偽りのカレンデュラ 



 大量の涙で枕を濡らしたまま、あたしは目を醒ました。

 いつものような朝だった。

 だけど、あたしにはもう、目に映るなにもかもが、途方もない別世界に見えた。





来 瞳
Section 7
錯 綜サクソウ





 日常が、別世界へと動き出した。

 いや、ずっと滞ったままではあるけど、あたしを閉じこめる電車が、ごとごとと鈍い音を立てながら動きはじめたような感じ。あたしの知らない場所へと、知りたくもない場所へと、勝手に、ごとごとと。



だ ら ら ら ら ら ら ら ら 



 ついに出番を迎えた豪雨たちが、屋根に、ベランダに、嬉しそうにたけり狂っている。とても軽快とは言えない、勢いだけで魅了させようとするヘタクソなドラムス。

 耳にすればするほど、心の中がうんざりと湿気ていく。

 あたしは、パソコンや携帯電話が湿気で壊れる可能性を危惧する前に、自分自身の精神の除湿作業で手一杯だった。使用者ユーザーが壊れてしまっては部品ソフト本体ハードも意味がない。だから、放熱が追いつかないぐらいに熱心にサイトを巡り、それから、メールのやり取りに勤しんだ。

 やるべきことを探していた。じっとしていられなかった。だって、あたし、どうやら来瞳くるめよりも先に死んでしまうらしい。

 ただの夢だなんて、もう思っていない。なにかの不思議な力によってもたらされた確かな予知・・だと、とうに信じてる。

 未来予知。

 ナオは、老年まで生き、そして死んだ。孤独なままで。

 来瞳は、壮年まで生き、そして死んだ。親よりも先に。

 ふたりの臨終、そのどちらにもあたしの出番はなかった。掛け替えのないふたりの最期の時に、あたしが欠けていた。

『天涯孤独ですかぁ』
『なんでママをおいてくの舞彩ぃいぃ!』

 最愛の人とは結婚せず、最愛の友よりも先にあたしは死んだんだ。

 じっとなんてしていられるわけがない。


2010/06/08[Tue]20:17
東京都品川区西五反田 - 大城舞彩の部屋


雨音あまねさんのホームページに新しくリンクされたサイトなのですが、あまりよい噂を聞かないんです』

 昨日のちょうど今頃か、月乃つきのさんから再びのメールがあった。

『なにがどうよくないのかは、よくわからないんですけど』

 その内容は、

『このサイトに関わった人は、ことごとく自分のホームページを畳むか、そうでなくとも、運営が停止してるんです』

 カレンデュラの私選館しせんかんについて。

『私も関わっていまして、それがどう関係しているのかまではわからないんですが、実際、運営どころではなくなりかけて。だからもしかしたら雨音さんも私とおなじような状態になってるんじゃないかと思いまして……って、よくわからないですよね。ごめんなさい』

 月乃さんも間違いなく悪夢を見ている。内容が定かではないから「恐らく」としか言えないが、間違いないと確信している。

 ほっとした。

 あたしだけじゃなかったんだと、味方がいたんだと、勝手ながらも、希望のような安堵感をおぼえた。

 加えて、

『夏さんという作家さんともコンタクトをとってるんです。彼女も似たような状態にあるらしく、彼女も彼女で不安定になっているようで、あまりひんぱんなコンタクトとはいってないんですが』

