お題シェアル

酔い潰れた翌朝。それはつまりアルルが成人した翌朝。少しだけ涼しい夏の朝。
「しぇぞー、おはよー」
「お前、あんなに飲んでたのになんで二日酔いじゃないんだ」
「そりゃ、昔っから魔導酒飲んでたからでしょ。成人ていっても魔導師は小さい頃から魔導酒のんでるしねえ」
カラカラとアルルは笑う。……やっぱり酔ってんじゃないのか。

ここは居酒屋。普通だったらこんな風に朝までいていいわけがない。しかしこれはサタンが作り出したもので、つまりは営業していないただの居酒屋の形をした一部屋というわけだ。どうしてこうなったかといえば、まあ想像はつくだろうが……。



「アルルが20歳になるぞ! 楽しくパーティーでもぱーっと開こうではないか!」
「なぜお前が主催する? それは俺の役目だろう」
一応、アルルと恋仲なのは俺なのだから。
「お前が主催したら陰気臭いどよーんとしたパーティーになるだろうが! アルルはお前に譲ったが、それでもアルルはみんなのものだ! みんなで祝うのは当たり前だろう」
とか言っているサタンも今ではルルーにぞっこんなくせに。
「お前とアルルで祝うのもありだろうが、それとこれとは別なのだ! 皆で祝うのだ。そのパーティーの主催をすると言っている。お前がやったら誰も誘えないだろうが」
「わーかった、それでいい」
そういうことか、と理解する。まあサタンのことだ、ただでかいことがしたいだけで、裏の意図はないのだろう。……いつからこんなに俺は嫉妬深くなったんだ。
20歳といえば酒だろう、となんとか言い出して、そんなこんなでなぜか会場は居酒屋風になり、どんちゃん騒ぎをやらかした挙句、皆で二日酔いの朝を迎えたわけだ。俺はまあ、酒にはもともと強く、そこまで飲んでもいなかったから(他の奴に比べて)喉が乾きすぎて仕方がないのと多少頭痛がするくらいだが。


「みんなまだ寝てるんだねー」
「いや、起きてるだろうが余りの調子の悪さで体が言うことを聞かないんだろう」
「そんなに? そこまでなる?」
「見ろ、ラグナスは半目開けてるぞ」
「こ、これは寝てるんじゃないの?」
「……」
例が悪かった。
「サタンは目、開いてるだろ」
「ゆすっても反応がないよ」
……昨日の悪ふざけで誰かがリアルな目をサタンに描いたのだった。まぎわらしい。
「サタン様〜結婚しましょお〜」
「ほ、ほら、ルルーは起きてるだろ」
「これ、寝言だと思うなー」
どいつもこいつもまぎわらしいことをするな! 結局俺が間違いだったのか!
「やっぱみんな起きてないよ」

「……もう帰るぞ、アルル」
「え、ちょっと、シェゾ? なんで? みんな起こしたほうがいいんじゃないの」
「面倒臭い。それに、今日は……その、食事の予定があるだろ、……ふたりで」
「あ……そうだね。そういう予定だった。じゃ、悪いけどー、うーん。手紙を置いておこう」
わざわざ手紙を置いていくなんて、律儀というか、なんというか……。まあそれもアルルらしい。しかし、よろよろと立ち上がる姿はこいつらしくないな。幾ら、昨日酔い潰れていたって。
「シェゾ、ありがとう、支えてくれて」
「は、……ああ」

居酒屋風の部屋を出て、辺りを見渡す。ドアは中庭に続いているので、外に出ることができる。どうやら昨日の雨は止んだらしい。どおりで、少し雨の匂いがしたわけだ。
「見て、虹だよ! きれいだなあ」
「虹くらいでそんな事を言うのか。お子様だな」
「何言ってるのさ、虹は本当に綺麗でしょ? 綺麗なものにきれいって言うのは当たり前じゃないのかな」
「そうか? ……そうかもしれんな」
たまには、こいつと同じようにこんなことで感動するのもいいのかもしれない。確かに、七色の光る橋は、優美なものかもしれない。忘れていたものを思い出させる虹、だな。まるで少年の頃に戻ったような……いけない、感傷に浸りすぎるのはよくない。
「そろそろ行くか?」
「うん!」
朝の居酒屋を後にし、虹の架かるなか、さすがに空間転移は趣がないので、俺にしては珍しく歩くことにした。雨で湿った草原は、朝の光をうけて、きらきらと輝いていた。

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