fate. | ナノ





「……っ、ん……?」
「なまえっ!」



白い天井が視界に入ったと同時に綿飴が飛び出てきた。
……あ、キルアだ。



「おは、よ」


起き上がれば、主に背中と喉が痛くて前かがみになった。


「だ、大丈夫か!?」
「う、うん。ちょっと喉が痛いけど」


喉をさすれば、肌ではないものが感じ取れた。
あれ、これって包帯?


ああ、そうか。
あの人に首絞められて、落ちたんだ。



「死ななかったんだ……」
「何言ってんだよ! オレ、マジでなまえが死ぬんじゃないかって……!」
「ああ、ごめん……」



キルアを見れば、目が充血していた。
泣いたんだ。
心配してくれてたことがわかって、心が温かくなった。



「ありがとう」



可愛くて、頭をぐりぐり撫でてやる。




「お、おい、やめろ!」
「しおらしいキルアはいつもと違って可愛い」
「う、うるせえ! お、お前、そんな笑ってるけどなあ! めちゃくちゃ大変だったんだぞ!」
「え?」



大変だった?
気絶した私を怪我の処置だけして寝かしたんじゃないの?



「あ、兄貴が、いつもと違って……」
「兄貴って……あの」
「イル兄が動揺してなまえを抱えて入ってきて……」



あの人が、動揺って……気絶させられる前に言ってた黒髪とか才能とかのことだよね。
それ以外考えられない。


けど、あの人って家族の前では気丈に振舞うものだと思ってた。
あの時は確かに取り乱してたけど、キルアたちの前に行けば普通に戻るものだと思ってたのに。

よっぽど、溜め込んでたんだな。
きっと止まらなかったんだ。




「なまえの首には濃い痣が残ってて、イル兄が、息してないって震える声で言ってきて……」


一応運んでくれたのは良かった。
原因を作ったのはあの人だけど。




「親父とかじいちゃんが背中を叩いたりして何とか呼吸し始めたけど」



ああ、背中が痛いのはそのせいか。
もっと、気道確保とか人工呼吸とかあったのに背中叩いたんだ。
まあ、今となればファーストキスがこんな形で奪われなくて良かったけど。

それ以上に背骨が折れなくて良かった。




「医者は明日には目覚めるって言ったのに、三日も目覚めないし」
「え、私、三日も寝てたの!?」
「このまま二度と目覚めなかったらどうしようかって……」



せ、せっかく姉貴ができたのに……とまた目に涙がたまっていくキルア。
ああもう可愛いなあ。


三日も寝てたことにびっくりした感情なんて消え失せたよ。


けど、それよりも気になるのは、あの人。
一体あの人は何してるんだろう。




「あ、あのさ、あの人は……?」
「イル兄なら仕事で二週間くらい帰って来ねえよ」



だから安心しろよ、と言ったキルア。


いないんだ。
殺されかけたんだし、本当はいない方がいいんだろうけど、何でだろう。
なんだか、話がしたい。

たぶん、気絶する前にあんな一面見たからだろうな。
最悪だ、余計なお世話だって分かっているのに。
もしかしたら自分の思い込みで、本人はそんなに悩んでないのかもしれないし。
くそ、お節介なのに。


あーあ、もやもやする。




「なまえ、ほんと大丈夫か? イル兄にはもう会わせねえようにするし、大丈夫だぜ?」
「え、あ、うん……」



どうしよう、そういう訳じゃないだけどな。
まあ、普通は怯えるんだろうし、そういうことにしておいた方がいいよね。



「で、あのさ……」
「なに?」
「これから全く会えない」
「え? 中々会えないじゃなくて、全く? 何で?」
「なまえが帰るまでずっとなまえと一緒にいることを許可する代わりに仕事以外で外に出るのは禁止だって……」
「え? そんな約束したの!?」



私じゃキルアの家の門を開けられるような体力ないし。
門番さんに言ってもたぶん入れてもらえない。
キルアのお母さんとかが入れないように命令してるだろうし。


うわ、ほんとに会えないじゃん。






「じゃあ、もう今日で会うのは終わり?」
「うん。けど、親父はちゃんと仕事をこなしたら褒美にあわせてやるって」
「そっか、けど本当に中々会えないね」
「そうだな……」



肩を落とし、眉を下げるキルア。
ああ、こんなキルアも可愛いけど、やっぱりキルアは生意気じゃないと。
なんだか調子が狂うよ。




「じゃあさ、会えない分手紙書かない?」
「手紙?」
「そうそう、それなら何も文句言われないでしょ」
「そっか、手紙か! しゃーねーな、なまえがそこまで言うなら書いてやるよ!」
「あはは、じゃあお言葉に甘えて書いてもらうよ」





ああ、この糞生意気な感じが心地いいな。
口では生意気言ってるくせに、表情はもう心から嬉しそうに笑うからこっちまで笑ってしまう。






「絶対返事しろよ!」
「おう、任せとけ!」





笑いあいながら拳と拳をあわせた。



(こんな弟をもって幸せだ)
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