G short | ナノ




「晋助君も随分遠くなっちゃったわねぇ」
「ま、人気絶頂中だからね」


もう最後にあったのは二ヶ月前ぐらいだと思う。
仕事が忙しいらしく、まともに学校にも来れない状態だし。

高校生の癖にそんなに働いてどうすんの。
……ギャラっていくら貰ってんだろ。


ま、どんだけお金貰ってようが私には関係ないんだけどね。



「……アイス買ってくる」
「あ、お母さんのも買ってきて」
「……わかった」


溜息をついて家を出た。


あーあ。晋助が遠いよ。

小さいときは一緒に泥んこ遊びした仲だったのに。
毎日一緒に近所を駆け回ってたのになぁ。


なんでこう、よりにもよって修学旅行でスカウトなんかされちゃったんだろ。

つーか、晋助もなんで面白そうだからやってみるとか言い出すかな。
晋助の軽口のせいで、全然喋れないし会えないじゃん。


晋助のファンクラブに入ってる人数知ってる?

正確な人数は分からないけど、すごい入ってるらしいよ。
私のクラスにだって十人入ってるらしいし。

ま、晋助みたいな性格だから、好きな人ばっかりじゃなく、嫌いな人も結構いるけどね。
けど、売れてるのには変わりないよ。



あーあ、こんなことになるなら晋助が芸能人になるって決めたときに命懸けて止めればよかった。



「くっそう。なんで私がこんな後悔しなきゃいけないんだ」


幼馴染が有名な芸能人っていいことじゃないか。
鼻が高いよ。


けど、気に食わない。

教室で女子が晋助のことを話してると、どうしようもなくイラつく。

晋助のこと何も知らないくせに語るな、なんてさ。
ほんと性格悪いよね、私って。


馬鹿みたいなんて自嘲してると、前から一人の男が歩いてきた。




「お前、なまえか?」
「え、その声……」


聞き覚えのある声、テレビ越しでしか聞けなかった声が目の前の男から発せられた。
男がサングラスを取れば、見覚えの十分ある顔だった。


「しん、すけ……?」
「よォ、久しぶりだな」
「なんで? 今さっきテレビに出てたじゃん」
「あれは収録だろうが」
「あ、そっか」


そういうことね。
それなら納得だよ。


「どこ行くんだ」
「ん、ちょっとコンビニへアイスを買いに」
「一人でか」
「当たり前じゃん。私の近くに誰もいないっしょ。ってかあんたには誰か見えんの?」


そういえば、晋助は呆れたような溜息をついて鞄を探った。

あ、何言ってんの私。
生意気ー全国の晋助ファンに殺されるよ。


「つーか、何してんの」
「あ、顔隠してんだよ」


晋助は帽子を被ってサングラスをかけた。


「記者的な人が追いかけて来てる?」
「いや、今は気配とか感じねぇし大丈夫だ」
「じゃあなんで隠してんの?」


来てないんだったら、隠さなくてもいいじゃん。

つーか、追いかけられるのに慣れたら気配とかも感じられるんだ。
すごいよ。

遂に悟りを開いたんじゃない?



「俺もコンビニ行く」
「は? なんで」
「テメェが夜に一人で買い物行くっつーからだろ」
「別にいいじゃん。コンビニなんてすぐそこだし」
「アホか。何が起こるか分かんねぇだろうが」


そう言って頭を叩かれた。

そんな神経質にならなくても良いのに。
コンビニなんてすぐだし。


「別に私を狙う輩なんていないよ」
「……女ってことを自覚しろ。飢えた男ならどんな奴でもいいんだよ」
「なに? 心配してくれてんの?」


笑いながら晋助に尋ねてみた。
今の私って、すっごい嫌みな笑いしてんだろうな。

からかわずに居られないのが私の性なんだからしょうがないよ。

心配なんかしてねぇ! なんて怒るかな。
なんて少しわくわくしてると、期待はずれな答えが返ってきた。


「ああ。心配してる」
「へ?」
「お前のことを心配してんだよ。馬鹿女」


ああ、予想外の言葉過ぎてちょっとド肝を抜かれちゃったよ。
この私を驚かせるなんて、晋助も成長したね。


「仕事中も、移動中も、打ち合わせ中も、いつだってなまえのこと考えてたぜ?」
「あはは、芸能界行ってるだけあってそういうの上手くなったね」


やばいよ、何言ってんのこいつ。
……照れるじゃないか。

だめだ、だめだ。
こいつ、ドラマとかにも出演してるから演技力がはんぱないんだから。



「嘘じゃねぇよ。こちとらてテメェが他の男と現をぬかしてねぇか心配で心配でなァ」


本気にしちゃだめだ。
絶対こいつは私をからかってる。


「あはははは、さあコンビニに行こうじゃないか!」

嘘だって分かってても、好きな奴にそんなこと言われたら赤くなるっつーの。


「なァなまえ、秘密の恋愛っつーのも燃えるだろ?」
「は、はぁ!? 誰と誰が!?」
「芸能人の俺と一般人のテメェだよ」
「な、なんであんたと私なわけ!?」


焦りながらそう言えば、帽子とサングラスを取り、晋助はニヒルな笑みを見せてきた。



「俺はお前に惚れてて、お前は俺にベタ惚れだろ。当然の結果じゃねぇか」



気付けば晋助の唇が私の唇に当たってた。



シークレット・ラブ
(誰にも気付かれてはいけない恋ってのも悪くないかな)
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