 まだ仲間がいた。

『もし雨音さんがよろしければ、夏さんのサイトアドレス、教えましょうか?』

 もちろんイエスだった。月乃さんにその旨を投函すると、返信があるまでの間に、あたしは如璃じょりとのやり取りにも没頭した。

 むろん『死線館しせんかん』なる都市伝説について。

 死線館、と、私選館。

 偶然か必然かもさっぱりわからないが、あたしには情報が必要だった。備考程度でいいから、なんでもいいから、情報が。

『死線館って何番目にあるの?』

 昨晩のせいで都市伝説ジャンクションの存在をすっかり忘れていた。それが、月乃さんからもたらされた安堵のおかげでみるみると脳裏に覚醒。

 1300項目超に及ぶ都市伝説、さすがに1から手探りする元気は微塵もなかった。だから、如璃に具体的な在処ありかを乞うた。

『13の下らへん』

 レスポンスが早い。十数分で返信、かつ端的。余分なコールがないから、再返信の構成に時間が削られることもない。

『さんきゅう如璃! ちなみに死線館ってヤツ、呪われない? 大丈夫?』

 そんなわけがないことぐらいはわかっているが、ノリで尋ねてみた。すると、

『呪マークがついとったから呪われるけど如璃ゎまだ生きとるもんで平気やろもん』

 不吉な内容が軽いノリで返ってきた。だから大丈夫だと確信。

 でもその直後、

『まえからゆおうと思っとったんやけど、トトっちん家のアレさ、カレンデラ、とかゆぅアレさ、アレなに?』

『作品を登録する支援サイトかな?』

『ふーん。トトっち、無事?』

 如璃のいつもどおりのコメントパターンながら、どこかのなにかが引っかかった。

『無事ですが、なにか?』

『ちょっと調べてみるね?』

『なにをだい?』

 このレスポンスをもって如璃との交信はぷつッと途絶えた。大いに気になるところだけど、返信を急かすことはネチケットに反すると即断し、彼女からの任意の返信があるまでは保留とせざるを得なかった。

 なにが言いたかったんだろう。

 なにを調べると言うんだろう。

 カレンデュラの私選館について?

 やっぱり、なにか関係があるの?

 如璃は情報通な子だし、異様に頼もしい女子だし、たぶんあたしよりもアングラの知識に長けている子ではあるんだけど、今いちなにを考えているのかがわからない。

 已むを得ず、あたしは都市伝説の墓場を訪問。相も変わらずの盛況ぶりで、前日の入場者数は約3万5千人。やはりヒットのカラクリがわからない。

 如璃に言われたとおり『13』のリンクをクリック。ずらッと並ぶ眉唾物の羅列。ひとつひとつを確認するのもバカらしく、文字のフォルムだけを頼りに流し読み。





都市伝説 13


預けられたペット
不可解な遺体
太歳
少しだけ進んだ自分
潜水艦の怪
競馬界のタブー
野間の行方
公衆電話0000
てけてけ
砂漠の夢

視線
友引に葬式をしてはいけない
犬鳴峠
靴屋に手紙
ヌリカベ
舟魂(ふなだま)
シー○ェパード
サイゲスフヌス事件
空気のような存在
えみころ
軍用イルカ

山での常識
タイタニックの真実
木に春は椿



都市伝説RANK100

スナッフビデオ
涙橋さん
M首相伝説
カロリーゼロの罠
よかったな
袈裟懸け
タイムカプセル
私は鳥なの
ぽろりほろりころり
横綱
ネオテニー仮説
危険な催眠
山で伊藤さんに会ったら
ミッ○ーマウスのペット
ベビーシッターと男
婆去れ

遠洋漁業の昔話
レニングラードの食人鬼
遊園地の話
数あわせ
死線館

フォトンベルト
五円玉
コクーンメイデン
星を見る女



Back


[Ad] xxxxxxxx.jp

(C) 妙談 2004-2010





 あった。思いがけず早く見つかり、やや呆気に取られる。だったら最初から如璃に指南されておけばよかった。初日のムダな検索時間をすべて返してほしい。

 そして、教えられたとおり呪いの紋章が冠されていた。呪われる可能性があるから推奨できない──だったか。運営としての矛盾だらけの表現にはさすがに怖がる余地なんてひとつもない。

 躊躇なく『死線館』をクリック。





死線館


自身のサイトにリンクを添付する事に拠り、未来予知の出来るサイトが存在する。

其れが「死線館」。

此のサイトのリンクタグを貼ると二度と剥がす事が出来なく成り、且つ、謎の管理人からリンクに対する感謝のメールが届く。而して此のメールを切っ掛けにし、ホームページの運営者は未来予知の夢を見る様に成る。

