※一年の入学前の話
がちゃり、とドアノブがくるりと回されてドアが押し開かれた。開いたのは烏野男子バレーボール部のマネージャー、なまえで、先程までバレーボール部の練習に球出しやスコア付けを行っていた。突然のなまえの来訪にぽかん、と驚き呆けたように口を開けた烏野男子バレーボール部のメンバーは当に着替えの真っ最中、中にはパンツ一丁の者までいた。呆気に取られていたが、はっと我に返ったキャプテンである澤村が咎めようと口を開こうとした。だがそれよりも早くオレンジ色のパンツ一丁に靴下だけと言う変態染みた恰好をした田中が「なまえさんのエッチ!」とキャア、と裏声を出しながら自身の両腕で身体を隠そうとする。その頬は少し紅く染まっていて、それを田中の隣で彼と同じ様に弱肉強食、と黒で書かれた赤のパンツ一丁に靴下のみを着用していた西谷が間近での衝撃に腹を抱えて悶絶した。当のなまえはと言うとそんな田中と西谷をちらりと一瞥したかと思えば、すぐにぱっと目を離し、ずかずかと部室に踏み入った。
「旭、手」
なまえは着替えている最中で上半身裸のままの戸惑う東峰の腕を返答も待たずにがしりと掴むと、その掌と指先をじぃっと見詰めた。どうしたら良いのかわからない東峰は周りに視線を送るものの、誰も彼もが曖昧に笑みを浮かべて生暖かい視線を寄越してくるので、東峰は救いの手は無いな、と早々に諦めた。
「怪我したなら、さっさと言ってよ」
じゃなきゃ仕事が増えるだけでしょう、とやけに冷えた口調でなまえが東峰を咎めると、東峰はいつものように苦笑を浮かべごめん、と呟いた。その様子を見て、西谷はにかりと白い歯を見せて笑った。
「二人って夫婦みたいですよね!」
西谷のその発言に東峰となまえがぴたっ、と固まると、田中はヒィ、と小さく悲鳴を漏らして西谷の方を見た。西谷はというと自分がそんな風に見られる理由もわからず、田中に対して何故か自信ありげに笑みを返すだけであった。三年二人は言わずもがな、我関せずとばかりにせっせと着替えをしていた。
「…当たり前でしょ、夫婦になるんだもん」
べえ、と西谷に首だけで振り返って舌を出したなまえにざわざわとしていた部室が水を打った様に静まった。当事者であるなまえはふん、と鼻を鳴らして再び東峰の手当てを再開させ、東峰は首まで真っ赤にしたままぶるぶると小刻みに震えていた。「……流石みょうじ」静かに呟いた菅原の言葉に一同は内心頷いた。