偽りのカレンデュラ 



 その点、ネットの世界は気楽だ。

 体温に怯えなくてもいいのだから。





尚 輝
Section 4
登 録トウロク





1 如璃

如璃だす(゚.゚)~

スレ立てちゃっぴー

絡んでけろ



🕛 2010/05/0116:22 [Edit]


[1] 書く
[4] YLBIDで書く
12 如璃

五体だるだるだるびっしゅ
えらすぎ

トトっちゎタフだね
おいらがひ弱なだけとゆぅ説ですな

ランクねぇ
おいらわぁ
人様のホムからぁ
テケトーに飛びぃ
テケトーに登録しぃ

そんだけ
模倣犯

あんま深く考えとらん

トトっちも参加すんのけ?
しちまえよおほほー



🕛 2010/05/2321:58 [Edit]

13 如璃

こんばん
五月病だったよ
どうりでねー

げきてきに変わるって実感ゎナッティン
でも頑張れば、入場者数もげきてきかも
おいらゎ手抜きのテヌキーですからな

インにたいしてアウトの数が
2倍?
3倍?
記憶、あやふやのあや子さんですが
そんなサイトゎ
得だったり
そうでなかったり

どっちって?
如璃、頭、ぱーだよッ?

でもそんな都市伝説あるらしす



🕛 2010/05/2521:11 [Edit]

14 如璃

ばんこん

トトっち新作ゎ?
トトっちの書き方、如璃ゎ好きさ
天の邪鬼な感じがとっても好きさ

おいらも、もうじき完尻

牛歩の苦行でござったよ
おかげでテスト泣いたよ
あんな点数、マンガだよ
よもやの5度見

トトっちゎ無事?



🕛 2010/05/2820:39 [Edit]





 ナオがトイレに消えたのを見計らって、携帯電話から自分のホームページを確認。あたしの登録している創作サイトは、携帯電話でもパソコンでも内容をコントロールすることができる。

 まずは掲示板。足跡掲示板には目新しい書きこみはなかった。宣伝掲示板も同様にチョボチョボと言ったところで、今すぐに対応するまでもない量。

 そしてスレッド掲示板。

You Love Books』のスレッド文化はやや特殊な成り立ちをしている。

 一般のSNSは、多くの場合、討論会の議題を立ちあげ、題するスペースで不特定多数の人が和気藹々あいあいと議論を交わすもの。ところが、YLBの場合、まるで交換日記のような趣向が存在した。A氏とB氏、両者だけに共通するスペースをお互いのホームページに設置し、A氏がB氏のスペースに質問を書きこめばB氏がA氏のスペースに回答する。不特定多数のスペースではなく限定少数のスペースであり、つまりは交換日記だ。だから、そのスペースの共有とは関係のないC氏によって勝手に閲覧されることを嫌がる人もいる。

 そして、この共有するスペースのことを「スレッド」および「スレ」と呼ぶ。

 あたしの場合、まだ1人ぶんのスレしか設置されていない。本来ならばここにもうひとつ、月乃つきのさんのスレを招聘しょうへいしているはずなのだが、いまだに成就しないまま荒寥こうりょうの大地と化している。

 そんな索漠さくばくの枯れ野に、だからと気後れすることもなく、驚くべきフットワークの軽さでコメントをくれる恐るべき好事家が存在した。

 わずか2回目であたしを「トトっち」と呼んだ、彼女の名前は如璃じょり。この春から滑りこみで中学2年となった、自称「あやふやな13歳」。ギターを片手にエアギターをキメることが得意技だという表現の自由なO型少女。

 あたしの承諾もなく勝手にスレを立て、その第1声目を「スレ立てちゃっぴー」とされた日には、書きこみを削除するよりも前にラブポリス(YLBの秩序を守る風紀委員会)にでも通報してやろうかと固唾を飲んだものだった。でも、どうにか紙一重で思いとどまり、月乃さんの前哨戦であると自己暗示をかけ、この奇妙奇天烈な少女とコミュニケーションを開始。

 如璃。今では無くてはならない存在だ。彼女の飄々とした気風が、みるみるうちにあたしの隠れた消極性を脱臭してくれた。元気を頂くという慣用句も相応しい、よもやの癒し系JC