自身の「死」の未来を。

死の時刻や死因が、夢として克明に露見するのである。

未来が見られるとは恰も幸福な事の様にも聞こえるが、何せ変える事の出来ない死の瞬間である。詰まり、運営者は運命の歯車を背負った儘、実際に死ぬ迄、人生を歩まねば成らないのである。



Back


[Ad] xxxxxx.jp

(C) 妙談 2004-2010





 さっぱり要領を得ない。もしやあたしの読解力のほうに問題があるんだろうか。

 しかたがない、要点を抽出してみる。



・ 死線館という名の謎のサイトがある。
・ リンクフリーである。
・ 自身のホームページにリンクを貼ると、死線館の管理人から感謝のメールが届く。
・ そのメールを機に、死の間際の予知夢を見られるようになる。
・ リンクは2度と剥がせない。



 頑張って挙げてみても、せいぜいこんなところだろうか。

 ならば、疑問を列挙してみる。



Q. どこにそんなサイトがあるのか?
Q. なぜ感謝のメールが届くのか?
Q. 感謝とはどのような内容なのか?
Q. 管理人とはどのような人物か?
Q. 予知夢には誰の死が映るのか?
Q. どれだけの回数を見られるのか?
Q. なぜ予知夢が見られるのか?
Q. 死線館と予知夢の関連性は?
Q. なぜリンクが剥がせなくなるのか?



 この中から、恐らくは体験済みと思しい項目を挙げて自答してみる。



Q. どこにそんなサイトがあるのか?
A. 本店はわからないが、至る所。

Q. なぜ感謝のメールが届くのか?
A. リンクを貼ったから。

Q. 感謝とはどのような内容なのか?
A. お命が続くまで離しません。

Q. 管理人とはどのような人物か?
A. カレンデュラという案内人。

Q. 予知夢には誰の死が映るのか?
A. 自分にまつわる色んな人。

Q. どれだけの回数を見られるのか?
A. 毎晩、欠かさず。



 疑問に対する回答も疑問だらけだけど、体験している限りをもって考えてみればこんな感じになるだろう。そしてもちろん『死線館』が『私選館』だと仮定すればの話だけど。

 いや、あたしの頭の中では、都市伝説の死線館とカレンデュラの私選館とがすでに一致しかけている。

 だって、類似点があまりにも多すぎる。

 死線館・・・私選館・・・の言葉の響き。リンクを貼ってすぐに感謝メールが届いたこと。リンクを貼ったその当夜から悪夢を見はじめたこと。そして、欠かすことなく見続けていること。

 理性として両者を結びつけるのは早計であるとは思う。でも、どう考えても両者の垣根は低い気がした。死線館と私選館は、イコールであると。

 となると、鍵となっているのは、いまだに体験していない疑問点のようにも感じた。



Q. なぜ予知夢が見られるのか?
Q. 死線館と予知夢の関連性は?
Q. なぜリンクが剥がせなくなるのか?



 ひとまずはこの3つ。

 で、様々な角度から考察して疑問符に答えてみる。もちろん、ひとつたりとてもわかるはずがないだろうけど。



Q. なぜ予知夢が見られるのか?
A. わからない。予知夢という現象が科学的な立証を見なければとてもわかるものではない。システム以前の問題。

Q. 死線館 (私選館) と予知夢の関連性は?
A. これも、上と同じ理由からわからない。システム以前の問題。

Q. なぜリンクが剥がせなくなるのか?
A. これも



だ ら ら ら ら ら ら ら ら 



……剥がせない?」

 都市伝説ジャンクションを閉じる。そのままホームページの管理メニューを開いて『トップページ編集』をクリック、さらに『ページ内編集』をクリックした。

 ホームページの作成に必要な文章やタグを設置するための、大きなボックス窓が縦に3つ並んでいる画面があらわれた。トップページの上、中、下段を編集するためには絶対に欠かすことのできない窓。この中に「更新しました!」とか「BBS」などの文字を記入したり、文字サイズや文字色を操作したり、文字を点滅させたり動かしてみたり、クリックで他のサイトへと飛ばすためのプログラム言語のような英数式──タグを記入できる。母体となるサイトにもよるものの、多くの場合、まずここが編集できなくてはとてもホームページなど運営できない。

