私の彼氏、で幼馴染の御堂筋くんは、他の人には結構…いや、かなり不気味な男の子に見えるらしい。
確かに御堂筋くんは表情は奇抜だし、口を大きく開いちゃうし、相手を威嚇しちゃったりする。けれど、よーく見てみればまん丸な大きい目をしているし、可愛らしい笑顔を見せてくれたりするとても素敵な人なのだ。
彼は人に誤解されやすいだけなのだと、私は思っている。
…それに、皆わかってないけれど、実は彼はとってもわかりやすい。
「御堂筋くん」
「…何ィ?」
私が御堂筋くん、と隣でつまらなさそうにテレビを眺めている彼に声をかければ、ぴくり、と眉毛を一瞬動かすと、テレビを眺めたまま彼はそう呟いた。彼のこの動作は、わたしに対する小さな不満の表れである。多分、これは私が名前を呼ばなかったことで不貞腐れてるのだろう。…以前、友人にそう話したら御堂筋の一つ一つの表情をそんなに些細に見る気になれないし、なにより怖い、この一言に尽きた。確かに御堂筋くん…じゃなくて翔くんはレース中にコロコロと表情を変えるものの、普段の教室とかでは努めて無表情なことが多い。理由は聞いたこともないし、興味はない。けれど翔くんの噂は広まっているようで、友人にはどうして御堂筋と付き合っているのか、なんてよく聞かれる。
「翔くん、喉乾いたなあ」
「…勝手に飲めばええやろ」
ふん、と鼻を鳴らした翔くんの横顔は珍しくマスクをつけているせいで目から下は見えないものの、私にはわかる。ちゃんと名前を読んだことで機嫌が治ったようだ。わかりやすくて、可愛いなあ。なんて思って笑ってしまえば、
「何笑ってるん、キモ」
「んふふ、ありがとう」
べえ、と舌を出した翔くんはお得意のキモ、という言葉を私に告げる。とはいえ実のところこのキモ、も翔くんの愛情表現の一つであると私は長年の付き合いで悟っているので、にっこりと笑って返した。そうすると翔くんは「…キモォ…」心底引いた、とでも言いたげに眉根を寄せるのだけれど、その表情とは裏腹に私の方へと手は伸びていた。ながーいその手は私の手をがしりと掴むと、力を入れることもなくただ握っているだけであった。なんていうか、ツンデレ…じゃない、キモデレかな?なんて思ってしまえば、翔くんが可愛くて仕方なくなってしまって、思わず翔くんの引き締まっててムカつくけれど私より細い腰にぎゅうっと抱き着いた。
「…、何してんのキモいわ」
「キモくてもいいよ!好き!」
「…アホか、付き合ってられんわ」
口では冷めたことを言いながらも、翔くんは腰にまわった私の腕を優しく外すと、私の身体をくるりと反転させて、背後から抱き込んでくれる。身長の大きな翔くんは女子の平均的な身長の私をすっぽりと背後から包み込んでくれる。翔くんの顔が肩に乗ってきて、熱い吐息が耳に当たるのにゾクゾクとした。背後から抱き込んでもらったことにより、久し振りに見えたテレビの画面では私の好きなお笑い芸人がトークしていた。…ああもう、だから好きなんだよ。