 またページが増えている。昨夜のものと思われるコメントに、特に文末の台詞には自然と頬が緩んだ。自分と同じ艱難辛苦かんなんしんくに遭遇していると決めつけての的外れな杞憂、偽りの世界にいながら人間味を感じられる稀有な瞬間。丸投げが心地よい。しかも、ランキングサイト登録に向けて1年先輩の彼女に意見を求めたはいいが、煙に巻くアドバイスのまま、どうやらそのテーマは有耶無耶にされてしまったらしい。もはや登録のトの字も出てこない。


同日 〜 2010/05/29[Sat]15:07
東京都渋谷区道玄坂 - モスバーガー渋谷道玄坂店


 体温の深海である原宿についに耐えきれなくなったあたし、遠回しな手練手管でナオを誘導しながら徒歩で亡命した。今は渋谷の道玄坂にあるモスバーガーの隅の席にいる。小綺麗な壁面にもたれながら、目に浮かぶような如璃の惨状を幾度となく読みかえしている。手の届くリアルよりも利便性に溢れた心地よさを感じている。原宿で襲われた感傷もまた、たった10行の彼女の肺臓にすべて吸い尽くされている。

 やっぱり、ネットは気楽でいい。





14 雨音シトト



にちこん。

好きだなんてそんな(照

天の邪鬼だなんてそ(ん?

嬉す。



そうだね、もうすぐ完ケツなんだよね。

がんばれ。

あたしのほうは、2作目、もう書き出してますよ(まだまだ公開できないけど)。

いちおう青春モノになります。



テストお疲れ様です。

5度見の原因は社会?

苦手なんだよね、如璃。

組織に興味がないんだっけ?

がんばれ。



じゃあまたね。

執筆、おきばりやす。



P. S.

あたしは無事だよ。かろうじて。





🕛 2010/05/2915:13 [Edit]





「テスト」のあたりでナオが帰投。腕組みしたまま、書きこみが終わるまで余所見して待つ。あたしのメール相手がナオと、左手に折られる程度の知人友人しかいないことを彼はよく知っている。だから不審な顔もない。ちなみにナオは、あたしが携帯小説を書いていることも知っている。

 へぇ──期待していなかったわけではないけど、読書が嫌いなナオの反応は予想していたとおりのものだった。これ以上に宣伝しては強要になると踏んだあたしは、趣味を告白して以来、もう立ち読みさえも求めてはいない。もちろん「へぇはないんじゃないの?」と根には持っている。

 自分のコメントをザッと確認し、優しく携帯電話を閉じた。

来瞳くるめちゃん?」

「ううん。中学生の友達」

「中?」

「ホムペ関連」

「なるほど」

 淡白に納得し、ちゅ、手で支えることもなくミルクティを吸いあげた。釣られて、あたしもメロンソーダを吸いあげる。

 土曜日、道玄坂のモスバーガー。暗黙の了解として約束された自由な明日に向け、浮力とデシベルの下積みに余念のない音声たち。必ず明日も楽しい日だと誰もが信じきっているご様子。喧嘩も事故も裏切りも、ましてバイオハザードは2次元のお話で、明日がこれ以上に悪くなるはずはないと、勇み足な詩吟を縦に横にと弾ませている。

 あたしたちも同類には違いない。ただ、ふたりとも口数の少ない人種なのであり、賑やかな世界の中でわずか浮いた情緒を醸し出している。浮かれた渋谷に浮いているのだから、もしやそうとうお気楽なカップルなのかも知れない。

「ちょっと注文してくる」

 実は食いしん坊のナオ、落ち着きもなく立ちあがると、

舞彩まいは、なんか要る?」

「いらない」

「あそ」

 両のポケットに手を入れてレジカウンターへと向かった。食いしん坊なのにどうして報われないんだろう?──小柄な背中に謎の医学を送信しながらうっとりと見送る。

 おんる。


ご ぢ ょ ご ぢ ょ ご ぢ ょ ご ぢ ょ 


『ねぇおいしい!?

 ど い つ

『ぶえぅ!』

 け ー き

『あぁまさのりさん、だめだったぁ』

 う さ ぎ

『そうかぁしんだかぁ』

 な お ん



ご ぢ ょ ご ぢ ょ ご ぢ ょ ご ぢ ょ 


『舞彩さんのせいじゃないよ』
『舞彩ちゃんはわるくない』
『舞彩さんたいへんだったね』
『舞彩ちゃんげんきだしなよ』
『舞彩さんはえらいよ』
『舞彩ちゃんきずつかないで』
『舞彩さんもすぐいくわ』
『舞彩ちゃんだいじょうぶ』
『舞彩さんのせきにんじゃないよ』
『舞彩ちゃんはがんばったんだから』
『舞彩さんはよくやったよ』
『舞彩ちゃんをおうえんしてるよ』
『舞彩にはあたしがいるよ』



