fate. | ナノ






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なまえへ



あんこのおはぎ以外にもきな粉のがあんのか!?
食いてえ!
なんで今回渡さねえんだよ!
くっそー早く食いてえ!




……てか、なまえってイル兄と付き合ってんのか?




キルアより



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キルアへ


いや、あんこのおはぎ渡したから今回はいいかなーと思って(笑)
あんた本当に甘党だねー。
今回はきな粉も三色団子もあるから感想聞かせて。
イルは案外三色団子よりもみたらしの方が気に入ったかもしれない。
もしみたらしも欲しかったら言ってみて。




はあ!? あたしがイルと!?
あんたが私とイルの関係よく知ってるでしょーが!
馬鹿なこと言ってないで勉強しな!





なまえより



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なまえへ



きな粉びみょーだった。
やっぱおはぎはあんこだな!
三色団子うめー! 緑の団子はちょっと苦いけどピンクと白はうまかった!
みたらしも食いたい!





いや、だってよ。
イル兄をイルって呼ぶのって家族だけだぜ?
いつも他人は大体名前だけか、フルネームでしか呼ばねえよ。
てか、多分家族以外がイルって呼んだらぶち切れんじゃね?
よく殺されなかったな。





キルアより





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キルアへ



やっぱ、キルアはきな粉好きじゃなかったかー。
甘さ控えめだしね、きな粉は。
今回はあんこのおはぎとみたらし渡しといたから!




は?
名前って、イルでしょ?
普通じゃないの?
あれ。なんか話噛み合ってない?





なまえより




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なまえへ





みたらしも結構イケる!
三色には負けるけど。




は?
イルってのはあだ名みたいなもんだろ?
マジ話噛み合ってねえな。
なまえなに勘違いしてんだよ。






キルアより




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イルと呼び始めてから半年で交わした手紙がこれ。
キルアは仕事が忙しいらしく返事が返ってくるのが遅い。
まあキルアは筆不精なとこもあるからかもしれないけど。



イルは手紙がないときでも結構な頻度できつねうどんやお菓子を食べに来てたから多分ちょっとくらいはキルアにだって時間はあるんだろう。
どうせゲームとかしてたんだろう。


ま、頼りがないのは元気な証拠ってことで気長に手紙を待ってる。








「ん?」



キルアからの手紙を見直す。



「なに」



みたらしを食べてたイルが聞いてくる。
この半年で少しはイルと仲良くなれたみたいで、こうやって喋りかけてくれることが多くなった。
ほんの少しだけどね! 数える程だけど!


一ミリくらいは心開いてくれたのかもしれない。





「いや、キルアと話が噛み合ってなくて……」
「なにが」
「イルの名前って、イルだよね?」
「そうだけど」
「キルアがイルっていうのはあだ名みたいなものだって」



イル=ゾルディックじゃないの?
どういうこと?




「そう言われたらそうなのかな」
「え!? 本名じゃないの!?」
「別にイルでも名前だけどさ」
「えー!? 意味わかんない!」



ますます混乱してきたんだけど。
名前だけど名前じゃなくて、あだ名!?
ややこしすぎるわ!






「イルミ=ゾルディックが本名だし」



イルはあだ名になるのかな。と首をかしげてるイル。





「えっ、え、えええええ!?」
「うるさい」
「えっ、イル=ゾルディックじゃないの!?」
「違うけど」



なにそれ!
全く知らないんだけど!






けど、ここでやっと腑に落ちた。
半年前イルって初めて読んだときイルの目からビームでそうなくらいにかっ開かれてたのはそういうことか!
そりゃいきなりなんの前触れもなく家族しか呼ばないあだ名呼ばれたら驚くわ!






「な、なんで言ってくれなかったの!」
「イルだって本名みたいなものだし」



相変わらず読めない表情で言ったイル。




「けど、嫌じゃないの?」



イルは家族意識が恐ろしく高い。
そんなイルが他人に家族しか呼ばないあだ名を呼ばれるなんて逆鱗に触れてもおかしくないんじゃ……。



もしかして、ゼノさんの命令が効いてる?
うわー。もうゼノさんの命令がなかったら私なんか死んでるんだろう。


本当にありがとう、ゼノさん。






「なんとも思わないけど」
「え? 殺したいって思わなかったの?」
「別に」





案外あだ名とかには寛容なのかな。
じゃあ、半年前の目からビームは本当にただ驚いただけだったの?

けど、これからなんて呼んだらいいんだろう。
私たちってあだ名で呼び合うほど仲良くないし。



……てか、私、名前で呼ばれたことないし。






「い、イルミって呼んだほうがいい?」


やっぱり適度に距離を置いたほうがいいのかも。
そう思って提案する。







「……いいんじゃない、今まで通りで」
「いいの?」
「別になんとも思わないし。それに今更呼び方変えるとか変」
「……そっか」





まあ、本人がそう言うんだらいいか。





すると、お父さんが私に手伝うように台所から言ってきた。
あ、やば、休憩時間過ぎてる。
立ち上がってエプロンをつける。





「あ、お皿とかそのままにしておいてね」
「……うん」




返事が返ってくるようになったのも進展のうちに入るのかもしれない。






「ね、私の名前知ってる?」




出会ってもう一年経つ。
けど、この人だったら知らないのかもしれない。
私に興味なんてなさそうだし。




「キルが呼んでるし」
「あ、そっか」
「それに親が呼んでるし」




キルアがいるの忘れてた。
私の両親もイルの前でいつも私の名前呼んでるし知ってて当然か。




呼ぶ必要がないから呼ばないのか。
……そうですか。








「気が向いたら呼んでね」





バンダナをつけて台所に下りる。





わ、結構お客さん入ってる!
注文取らないと!




急いで食堂に向かった。












「……なまえ」



(誰にも聞こえない声で呟いた)
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