キルアside 兄貴が昨日帰ってこなかった。 仕事が手間取ったのかと思ったけど、今回は量は多いけどそんなに難易度の高い仕事じゃないからそれはないとじーちゃんが言ってた。 じゃあなんでだ? 兄貴は仕事以外では外に出ない。 仕事がない日は基本家にいて俺らの訓練をする。 この頃はちょくちょく家を出てるけど、どこに行ってるのかはわからない。 じーちゃんと親父は知ってるらしいけど、オレらには教えてくれない。 とは言っても兄貴は仕事に関してはものすごく潔癖だ。 きっちりとこなす。 そんな兄貴が仕事の報告もなしに行き先も伝えず出かけるなんてことは今までなかった。 だからおふくろもカルトも心配してる。 兄貴に何かあったんじゃないかって。 おふくろなんか朝飯も喉が通らないというようにヒステリックになってる。 まさか兄貴に何かあるなんてことはないだろうけど、気になる。 どこいってるんだ? まさか友達のところってことはないだろうし。 ……兄貴に友達なんていねえ。 毒入りの朝飯を食いながら考える。 すると、ゴトーが食堂に入ってきた。 「失礼します。イルミ様がご帰宅なされました」 「まあ! 今どこに!?」 「今試しの門を越えられて、こちらに向かっていらっしゃいます」 「ああ、良かったわ」 ほっとしたのかおふくろが椅子の背もたれにもたれた。 しばらくすると食堂のドアが開いて、兄貴が何食わぬ顔で入ってきた。 ものすごく体中に匂いを漂わせて。 食堂にいた全員の鼻が反応した。 「ただいま」 「お、おかえりなさい、イル」 おふくろの顔が引き攣ってる。 そりゃそうだ。 兄貴から匂いがするなんて。 殺し屋として体臭は命に関わる問題だ。 敵にはもちろん鼻が利く奴もいるし。 ゾルディックに体臭のあるやつはいない。 「連絡もなしに朝帰りか」 「ごめん、親父」 寝てて連絡できなかったんだ。 と、いつも通り……少し機嫌が良さそう? に言って兄貴の席に座った。 「い、イル……? 寝てたって、どっ、どこで……?」 おふくろの声が震えてる。 そりゃそうだ、こんな匂い、誰かと一緒に寝ないと……。 誰かと? 兄貴が誰かと寝た? 家族以外の、しかもこの匂いは女の匂いで、その女と寝た……? 不快じゃない懐かしい匂いに、オレは気づいて思わず立ち上がる。 この匂い……! 「イル兄! もしかして、なまえの……!」 「き、キル! なんてこと言うの! イルに限ってあんな小娘の家に泊まるわけないじゃない! ね、イル?」 おふくろが願うようにイル兄に尋ねた。 カルトもブタくんも固まって、成り行きを見守ってる。 親父とじいちゃんだけは楽しそうだ。 「キルの言う通りだよ」 そう答えた瞬間、おふくろの金切り声が響いた。 ……イル兄が、なまえの家に……? しかも、一緒に寝た? なんで? イル兄はなまえのこと嫌いなんじゃ……。 「イル兄! なまえに無理矢理……!」 なまえは一般人だ。 兄貴に押し倒されたら抵抗なんて全くできない。 それをいいことに……! なまえは俺の姉貴同然なのに! 「キル! 恐ろしいこと言わないで頂戴!! イルがあんな小娘に欲情なんかするはずがないでしょう!!」 「よくじょう?」 首をかしげたカルトの耳をブタくんが塞いだ。 ナイス、ブタくん。 「違うって。ただ本当に寝ただけ」 「なまえと一緒にか?」 「オレがベッド占領してたから違うよ。両親と寝たんじゃない?」 結構熟睡してたし、オレが起きたらもうみんな起きて店の準備してたから知らないんだよね。 と言って、朝飯を食べはじめた兄貴。 兄貴がなまえの部屋で熟睡? 家でも熟睡しないあの兄貴が? 何回寝込みを襲っても返り討ちにされてきたのに? それほど兄貴の眠りは浅い。 なのに、家のみんなが起きても起きなかった? なんだよそれ。 意味分かんねえ。 「イル!! 今すぐお風呂に行ってその忌々しい臭いを落としてらっしゃい!!」 「あ、やっぱり匂いした?」 俺も、あの部屋に入った瞬間に匂いつくかなーと思ったんだけど、やっぱりついてたんだね。 朝食食べたら行くよ。 と、今は立ち上がる様子はない。 兄貴は他人のものが自分につくのはを嫌う。 血はもちろん、相手の髪や私物がついたら機嫌が悪くなる。 匂いもその中に入る。 なのに、嫌がらない。 なんでだ? いつもそんなことがあったら真っ先に風呂に行くだろ。 なんで優雅に飯食ってんだよ。 なんでいつもより機嫌がいいんだよ!!!! (なにがどーなってこーなったんだ!!) [戻る] ×
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