ご ぢ ょ ご ぢ ょ ご ぢ ょ ご ぢ ょ 


 ふるッ

 左右に頭を振って、現実に戻った。

 体温を意識すると、いつもこうだ。

 5年も昔のことにいちいち反応するこの精神がわずらわしい。葬儀の列席者の顔もすっかり忘れてしまったのに、瞬間瞬間の台詞だけはきっちりとフラッシュバック。そのたびにあたしは頭蓋とうがいを振って脳味噌を微調整し、トラウマとかいう使い勝手のいい検索ワードで溜飲をさげたフリをする──反芻はんすうするのがオチなのに。

 フリにオチ。お笑いのイロハを独演している──自嘲をこじつけて冷静さを取り戻すと、再度、ポーチから携帯電話を取り出して静かに開いた。

 気分をまぎらわせるために思わず開いてしまった。目的はない。そこであたしは、とりあえずのスピードで月乃さんのホームページへと飛んでみた。

 ブルームーン──お馴染みの満月はまだ精鋭無比な円周率で漆黒の野を照らしている。欠けず、沈まず、絶対的創造主の無事の帰還を衷心ちゅうしんから信じきっているかのよう。

 下にスクロール。そこにもまた、主人の帰還を信じきっている白ウサギたちの姿。思い思いに蒼月を仰ぎ、きっと優しいことだろう彼女のステイを素直に守っている。

 まだ帰ってないの?

 もしも病気や怪我に襲われたのであれば「回復するまでは運営が滞ります」というようなページをワンクッションに置くのが定石だ。だけど、やっぱりいつもどおりにスムーズに飛んでこられた。いつの間にか訪問者も9万を越えている。運営としては絶好調だと言えるはずなのに。

 心配になる。もしやワンクッションを配慮するほどの余裕さえもないんじゃないか。指を動かすほどの状態にさえもないんじゃないか。

 ブログを覗いてみる。

 5月9日で止まったまま。





月の日記


heaven's blues



地球はまわっている……んだってさ。
そんなの見たことないさぁ。
でもまわっているらしいス。
実感ないよね?



あ、そんなことなかった。
目がまわってる。
ぐるぐる。
目まぐるしく。



新年度、新学期って
なぁんでこんなに忙しいだろうか!?
目のまわる忙しさ。
ぐるぐる。



「かぁちゃんメシ」

おまえさんがその発端だろうが。

「ステイ!」

いってやりましたよ。



そしたら30分後
ぶっきらぼうに

「ムリすんなよ」

ですって。








































むふ










話は変わりますが。



『地球は青かった』

ガガーリンはそういったそうですが
そのつづきがたまらん。

『しかしそこに神はいなかった』



キリスト教系の環境で
育ったと思うんですよ
ガガーリンさん(きっとね?)

ご本人が何教のかたかは知りませんが
環境を背負って
なおかつ
全世界にそう発信したことを
深く噛みしめたい。

いまや
神は社会のなしたものですから。

人間がどれだけちっぽけな存在なのか
にょじつにいいあらわしている。

いいえてミョーとはこのことダ。

宗教間のあらそいが
なんだかむなしく思える。



まぁ

新年度とどたばたバトルしてる人間に
いえたセリフではありませんけども(笑)





2010/05/09 Sun 12:58
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- ディアブロ -





 前日までは元気だったとわかる。悲壮感なんてまったく見当たらない。

 まさか息子さんになにかあったのではと危惧してみたところで、それもまた情報不足からなる憶測には違いない。だから、なおさらに悶々とする。隠れたところにネット社会の弊害は横たわっているものだ。

 およそ10秒の確認でブログを退室する。そしてさらに下へとスクロール。

 すると、またあの場所で親指が停止。

 ランキングサイトのモール。

 異色の看板。



『カレンデュラの私選館しせんかん



 チカチカとした前回のサプライズを思い出して5秒ほどフリーズ。でも、売れ線の跳梁跋扈ちょうりょうばっこするネット社会では、時にこうした解析不明のコンテンツほど思いもよらない一興を手にすることもある──などと思いなおした。だって、売れていますという売り文句だけで切り売りできるのならば帝王学なんて必要ないじゃん。

 ピンポンダッシュで終えたような前回を回顧。そういえばあたし、まだしっかりとこのサイトを調べていない。

 どんなサイトなんだろう?

