箱根学園のアイドル、東堂くんはいつだって自信満々だ。美形だと自分のことを言うし、トークがうまいとか女子人気があるだとか、色々言っている。私にはそれはよくわからないし、友人がかっこいいとか言っていてもどうだって良かったし興味を持てなかった。私は気弱で静かな、クラスでの空気みたいな人間で、方や彼はクラスでの人気者、雲の上の様な存在なのだ。そうして何も交わることもなく、終わると思っていた私の予想は呆気なく外れてしまう。

「…みょうじさん」
「…東堂くん?」

最後の夏休みが終わり、肌寒くなってきた、とある日。図書委員会の委員長である私は、図書室にて書庫整理を行っていた。誰もいない静かな図書室が居心地のいい私はそれはそれは良い気分で鼻歌交じりに様々な本を本棚に返却したりと忙しなく動き回っていた。そこに、がらり、と図書室の扉を開く音が響いた。

一体誰だろうか、そう思い本棚と本の間からちらりと扉の方を盗み見れば、そこには何故か東堂君がいたのだ。普段の口角の上がった自信の満ちた顔でなく、眉を顰め、口角の下がった矢鱈と真剣な表情であった。一体どうしたのだろうか、とは思ったものの図書室の利用者であるならば互いに話す必要もない、そう思って再び手に持っていたウサギの育て方中級編、という本を本棚に戻す。かたん、すすっ、小さな音が鳴った。片手に持った次の本、筋肉の育て方という謎の本の場所へと移動しようと思ったその時、バタバタッと足音が響いた。今この場所には東堂君と私しかいないわけで、ならばこの音は彼であろうとなけなしの勇気を振り絞って注意しようとぐるりと振り返る、と。

はあっ、と軽く息を切らした東堂君が、そこにいた。

「…みょうじさん」
「…東堂くん?」

ジッ、と私を見るその瞳は普段のそれとは全く違う色を持っている。戯けた色なんか一切無い、昔友人と一緒にロードレースを見に行った時に見た瞳と全く同じその色に、思わず私は息を呑んだ。

ぎしり、

東堂くんが一歩詰めてくると床が軋む。古い図書館であるから仕方ない。東堂くんの瞳に渦巻く色に圧倒されている私は返却された本を抱えたまま、動けない。もう一歩、東堂くんが詰める。

「みょうじ、さん」

眉間に皺を寄せて、東堂くんは私の方に手を伸ばす。その手は彷徨うように少し揺れた後、私に握手を求めているかの様に宙で止まった。

「…君が好きだ、付き合ってほしい」

理由なんてないのかもしれない。ただ私は、東堂くんの初めて見た表情に圧倒されていた。話したことなんて数える程、空気のような私と雲の上の彼。そんな私が持っていだ彼に対する気持ちなんて彼には全く気にすることではないのであろう。

抱えた返却予定本の重みが腕を圧迫し始めた時、漸く私は、彼に答えを出せたのであった。





mya0211さんリクエスト、ヘタレてない東堂の片思い、でした。リクエスト有難う御座いました!




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