所謂アニメヲタクというものが、私を形容するに一番相応しい。周りからの視線はまあ…その、地味系女子を見る目といいますか、兎に角そんな疎外するようなもの。それと幼馴染みの澤村大地の私への冷たい視線。でもそれは私にとって高校生活を送る上でなんの障害にもならなかった。文芸部と言う名のヲタク部はなんて楽しいんだろうか。青春なんてクソ喰らえ、ヲタク人生エンジョイさ!最早そんな信念を抱いていた私は残りの高校三年、新しい一年を迎えアニメ話を部室でしてさあ帰ろう!と下駄箱を開ける、まさかそこに、それがあるとも知らずに。

「ちょっ、えっ、えええええ!?」

「うっうるさいしっしーっ!」

一旦部室へと走って戻り、友人の首根っこを引っ付かんで片手に例の"ソレ"をちゃんと持って、空き教室へと連れ込んだ。適当な椅子に向かい合って座り、間の机の上にぽん、とそれを置いた。

「まっ、まじで!?おまっ青春なんてクソ喰らえじゃないの!?」

「いやあのそうなんですけどね、いや、はい…」

もしかしたら一番好きな漫画が突然来週打ち切りで最終回と言われたとき程に驚愕する友人。失礼だろ、とは全くもって言えず、寧ろ私もそれくらいの衝撃を受けている。ぽかん、と大口を開けたままの友人と"ソレ"をじっと見詰める。何の変哲もない、ただの封筒。…あれ、待って、まさか勘違いとかそんな、…いや有り得る、でもそんな下駄箱に手紙なんか普通入れないよね?

「…見るのが、手っ取り早くね?」

「…お、おうともよ…!」

友人にじ、と見詰められながら震える手で手紙を摘まみ、封のために貼られた林檎のシールを剥がして、手紙を開ける。背面には名前は、ない。中の手紙を抜き取り、かさりと開く。ごくり、と固唾を呑む私と友人。響くのは私の手紙を開く音。

「…おい」

「なっ、ど、どした…!」

「…ガチじゃねーの…」

放課後、運動部の部活が終わった時間に体育館裏に来て欲しい

そう、書かれていた。綺麗な、少し形の崩れた男らしい、字。いやこれってばまだ果たし状の可能性もあるだろ、あははと笑いながら言えば友人は表情一つ変えずにねーよ、と私と一緒にリア充爆発しろ、と言っているときの様に平坦な声で言うのだった。

いや、告白でも果たし状でもどっちにしろこんなの無視すれば良いじゃない、そう言い聞かせていた筈なのに部室でまたヲタクトークをして、各部活の終わる時間まで駄弁っていた私は一体なんなんだ。…正直、舞い上がっていた、というのもある。今まで恋愛だのなんだのは縁遠かったし、けれど大好きなアニメで描かれるのは良くわからない恋愛ばかり、興味が、あったのかもしれない。…体育館裏に来ている私も、私か。手の中の手紙が重量感を増す。そういや、名前なかったし、誰からの手紙か分からなくない?あれ、リアル呼び出しの可能性ある?あっ怖くなってきた

「っ、みょうじさん!」

「はっ、はひぃ!?」

背中に勢い良く声が掛けられ、びくっと身体が震えた。いや私頑張れ抑えろ!と願いながらくるっと振り向いて見れば、そこにいたのはバレーボール部の菅原孝支くんだった。…え?

「あれ、菅原くんも用事…?」

「え、あ、…うん」

何だやっぱり悪戯か…大地と仲良しの菅原くんは私のヲタクぶりを知っているしとりあえずそういう対象には兎に角入らない筈だから有り得ない。何だか期待した自分が恥ずかしいぜ…。何故かカチコチに固まっている菅原くんに帰る旨を告げようと口を開く前にあの、と菅原くんが珍しく大声を出す。

「お、俺さ、大地の側でよくみょうじさんと大地の掛け合いとか見ててさ、その、っ俺…みょうじさんのこと、す、好き!なん、だ…」

…開いた口が塞がらない、とはこの事か。と、とりあえず私と大地の掛け合いのどこに私に惚れる要素があったのかがわから、ない。私と大地の会話を再現しよう。「おい地味村そこどけや」「え?何だって?」「何だお前じじいかよ」「うるさいぞオタク女」…さあどこだ。どこに惚れる要素があった…?

「…お前のことだから、何で惚れられたんだ、とか思ってるだろ?」

「ぎっギエエエ大地…!」

ひょこっと姿を現したのは最早腐れ縁なのか幼馴染みなのかわからない澤村大地である。大地は図星か、とにたりと笑う。いや図星だけどお前どうした。何で此処にいるんだよ。

「此処バレー部の活動場の思いっきり裏だしな」

「大地うっぜぇまじでかえ「そう、それ!」…へ?」

「みょうじさんのその大地だけに物怖じしないのが、ずっと羨ましくて…俺にも素の部分見せてくれないかな、って思ってたらいつのまにか、好きに、なってたん、だ…」

ドエエエ、と叫ぶ私を大地がアッハッハ、と笑いそれに黙れクソ!と怒鳴れば菅原くんはちょっと顔を赤くして「おっ、俺も名前で呼んで!」と決心したように真剣な表情で言うのだった。それにまた私はドエエエ、と叫び…うん、エンドレスだった。菅原くんの告白をほぼ丸無視状態でした。とりあえずお友達から、ということになりました。




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