待ってくれ

待ってくれ、待ってくれアルル。いや、そこにお前なんていない。そんなことは、分かっているのに。もう、待ってくれ。どこにも、行くな。いや、もう手遅れか。




それは確か夏の暑苦しい夜だった。いつも、どこかに感じていたあいつの魔力が消えた。どこの座標を探したって見つかりなどしなかった。消えた、無いのだ、どれほど必死に探しても。恐ろしかった。起きた時も俺はひどく寝汗をかいていた。今は冷や汗が流れている。これはまずい、まずい。
朝を待つことさえしなかった。気がつくと外に飛び出していた。服はいつの間にか普段着になっていた。……シェゾ・ウィグィィ、いったん、冷静になれ。此処から走ったって意味がない。空間転移で、空間転移で? どこへ行こうというんだ。座標から消えたから、気配でさえ全く消えたのだから、どこへ行こうにも意味がないはずだ。どうすれば、どうすれば、どうすれば? 頭で考えていることとは無関係に、足は勝手にどこかに向かって走り出す。


「……こんな真夜中に、客か。まあ仕方がない、こんな時なのだから」
これだから、無駄に熱い、しかも自覚なしの闇の魔導師は困るのだ。要件も想像がつく。ともかく表にでも出るか。
「サタン……、あ」
「アルルがいなくなった、と言いたいんだろう」
「お前が原因か? アルルはどこだ! どこに、隠した」
「ワタシは何もしていない。ただ、アルルが消えた、これはわかる。座標上にもいないのだろう」
「分かってるなら、なんとかしろよ……」
「まずは落ち着け。お前は取り乱しすぎだ。……ルルーに知らせてくるか」
「お前はどうしてそこまで冷静でいられるんだよ!」
「混乱したところで意味がないだろう」
「そう、だな」
苛立ちが隠せない。なぜ、何故消えた。ここまで取り乱す自分にも腹がたつ。

その時こそ、まだどうにかなると思っていた。
一年が過ぎた。しかし戻ってこない。サタンに繰り返し聞いたが、
「見つからない」
の一点張りで。

五年が過ぎた。頭では諦めていた。しかし心は諦めない。もう今は世界を駆け回りアルルの影を追いかけていた。意味がない、意味がないと繰り返し言いながら。

「意味がない、意味がない。お前なんて、もういない」
説得力のない言葉は頭の中で回り、ただの雑音に変わっていく。

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