fate. | ナノ



今日は店の定休日。
お父さんとお母さんはそれぞれ用事があるとか言って家にいない。




イルが久しぶりに家に来た。



イルがみたらしを食べてる横で、キルからの手紙の返事を書く。

なんか、この手紙のキルアめちゃくちゃ荒ぶってるんだけど。
字が殴り書きみたいになってるんだけど。
なに、一体どうしたのこれ。



内容はイルが朝帰りしたことについて書かれてる。
ああ、そういえば一か月前くらいに家に泊まったんだった。


やっぱ、連絡しなかったのはまずかったか。





「イル、怒られたの? 家に泊まったとき」
「うーん、母さんは怒ってたかな」
「うわ……ごめん、起こせば良かった?」
「別にいいよ、どっちかというと怒ってるよりも嘆いてるって感じだけだったし」




いやいや、いいのかそれ。
相変わらず、私ってイルのお母さんに嫌われてるんだなあ。


ああ、二度と会いたくない。





ため息をつくと、イルが覗き込んできた。



「どうかしたの」
「ん、いや……って、ちょ、やばいやばい! タレが髪につく!」



首をかしげて私を覗き込んでくるから机に乗ってるみたらしに髪がつきそう。


イルの髪を持ってみたらしから遠ざける。




「あ、ほんとだ」
「随分のんきだね。自分の髪なのに」
「んーまあ、あんま気にしてないし」




近くに私の髪留めがあったのでイルの後ろに回って結んであげる。
櫛を髪に通すと引っかかることなく梳ける。

ほんとにきれいな髪だなあ。





「髪伸びたね」
「そういや、この頃切ってない」
「初めて会った時は短かったのにね」
「そうだっけ」



今ではもう肩甲骨に近いところまで伸びてる。



「短いほうがいい?」
「んー、別に長くてもいいんじゃない?」



髪の長いイルとか新鮮だし。



そう言うと、そう、と短い返事が返ってきただけだった。




「はい、できた」
「ん」




髪だけ見たら女の子みたい。
黒髪のジャポンでもこんな綺麗な髪の子いないんじゃない?



「あ、そうだ」




思い出した。
近くの棚を漁って、目当てのものを取り出す。




「これ、ゼノさんに渡してくれない?」
「なにこれ」
「ジャポンの通販雑誌。おじいちゃんから送られてきたんだよね」


ジャポンの伝統の刀だとか着物だとかが電話一本で頼める。
ゼノさんって、こういうの好きそうだし。




「ふーん。渡しとく」
「ありがと」






しばらくしてイルは帰っていった。









――――数日後、イルがキルアからの手紙を持ってきた。




―――――――――――――

なまえへ


なまえがじいちゃんに渡したジャポンの通販雑誌あるだろ?
それをおふくろが見てさ、なんかキモノ? だっけ。
それが気に入ったみたいで、めちゃくちゃ買いあさってるんだけど。


カルトが毎日着せ替え人形にされてる。
ジャポン人って毎日あんなの着てんのか?
めちゃくちゃ動きにくそうだな。あれ。





それはまあ置いといて、この前…………ってなってよ、じゃ、またな!





キルアより



―――――――――――――






キルアの手紙の後半部分は頭に入ってこなかった。




え、カルトってあの一番下の子だよね。
前キルアの家行ったときにめちゃくちゃ睨んできた子だよね。









「あのさ、イルの兄弟で一番年下の……」
「カルト?」
「う、うん。あの子って女の子?」
「男だよ」
「そ、そっか……」



そうだよね、イルの兄弟は全員男だもんね。





「あのジャポンの服って動きにくそうだよね」
「そ、そうだね」
「あれで刀とか扱うとか、難易度高いよね」



きつねうどんを食べながらイルがそう言った。




そりゃ、あれは刀を扱わない女が着るものだからね。



(ごめん、カルトくん)
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