 クエスチョンマークの重みは綿の如し。ただ、親指を動かすにはそれだけで充分だった。

 再び私選館の暗い垣根を分ける。ごめんくださぁい──などと思いつつ。

 電波のもたつきを押し退けながら訪れた庭園は、相も変わらず簡素な装いだった。よもや夢窓疎石むそうそせき別無工夫べつむくふうを模倣しているとも思えないけど、情報化社会との蜜月を完全に無視した内装はまるで孤軍奮闘の枯山水のよう。ヒロイックとでも言うのかハードボイルドとでも言うのか、もしくはアバンギャルドとでも言うのか、とにかく、斜め上に達観したひとりよがりを感じる。

 芸術の善し悪しがわからない自分自身を密かに恥じている理屈屋の、その自尊心を操作して知ったかぶりさせ、難なく賞賛を勝ち取る傀儡かいらいの糸のことを「前衛芸術」と呼ぶのである──などとも思ってみる。

 さて、規約のページへ。モスバーガーのシャビーなダウンライトに負けず劣らず、こちらはこちらで、まるで悟ったようなまばゆさを解放している。漠然と視界に捕捉しただけなのに目がチカチカする。

 網膜が痛くならないうちにザッと読む。ホームページを登録するのではなく、作品単体で登録するサイトのようだ。どうやらランキングサイトとはシステムが異なる。実際「ケータイ小説作家を応援するためのサイト」と記されてある。

「めくるめくひととき」の部分に苦笑してしまった。良心の行き着く先は必ず貧相なポエムだ。中庸って大事だなぁと心から学習しながらリンクのページへ。







 リンクの案内



当サイトはリンクフリーです。
リンクを貼られたむねを私書箱にご投函いただければ、お礼にうかがいます。
【リンクタグ】


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もっと傍にいたい
赤裸々なあたし達



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 リンクフリーとある。サイトとサイトを自由につないで良いとする貿易術のこと。羅列される暗号を自身のホームページへと貼ることで交易路が開通するのだ。国際社会の第1歩は、個々人が世界に羽撃はばたくための大志を抱くことではない。まずは首脳陣による国交正常化のほうが先。

 ちらとレジをうかがう。腕組みのまま、品書きのパブリックヴューイングに険しい横顔のナオ。たかが軽食のくせにこういうところだけが優柔不断。

 AB型のよいところ。

 O型は、目に入った物をとりあえず選択しようとする短絡性がある。つまり選択になっていない。物流になっていない。

 トリアエズ選択したメロンソーダに口をつける。溶けた氷とカブトムシのあたし。

 肉食動物のナオを少しだけ羨み、ピースフルになった親指で館長のプロフィールへ。







 館長のプロフ



【名前】
 カレンデュラ
【性別】
 女性
【職業】
 ご案内をいたしております

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彼氏はちょっと
そんな男の条件は



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 名前は「カレンデュラ」とある。ピンとくる要素が1文字も見当たらない。

 性別は「女性」。まぁ、この程度の情報のほうこそ鵜呑みにしたら負けだと思う。

 で、職業が、

「ご案内をいたしております?」

 案内とはコレ如何に。しかも、なにを案内するのかが記されていない。本来の職業のことではなくこのサイトでの役割のことを指しているんだろうか。だけど「職業」としか書かれていないし。ならば広告収入で食べているとか?

 広告?

 いや、実は広告収入の仕組みを知らないからなんとも言えない。ひとまずブラウザバック。YLBの表示しかなかった。

 あ、YLBのサブサイトなんだ。

 ……どうなんだろうな。まったく把握できない。かえって謎が深まったような。

 そこで思考を区切り、次に作品検索。

 恋愛。友情。家族。自伝。本



……本音ほんね?」



 またもや声が出た。

 なんだろう、この区分け。

 なにかが変。

 たったの5項目で、しかも5つ目が「本音」って、なに?

「本音小説」なんて耳にしたことがない。ひとつ手前にある「自伝」とは、いったいぜんたいなにが違うんだ?

 再びナオを見る。ようやく決心がついたらしく、それでも険しい横顔。カウンターに左の肘をついて品書きを指さしている。ガラの悪い中学生にしか見えない。

 視線をディスプレイへと戻し、ひとまず「恋愛」をクリック。クッションページを置き、登録中の恋愛小説一覧表へと到着。

 そういえば静かだ。すごく集中してる。







 恋愛小説



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該当 3件

1. 来る・染む

わたしのこの想い、あなたへと届いてる?。。。あなたのことが好き。。。「好き」が。。。こんなにも胸に苦しいのはなぜ?