 とるものもとりあえず、あたしは下段の窓をクリックした。この窓の中に、問題のサイトを起動させるためのタグが貼りつけられてある。







<a href="****://**.****.**.**/**.***?**=ylbooks">カレンデュラの私選館</a>







 これだ。

 この一文を『範囲』のカーソルで囲う。そしてそのまま『削除』をクリック。躊躇する頭はなかった。もしや、剥がせないという都市伝説をすでに信用していたのかも知れない。どうせ削除は叶わないと。

 ところが、

「消せんじゃん」

 呆気なくタグは消滅した。上下にあった他のタグの差が埋められ、確認しなくてもトップページのスリム化が想像できた。

「なんだよ」

 相も変わらないひとりごとがこぼれる。拍子抜けした指先で窓を閉じると、更新のボタンに照準をあわせてクリック。しばし読みこみの間を置いてから、ついに「更新されました!」の赤い文字を見ることに。

 リンクタグは、剥がせたらしい。

 まぁ、そりゃそうか。

 タグを消せないとなると、ホームページ作成メディアを提供している母体サイト、およびそのサーバーのほうに問題がある。作成メディアを借りている1個のサイトに、まさか自宅以外の機能を左右できる力があるはずもない。そんなことができたら、それは完全に詐欺の領域だ。

 リンクタグは剥がせる。つまり、ただの杞憂だった。常識に間違いはなかった。

 どうにもあたしは、あらゆる異常事態を「謎」や「不思議」として片づけたい性格だったらしい。科学的な常識と照合せず、ピンキリを仕分けもせず、眉に唾をつけることもせずに、恐怖に戦慄するヒロインという設定で満足しようとしていたらしい。

 バカバカしい。

 無知に怠惰すれば「謎」となり、誤解に盲信すれば「不思議」となる。

 知らない物事への希求心があるかぎりは「謎」という概念は作用しない。あくまで解明しているという過程があるにすぎず、探求者の脳裏に謎という結果論・・・・・・・が宿ることはない。解明、希求を諦めた瞬間に、ようやくその物事は「謎」となる。

 先入観や偏見という誤解を正解であると信用している主観者にとって、信用に付随しない不正解・・・は、仮に正解であったとしても必ずや「不思議」と片づけられる。自分に甘え、つい誤解という主観を優先してしまうがゆえに起こる現象だ。

「謎」と「不思議」のメカニズム。

 そんなことは充分にわかっているつもりだったのに、みすみす看過していた。

 あぁ、バカバカしい。

 気楽な心持ちになる。これで疑問点のひとつが解消された。不安材料は少ないに越したことがない。

 鼻歌の指先で『確認する』をクリック。いつもの、チープなりにも居心地のよい、見慣れた我が家がすぐ目の前に広がる。













- MOONY MOON -


FIRST/BOOKS/RENEW
FOOT/TALK/CM/MAIL

PV 2219
SINCE 2010/01/28



SEARCH ENGINE

カレンデュラの私選館




ホームページの編集
ホームページの作成
きり番


好きだヨイエルカナ?
伝えたい想い×∞



You Love Books

Copyright (C) 2010
Abyss Media Works.
All rights reserved.





「は!?

 破裂音の吐息が出た。

「な、あ?」

 ホームページの下段。

「だって、今」

 消したはずの10文字。

 頭の歯車が一気に鈍くなる。次の一手がうまく閃かない。フリーズというほどではないけど、機能的にはそれとほぼ同じ。

 消した、はず。

 今、確かに。

「消」

 したんだっけ?

