「濡れて帰るのいやだなぁ」 しかも、鞄も濡れるから教科書しわしわになっちゃうし……。 こんな時に限って友達は部活だし。 私は今日部活休みだし……。 イコール傘が手に入らない。 不運極まりない。 朝の占い見逃したけど、絶対十二位は確実だ。 靴を取り出す手が重い。 この靴も靴下もこんな雨の中歩いたら濡れるのかぁ……。 わざとゆっくり靴を置いて履く行為をしても、雨は弱まる気配はない。 少しは雨、弱まらないかなぁ。 外の様子を見ると、黒い傘を差して昇降口に向かって来ている男がいた。 いいなぁ。 傘持ってて。入れてほしいけど見知らぬ人に声かけるのは嫌だしなぁ。 いれてもらうのにも抵抗あるし。 つーか、こっちに向かって歩いてきてるのにいれてっておかしい。 …………ん? 「あれって……」 ちょっと、見覚えあるような顔じゃない? まだ遠くにいるからよく顔立ちは分からないけど、知ってるような気が……。 眉間にしわを寄せて黒い傘を差して歩いている男に注目していると、ようやく顔がはっきり見えた。 「あ……」 「よォ」 口角を上げて近付いてきたのは昨日にも会ったよく知る顔。 なんで、ここに……? 昨日、面倒くさいからサボるって言ってたよね? なんで今頃登校? もう授業終わったんだけど。 もしかして、また問題起こしたとかで校長に呼び出されたとか!? また停学にされちゃうじゃん! 「いい加減、退学にされちゃうよ?」 そう、私が溜息を漏らすと意味が分からないのか、私の言葉に理解不能なのか、眉間にしわを寄せた。 「変な妄想してんな、馬鹿」 「馬鹿ってなにさ!こっちは心配してあげてるのに!」 「うるせェな。俺はどっかの馬鹿が雨降る確率五割なのに残りの五割の晴れる確率に賭けて傘持ってきてねェ奴が居るだろうと思って来てやったのによ」 「う……」 なんという的中率。 全くもってその通りなんだけど。 なんだコイツ、エスパーか? 「なんで、知ってるわけ?」 「さァな」 あ、このしたり顔は銀八先生か総悟に聞いたな……。 あいつ等め、余計な事言いやがって。 明日覚えてろ! 「おい、入らねぇのか」 「え、いいの?」 「おめェ俺の言葉聞いてたか、コラ」 「聞いてました、聞いてました!!ありがとうございます!!」 馬鹿な私のために来てくれてたんだった。 少し機嫌の悪くなったので、慌てて傘の中に入った。 「いくぞ」 「うん」 歩き出すと晋助に肩がぶつかったので、少し離れた。 外側の肩が少し濡れるけど、まぁ、入れてもらえるだけありがたいと思わないとね。 「おい、なに離れてんだ。濡れてんだろーが」 「これ位別にどうってことないよ」 「馬鹿、もっと寄りやがれ」 そう晋助が不機嫌そうに言った。 傘の持つ手を代えて私の肩に手を乗せたと思ったら、晋助の方に引き寄せられた。 「わっ」 少し驚いた声を出す私は無視されついさっきまで私の肩に乗せていた手はもう傘を持っていた。 ……濡れなくなったのはありがたいけど、コレ密着しすぎじゃん。 心臓が持たないって! もう少しだけ離れてもらおうと晋助を見ると、外側の肩が濡れていた。 そういえばこの傘も私の方に傾いてるような……。 もしかして、私が濡れないように配慮してくれてる? 「ねぇ、晋助普通に差してくれて良いよ?」 「あ?普通に差してるだろうが」 「肩、濡れてるよ」 「……濡れてねェよ」 「濡れてんじゃん」 「おめェの目が節穴なだけだ。俺は濡れてねェ」 そう断言した晋助はそのまま私の方に傘を傾けながら、私の歩幅で歩いてくれた。 あぁ、もう…… 雨の日万歳 (雨の日なんか一生好きにならない宣言したけど、やっぱ取り消すよ) [戻る] ×
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