[] 🕛 2010/03/01 14:08

2. Black Love

イジメからあたしを救ったのは、暴走族の総長・呉羽仁。仁の仲間になったあたしの毎日はどんどん加速する。「あたし仁クンが好きなの」。でも届かない想い。ある日あたしに惚れて転校してきたのは謎の男・藤堂聖。「俺だけ見てればいい」。仁への片想い…聖の甘い誘惑二つの心に揺れるあたし。そして衝撃の事件が幕を開ける!

[綺妃] 🕛 2009/12/21 19:43

3. 堕ちた天使

「オレの仲間になれ。堕ちてしまえばいいんだ」──純情天使♀×極悪堕天使♂

[霧香] 🕛 2009/09/27 01:53


作品を登録する


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あのぅ、キスって
浮気に入ります?



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 登録作品は全部で3作品。純恋愛ふうの作品に暴走族ふうの作品と、それからラブファンタジーめいた作品だ。そのすべての紹介文からも謎めいた印象は受けない。

 いちばん新しい日付で3月1日とある。コンスタントに登録されている……というわけでもないのか。たったの3作品だし。

 腰の左右に手を当てて待機するナオ。

 ページをひとつ戻る。登録はここから。

 登録……か。

 完結して間もない中編小説。ヒーローのモデルはもちろんナオ。Hな部分を隠そうともしない性格は、単なるあたしの願望。それと、強引に迫られてもちゃんと強がることのできるヒロインもまた単なる願望。これらをまとめて深層心理と言う。

 ナオがやっとトレイを受け取る。自然、あたしの親指がログアウトの準備。すると、

 からん こわわん

 予約待機の札がトレイから落下、店内に乾いた騒音を広げた。とっさに拾おうとするナオ。ゴミ収集を終えた女性店員もとっさに駆け寄り、ちあい、もたついた。

 一連の交錯を目にしたあたしの親指は、ログアウトを裏切っていた。

「作品を登録する」をクリック。

 ほぼ無意識に近いフットワークだった。慣れた指先で携帯電話のクリップボード、作品の表紙のアドレスと、ホームページのアドレスをダブルコピー。それから5秒の熟考の末、

『此手愛(このであい)の自己中心的な恋愛劇──眼中にはないけど、触れてやったっていいよ?』

 10秒でまとめると躊躇なく登録ボタンをクリック。そして、

「おまたせ」

 何事もなかったかのようにクールな表情でナオが対面に座った。何事かはあったはずだけど。

 ちらとディスプレイに目を落とす。登録完了までに時間を要するという文言。登録審査がある様子。流し読みを終えると電源ボタンで待受画面へと帰還した。あたしのただひとりの親友である芹沢来瞳せりざわくるめが盗撮した、ナオの背中をあたしが上目づかいで追っているという可哀想な待受画面へと。

「いいの?」

 いそいそと携帯電話をポーチに片づけていると、ミルクティと溶けた氷の上澄みをストローで攪拌かくはんしながら、ナオが気づかう。

「うん。なんとなく見てただけだから」

「そうじゃなくて、食べなくていいの?」

「はぁ? さっき食べたばっかじゃん」

「2時間も前だよ」

「モ、じゃなく、シカ」

 なぜ報われないのかが最大の謎。成長が止まるという栄養学は切ないから信じたくない。

「食べないと大きくなんないよ?」

「ナオに言われたくない」

 此手愛ならばシカトしてる。律儀に反応してしまう自分が大嫌いだから生み出した理想的な女性像。肉体的な距離を縮められそうな恐怖感と、縮めさせてあげられない罪悪感が生み出す誤魔化しの反応は、日を追うごとに自分の理想をふくよかにする。

 しっくりくる自分になりたい。

 それはともかく、ランキングサイトへの前哨戦としてはこの程度のサイトでいいのかも知れない。あくまでも理想像を描いただけの自己満足作品とはいえ、より多くの人に読んでもらえるに越したことはない。でも分不相応を確実にわきまえなければ、ネット界のヒエラルキーの底辺にまで落とされかねないんだし。

 だから、この程度でちょうどよく、ここからはじまっていければもっとよい。

「大きくなろうよ。舞彩」

仰有おっしゃっている意味がわかりません」

 ちょうどよい自分になりたい。





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Nanase Nio




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