 鈍いながらももう1度、編集画面を呼び起こす。ページ編集へと進み、記入窓へとさらに進入。







<a href="****://**.****.**.**/**.***?**=ylbooks">カレンデュラの私選館</a>







 消えてない。

 何事もなかったかのように、自分もすべてのタグの仲間だと威張っているかのように、普遍のように、まだ、その場所にじっとたたずんでいた。

……キモ」

 まるで汚物でも扱うようなタッチでカーソルを走らせる。範囲で囲う。削除を依頼。とたんに窓から消える。間違いない。消えた。確実に消えた。跡形もなく確実に消えた。この目で見た。

 窓から飛び出る。更新ボタンをクリックする。わずかな間を置いて更新達成の赤い文字。消えたはず。今度こそ消えたはず。

 消去を、破壊を、こんなにも躊躇いなく行うなんて夢にも思っていなかった。至って日常的ないつもどおりの夢さえ見ていれば、こんなことをする必要なんてなかった。背中に昆虫がうごめくこともないだなんて、こんなの異常。異常だ。

 逸る気持ちをできるだけ抑えながらも、必然的に急いでしまう指先で確認ボタンをクリック。













- MOONY MOON -


FIRST/BOOKS/RENEW
FOOT/TALK/CM/MAIL

PV 2220
SINCE 2010/01/28



SEARCH ENGINE

カレンデュラの私選館




ホームページの編集
ホームページの作成
きり番


累計部数45万部の
人気作がコミック化!



You Love Books

Copyright (C) 2010
Abyss Media Works.
All rights reserved.





「ざけんなてめぇ!」

 悲鳴。

 編集画面に戻る。消去。更新。確認。

 でも消えてない。

 編集画面に戻る。消去。更新。確認。

 また消えてない。

 編集画面に戻る。消去。更新。確認。

 まだ消えてない。

 編集画面に戻る。消去。更新。確認。

 消えて……ない。

『此のサイトのリンクタグを貼ると二度と剥がす事が出来なく成り』

 剥がせない。都市伝説ジャンクションの言うとおり、タグが剥がせない。どれだけ消去しても、破壊してみても、何事もなかったかのように蘇ってる。

 サーバーの不具合?

 でも確認の取り方がわからない。母体サイトの質問掲示板に投稿することも一瞬だけ考えた。でも、不具合がなかったらと考えると、質問する胆力が湧かない。そうじゃない可能性を潰してしまうのが怖い。

 死線館、

「どうしよう」

 いよいよ信憑性を帯びてきた。

『此のサイトのリンクタグを貼ると二度と剥がす事が出来なく成り』

 それが真実なのだとすれば、

『サイトの運営者は未来予知の夢を見る様に成る』

 つまり、

『自身の「死」の未来を』

 でも、ここがわからない。自分の死じゃない。あたしが見てる悪夢は、あたしの死じゃない。あたしの恋人と、親友の死。あたしじゃない。

 いや、もしかして……

『天涯孤独ですかぁ』
『なんでママをおいてくの舞彩ぃいぃ!』

 そういうことなの?

 でも、それって遠回りすぎない?

 あたしは、いったいなにを見てるの?

 いったい、なにを見させられてるの?

 眉唾物とする一縷いちるの希望を断ち切って具現化した都市伝説。空恐ろしい浮遊感に支配されたあたしは、思いどおりに肉体を働かせるアイディアからも見放され、傷のない机にじっと固まるしか術がなかった。

 この時、すでに22時24分。

 また、足を踏み入れなくてはならない。

 夢の中へと。

 死の中へと。

 カレンデュラの掌の上へと。

 およそ3時間も机の前で粘り続けた。眠らないでいられる絶望的な可能性を探り続けた。そして、叶うわけもなかった。

 どうして人間は眠らなくてはいけないんだろう。3大欲求だか知らないが、人間が人間であるために避けて通れない摂理に腹が立つ。神に、腹が立つ。

 眠りたくない。

 眠りたくない。

 眠りたくない。

 そう念じながら、結局、あたしは眠り、そして悪夢を見た。





    30    
 




Nanase Nio




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -