扉の向こうで、控え気味に抑え込まれたような足音がする。筆を握り動かしていた右手を止め、ちょうど書き終えたばかりの手紙を、古ぼけたような茶色い封筒へとしまった。封筒には、表にも裏にも何も書かなかった。宛名など、私だけ解っていれば良い。 「何してんだよい」 扉が開き、入ってきたのはマルコだった。コーヒーを片手に、眠たげな声色で尋ねてくる。私は手紙を引き出しに仕舞い、視線を机から背後の男へ移した。 「手紙をね、書いていたんだ」 「手紙?」 「ああ、君も書いてみれば良い。」 少しは、悲しみが和らぐかもしれないよ。 「さて、晩御飯のために釣りでもしようか」 物憂げに眉を顰めるマルコの肩に手を置き、席を立った。 この引き出しの中に眠る私の想いが、彼に届きますよう。 (gurarara,) |