誰が決めたんだい

「お前、俺が誰だか分かっているんだろうな」
「そんなの、当たり前でしょ。シェゾだよ、闇の魔導師の。変態の」
キミは珍しく変態と呼ばれたことに反応しなかった。

「そうだ、俺は闇の魔導師だ。光と相反するもの、光にはなりえないもの。倒されるべき悪、悪だ」
また、そんなこと言ってる。そんなこと言ったって仕方がないのにね。どう考えても、キミは悪者なんかになりきれないくせに。
「お前は、俺が悪だということをちゃんと理解しているのか?」
「理解の前に、キミ、どう考えても悪者なんかに見えないよ」
「何を言う。獲物であるお前が言うのか? 奇妙な話だな。俺に命を狙われているのに」
「本当に悪者なら、正当な手段で魔力を奪おうとかしないからね」
「では、俺がこれから卑怯な方法で魔力を奪おうとすれば、悪になるわけだ」
やっぱり分かってない。そういうことじゃない。

「悪者は最初っから悪者で、なろうとしてなれるものじゃないと思うんだけどな。悪者ぶったところで、それはなんて言うかーー偽悪者なんじゃないかな。偽善者の逆の。キミのはそういうことでしょう? 悪ぶるのはこんな感じ、みたいなのがあるんでしょ」
「違う。闇の魔導師は悪だ。そんなのは昔から決まっている。俺は元から悪だ。俺は自分の意思で、闇の魔導師に……」
全然そうは見えないんだけどな、ボクには。闇の魔導師の歴史も、シェゾの過去でさえも、ボクは何一つとして知らないよ。だけどね、なんとなく思うんだ。多分シェゾは、いい人なんだろうなって。なんで彼が闇の魔導師を名乗っているのか微塵だって分からないけど、シェゾは悪者なんかになりたくないんだよ。きっと。時折見せる自虐の笑みはそういうことなんだと思うんだ。自分が悪者になってしまったと勘違いしてるんだ。

ただね、思うんだ。闇の魔導師だから悪だって考えは、おかしいと思う。確かに、これを自ら名乗るのはちょっと変な人だとは思うけれど。闇属性の魔法は恐ろしい威力や効果があって怖いけど。でもさ、イコール悪者だなんて考え方はおかしい。と思う。
「いつ、誰が闇の魔導師が悪者だなんて決めたのさ」
「屁理屈のようなことを言うな。闇は悪だろう」
「闇は悪だって決めつけるの?」
「決めつけてなどいない。昔から闇は人を恐怖に突き落とす、悪魔だ」
暗闇は確かに怖い。泣きたくなるくらいに、怖い。だけれど、闇自体は悪いことをしてない。ただそれは来て、辺りを覆う。それだけ。ただ人は、それを怖がっているだけ。それは自分の無力さがひしひし感じられるから。それでも……。

「微かな見えなかった光を見つける為に、闇は、必要」
昔おばあちゃんに言われた覚えがある。それを噛みしめるように、シェゾに、伝えた。
「ほお、お前らしくない言葉だな。しかし、だからどうした。人が闇の魔導師を悪だと思う限り、闇の魔導師は悪だ。それは変わらない」
「それもそうだね。だけど、ボクはそう思わない。魔力を狙われようが、キミは悪者なんかに見えない。ただ、それだけ」
やっぱり簡単には伝わってくれない。多分キミは囚われてる。自分でつけた肩書きにしがみついて囚われているんだ。どうして、そこまで悪だと言い張るのか理由はわからない。だけどいつか分かってほしいんだ。

「いつ、誰が、キミのことを悪者だって決めたんだい! ほんっとうに、キミはバカだ!」

心の中で叫んだって、そりゃ、君には届かない。


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