fate. | ナノ






居間で少しごろごろしてるといつの間にかイルが立ってた。




「うわあああああ!」
「うるさ……」
「びっ、びっくりしたあ」


今までだれもいなかったのに!
てか、入ってきた音なんて全くしなかったんだけど!
さすが殺し屋。




「どうかしたのー?」
「何でもないよ!気にしないでお母さん!」




二階にいるお母さんから声が聞こえたので適当にごまかしておく。



「きつねうどん」
「え?」
「きつねうどん」



きつねうどんがどうしたんだよ。とは突っ込まない。
イルは大体言葉が少ない。
もういい加減慣れたよ。

はいはいと返事して台所にいるお父さんに頼む。




今日はキルアの手紙を持ってきたってわけじゃなさそう。
いつも来てすぐに渡すのに今日はない。
ただ単にきつねうどん食べに来ただけなのかな。
めずらしい。




そこで、ふと思い出した。




「あっ!」
「……」
「おつり!」




イルはいつも1000ジェニーで代金を払う。
多い時には10000ジェニーのときもある。


そしてだいたい私がお釣りを取りに行って帰ってきた時にはもういない。





「お釣りがものすごく溜まってんの! 持って帰って!」
「いらない」
「なんで!? ぼったくりになっちゃうんだけど!」
「いらない」
「そんな!」



小銭ははした金ってか!
金持ちめ!
けど受け取ってもらわないわけには行かない。
いや、くれるなら欲しいけど……。
いくらなんでもたかがきつねうどんにお札を貰うわけには行かない。
それにゼノさんの分もまだ残ってる。


もう数えたら何杯分になるんだろう。





「そうだ! じゃあ今までのお釣りの分でこれからのきつねうどん食べて」
「それならいいけど」



何杯分になるんだろう。
もう三十杯分は余裕で超えてる気がするんだけど。
……やっぱちゃんと計算しなきゃいけないよね。
お金はきちんとしないとトラブルの原因になるし。




「そうだ」
「え?」
「きつねうどんっていくら」
「さ、350ジェニーだけど……」
「ふーん」



めんどくさいから400ジェニーでいいか。
それをとりあえず20年分として……292万か。
めんどくさいから300万でいいか。
あ、そうだデザートも入れなきゃ……200万でいいや。





意味のわからない計算が聞こえてきて、その後イルがどこかに電話をかけた。
500万持ってきて。と、短く一言言って、通話が終了した。



「あ、あの……なん」

なんの計算? と聞こうとすれば障子がスッと開いた。



「お持ちしました」
「うわあ!」
「ん。置いといて」
「かしこまりました。失礼します」




スーツを着た人が入ってきたと思うと分厚い封筒をおいて音もなく出て行ってしまった。
この人ってキルアん家の執事じゃないの!?
いま電話したばっかなのになんで来れるの!?
さすがゾルディックの執事。









黙って分厚い封筒を差し出したイル。
まさかと思って中身を出せば札束。
こ、こんな大金見たことない!





「なっ、なっ……!」
「五百万。とりあえず二十年分」
「こ、こんなの……!」
「うるさい。いいから受け取ってよ」
「けど」
「家族全員殺されたくなかったら受け取りなよ」





久しぶりにイルの殺気とやらを少し浴びて怯んだ私は言う通りにしかできなかった。





「……は、はい」







「これでわざわざ1000ジェニーに崩したりしなくて済むし、お釣りのことで揉めないし全て解決したよね」
「そ、そうだね」







いつも1000ジェニーにわざわざ崩してたのか。
そりゃ小銭ははした金に感じるわ。









「なまえー! できたぞー」



台所からお父さんの声がして初めて動けた。







「い、今取りに行くー!」




この大金、お父さんたちになんて説明しよう。



(金持ち怖い……)
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