「えー! 料理なんかあったんだー!」 「うん。オレもどうしようかと思った」 「世の中には美食ハンターっていうのもあるしね」 へえ、ハンター試験って戦いのスペシャリストばっか受けてるものだよね。 その中でいきなり料理なんてお題が出たらかわいそうだなあ。 もしかして、キルアそれで落ちちゃったのかな。 ありえそう。 キルアって料理とかできないでしょ。 てか、イルがどうやってこの試験切り抜けたか気になる。 「そうだ、ジャポン料理のお題出たよ」 「うそ! すごい!」 「スシだって、ここの定食屋では売ってないよね」 「お寿司だったの!? そんなの職人さんしか作れないよ」 「うん。なんか試験官が言ってた気がする」 「鬼畜だね、その試験官」 そりゃあ、キルアも落ちるよ、うん。 仕方ないね。 運が悪かったんだよ。 よくイルは合格できたね。 ふと、思い出す。 そうだ、キルアはお母さんとミルキ君に怪我させて家出て行ったんだよね。 ……今頃めちゃくちゃ怒られるんじゃ。 怒られるだけで済めばいいけど。 拷問とか……ありえそうだ。 「キルアはどうしてる?」 「オレ仕事が入っててさ、まだ帰ってないんだけど独房でお仕置き受けてるらしいよ」 「やっぱり……キルア泣いてないかな」 「ミルキがやってるし今頃寝てるんじゃない」 「え! 痛いことされてるのに寝るの!?」 「ミルキ拷問下手くそだし」 拷問に上手い下手あるんだ。 痛くするように叩くとかだけじゃないんだね。 ……想像しただけでぞっとする。 こわいなあ。 私だったら瞬殺なんだろうな。 「ねえ。俺また明日から仕事なんだけど」 「え! 休む暇もなく?」 「うん。ライセンスとったし」 「そっか。ハンターライセンスとったらどこでも行けるもんね」 行動範囲が増えるから必然的に仕事も増えるのか。 大変だなあ。 「あ、もう寝る?」 明日も仕事なのに帰らずここにいるってことは、泊まっていく気なんだろう。 じゃあ、お母さんたちのとこ行こう。 案外イル、私のベッド気に入ってくれてるからなあ。 家族からの攻撃を受ける心配なく熟睡できるからかな。 部屋から出ようと立ち上がると手を掴まれた。 「どこ行くの」 「え、お母さんの部屋」 「ここで寝るんじゃないの」 「え、イルがここで寝るんでしょ」 ……もしかして一緒に寝る気だったの。 いやいや、私のベッドシングルだし。 身長180オーバーの男と寝たら絶対落ちる。 「なまえがここで寝なよ」 「イルはどこで寝るの」 「ここで座って寝るよ」 ベッドの下のカーペットを指差す。 いや、ダメでしょ。 明日仕事だってのに座って寝るだなんて。 熟睡できないよ。 これじゃ家に帰って寝るのと変わらないんじゃ。 「いいから、ベッドで寝て。私はお母さんのとこで寝るから」 「……」 何を意地になってるのか、寝ようとしないイル。 もう、なんなの。 どんどん睡眠時間削られてるのわかんないのかな。 イルはもちろんだけど、私も朝早いんだけど。 「ほら、寝るまで手握ってあげるから」 ん、と手を差し出せば渋々といった感じで布団に入る。 そして冷たい手に握られた。 子供みたい。 「今日は甘えたの日?」 「え、甘えた?」 「いつもこんなことしないでしょ」 「そうだね。……オレ、甘えてるのかな」 不安そうに言ったイル。 もしかして、お兄ちゃんだから甘えちゃいけないとか思ってるのかな。 「今日だけはいいんじゃない」 「そうかな」 「そうだよ」 ぽんぽんとイルのお腹あたりを叩いてあげる。 仕事とハンター試験が重なって一ヶ月以上も緊張しっぱなしだったんだからしょうがないよ。 しばらくその状態を続けていると、目を閉じたイル。 熟睡の体制に入ったんだろう。 (おつかれさま) [戻る] ×
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