fate. | ナノ






「うおわあああああ!」



うちの店は8時から14時、18時から21時までが営業時間だ。
14時から18時までは休みで、今の時間は14時半。


お客さんもいなくなって、今は店の掃除だ。



台所の掃除が終わったのか、お父さんの居間の障子を開ける音が聞こえたかと思うと、間もなく叫び声が聞こえた。




食堂の机を拭いていた私とお母さんは同時に居間の方を見た。





「お、お父さん!?」
「大丈夫!?」



二人で居間の方に駆け寄るとお父さんは腰を抜かしてて、目の前にはキルアのお兄さんがいた。





「だっ、誰だ!」


お父さんが守るために私たちをお父さんの背中に隠した。
……腰抜かしてるけど。



キルアのお兄さんは無言・無表情でこっちを見てる。




「まあ、お父さん! この子はなまえの彼氏よー」
「そ、そうなのか!? なまえに彼氏がいたのか!?」
「違うってば! この人はキルアのお兄さん!」
「ふふっ、そうでもあったわねえ」




お母さんはくすくすと笑って私がキルアのお兄さんと付き合ってるのを信じてる。
だから違うのに!
お父さんも私の彼氏だと信じてしまったようで、睨みをきかせてる。




「いいから出てって!」





お父さんとお母さんの背中を押して追い出す。



お母さんは楽しそうに、お父さんは不機嫌そうに出て行った。



なんなの、二人共!

この人が殺し屋ってこと知らないからそんなこと言えるんだから!
下手したら今の発言や行動でも殺されてたかもしれないのに!





「ご、ごめんね……二人バカだから……」
「なにが」




顔を恐る恐るみれば無表情。
けど、怒ってはいないようだ。


いまいちこの人の沸点がわからない。





てか、なんでこの人ここにいるんだろう。
そう思っているとよく見る封筒を差し出された。



キルアからだ!




「持ってきてくれたんだ! ありがとう!」




受け取って早速開けてみる。

すると、この前渡したおはぎのことについてばかり書かれていた。


「あは、よっぽど食べたかったんだなあ」




おはぎをめちゃくちゃ褒めまくってる。
また欲しいとも書かれてて思わず笑ってしまう。





「またおはぎを持って帰ってくれる?」
「……」



返事がないのは肯定!



台所に行って、おはぎを包んでキルアのお兄さんに渡す。

今日も帰る雰囲気は感じられないので多分待っててくれるんだろう。




便箋を取り出して返事を書き始める。





「ねえ」
「な、なに?」



急に声をかけられて肩が震えた。





「おはぎって美味しいの」
「お、おいしいよ?」



え、興味あるのかな。




「キルアのお兄さんも食べる?」
「……」


無言は肯定!


もう一回台所に行っておはぎを皿にのせる。
……あの人は、きな粉のおはぎが好きそうだなあ。
イメージだけど。
なんかきつねうどんとかきな粉とかが似合う。




あんこときな粉の二種類を乗せてお兄さんに渡す。


無言で一口ずつきな粉とあんこを食べたのを見守る。
美味しくないって怒られたらどうしよう。





「ど、どう?」
「……キルはこの黒い方が好きなの?」
「うん。けどキルアはきな粉……黄色い方は食べたことないから」
「ふーん。オレはこっちかな」




きな粉を指差したキルアのお兄さん。




「やっぱり! キルアのお兄さんはこっちだと思ったんだ!」



当たったことに嬉しくなる。




「あのさ」
「え、なに?」
「その呼び方」
「え? キルアのお兄さんってこと?」
「うん。なんなのそれ」





きな粉のおはぎををぱくりと食べて手についたきな粉を舐めとったキルアのお兄さん。
なんなのそれ、って。
そんなこと言われても。


大体なんて呼べばいいかわからないし。
てか、それ以外の呼びたなんてわからないし。




こっちがなんなの。って感じなんだけど。
どうしたらいいかわかんないんだけど。







「長すぎ」
「じゃ、じゃあ、どうしよう」
「普通でいいじゃん」
「ふ、ふつう……」




普通って……。
えっと、名前ってこと?



……名前か。
なんて名前だったっけ。




キルアは確かイル兄って言ってたっけ。
ゼノさんもイルって呼んでた気がする。



ってことは、本名はイル=ゾルディックか。



いいんだよね。
名前で呼んでも。
本人が言ってるんだから。


名前で呼んだからって殺されたりしないよね。
ゼノさんの命令があるから大丈夫か。




意を決して呼んでみる。












「イル……?」








「……!」






呼んだ瞬間お兄さんの目がカッと開かれた。
目ん玉飛び出るかと思うくらい。
ビームでも出てくるんじゃないかって思うくらい。






「ひっ……! ごっ、ごめん! 嫌だよね!」







怖い! 殺される!
ほんとにビーム出てきそうだ!
この人瞬きしないし!




「やっぱりき、キルアのお兄さんって呼ぶから!」






首を締められないように腕を顔の前でクロスする。








「……いいよ」
「え?」
「その呼び方でいい」




恐る恐る腕をどけて顔を見るといつも通りの無表情だった。






「え……い、いやじゃないの?」
「なんとも思わない」





じゃあなんで目をかっ開いたんだ!
怖いわ!





「わ、わかった。これからそう呼ぶね」
「……」





……無言は肯定!!



(キルアへ。イルはきな粉のおはぎが好きみたいだよ。キルアも欲しかったら贈るけどどうする?)
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