「好きな人がいるの」

そうぼやくように呟くと、ナランチャは目をひんむいて倒れそうになって、アバッキオは普段と変わらずお茶を飲んで、フーゴはナランチャが計算ドリルから私に目を逸らしたのを叱って、ミスタはNo.5か食いっぱぐれて泣いているからサラミを渡して、ジョルノは「いきなりどうかしたんですか?」と至極不思議そうな顔をした。ジョルノだけが今この場所にいるチームの常識人(前髪のセンス以外)というのは理解していたが、にしてもナランチャとジョルノ以外無視とはこれ以下に。

「Fanculo!少しくらい興味持てよ!」

ばん、とティーカップをテーブルに叩き付ければぴちゃりと滴が跳ねてテーブルクロスを茶色に染めた。「女性がFanculoなんて駄目ですよ」と呆れながらもハンカチをテーブルクロスの汚れに押し当てているジョルノは何て出来た少年だろうか。最年長であるアバッキオとかいう人も見習えばいいのに、じとりとアバッキオを睨めばふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らされた。

「で、突然ブチャラティへの恋心を明かすなんてどうしたんです」

面倒そうに言ったのはフーゴだ。黙ってりゃ美人なのに憎たらしい口が足を引いて私からすれば小憎たらしいクソガキである。フーゴの言葉にナランチャが「え〜〜〜!?!お前ブチャラティが好きだったのかよォ!?!」と鼻息荒く近寄ってきたので、両手で頬を摘まんでそれ以上近寄ってこれないようにした。イテテ!と暴れるナランチャを眺めていると「気付いてねェのはお前くらいだろ」と幾分か冷めた表情でミスタが息を吐いた。

「白スーツがあそこまで似合う人は中々居ないよ、多分あの人天に遣わされた天使だよ」

はぁ、とうっとりしながら溜め息を吐き出すと、ギャハハハ!!!と笑い声が何重にも奏でられる。ンだよオラ、と周りを睨み付けながら見れば、ナランチャとミスタは腹を抱えてヒーヒー笑っているわ、アバッキオはお茶を吹き出すわ、フーゴは俯いたまま肩を震わせているわ、唯一の良心であると信じていたジョルノはそっぽを向いて口許に手を当て、肩を震わせていた。

「ブチャラティが!!!天使!!!」

「流石だななまえ、お前のセンスには脱帽だ!!!」

ばしんばしんとミスタとナランチャが背中を叩いてくる。笑いすぎだPezzo di Merda!!!とも言えず、私は苦虫を噛み潰したような何とも言えない表情で無言を貫いた。とりあえず残り五切れのケーキを一つ食べてからミスタに四つの内の一つを選ばせるというイジメをしようと心に決めた。ナランチャにはフーゴに常々ド低脳と言われているので尊敬の念を込めてド腐れ脳味噌と呼んでやることにしよう。よし、まずはケーキだ。そう思って右手をケーキに伸ばしたとき、カラン、と部屋の扉が音を奏でる。

「お前ら何笑ってるんだ……?」

「ブホォ、て、てん「黙れこのクソがァッ!!!」

ミスタが噴き出しそうになりやがったので、渾身の右ストレートをお見舞いしてやった。そのまま倒れて行くミスタをふん、と鼻で笑うと、唖然とした表情のセックス・ピストルズ達が「ミスタァー!!!」「なまえヒドイ!オーボーダ!」と喚き出すのでケーキに乗せてあった苺をひょいと投げてやれば、忽ち「オレノダァー!!!」と取り合いを繰り広げてすっかり私の事を忘れたようだ。

「なまえ……女がクソだなんて使うんじゃない」

「えっ、あ、その、ごめん、なさい」

ブチャラティの言葉に慌てて謝れば、ブチャラティは「いや、今後気を付けてくれればそれでいい」と柔らかに微笑んでいた。ほらやっぱブチャラティはこのパッショーネというきったねェ組織に舞い降りた天使じゃん……!ひいひいと腹を抱えて息を上げているナランチャにも右ストレートをお見舞いしてやりたい。

「そうですよね、ただでさえお嫁に貰われる確率は低いのに余計に低くなっちゃいますよね」

「いや、それは……」

「?、ブチャラティ?」

「……なまえは、今のままで十分素敵だ」

神妙そうな表情を浮かべたかと思えば、突然のその言葉に私は驚きあんぐりと口を開けた。まさか、ブチャラティが。視界の端に真顔になっているアバッキオが映ったのが少し気になった。

「まさか、ブチャラティが独り身になるであろう私を憂いてくれるなんて……!」

光栄です……!!とブチャラティの顔を見上げれば「それは良かった」と(流石は天使)素敵な笑顔で言ってくれた。「じゃあ俺はポルポの所へ行く、また後でな」ブチャラティはそう皆に告げると、私の頭を一撫でして去っていった。その背をうっとりと見詰めながら、撫でられた頭に触れていた私は背後で繰り広げられる会話に気付かなかった。

「あれだけお互い想い合ってるのが丸分かりなのに付き合わないなんて笑えますね」
「お前ェなァ〜笑えねェっての…」
「あの二人が付き合ったら空気が大変だろうがな」
「それは言えてる…」
「なに!?ブチャラティもなまえのこと好きなのかよ!?!」
「ブチャラティ“も”ってナランチャお前まさか…!!」




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