「い、一誠さんお似合いですね…!」
そうか?と少しだけ気恥ずかしそうな表情で、汚れのない美しい白の手袋を纏った指先で後頭部を掻いた。恥ずかしそうな表情でありながらもそれすら様になっているのだから、この轟一誠という人物の可能性というものには舌を捲くことしか出来ない。撮影の為に用意されたフェイクの花束には赤白黄オレンジと四色の薔薇が使われている。衣装デザイナー曰く、花言葉も意識しているとのことだ。生憎私は花言葉には詳しくないので、曖昧にそうなんですか!と笑っておくだけにした。女子だからって花言葉に詳しいなんてそんなフィクションは打ち砕こうと思う。
「ったく、何で俺だけこんな格好を…」
「まあまあ、需要があるってことですから」
窮屈そうにネクタイに触れる一誠さんの表情は未だに不満そうである。とは言えそれも当然のこと、いつもはコンセプト撮影といえばランスロットの三人で行っている。だが今回の結婚式の撮影はスケジュールの都合上で一誠さん一人だけ、なのだ。これからアイドルになる彼等なのだから、あまり文句は言われたくないけれど仕方のないことだろう。でもきっと、一誠さんは聡い人だから恥ずかしさからそう言っているだけで本心ではないというのはわかっている。
その証拠に難なく撮影は行われ、すんなりと終了した。写真チェックの時間に女子スタッフ一同が赤面してしまう程、一誠さんの写真は素晴らしかった。自然に微笑んだ口元に、差し出された左手の花束。背後のステンドグラスから差し込む色取り取りの光が彼の背後を照らしている。
ジューンブライドに相応しいその写真にはきっと、一誠さんの沢山のファンも納得するどころか大喜びであろう。一枚だけ印刷されたサンプルを片手に、その長い脚を組んで休憩をしている一誠さんの側へと寄る。
「一誠さん見てください!最高ですよ!」
じゃーん!と一誠さんにその写真を見せつけて、「はあ、良いなあ…私もこんな結婚式したい…」とまだ相手すら決まっていない未来に想いを馳せる。きっと今の私の表情はだらしなさ全開の醜いものだろうけれど、この写真の前ではそんな表情をしてしまうのも仕方ないんじゃないんだろうか。自分の妄想から抜け出して一誠さんの反応を伺えば、彼は難しそうな表情で眉根に皺を寄せていた。
「どうかしたんですか?」
「……いや、」
お前のことを考えてる俺は、こんな表情をしてるんだな
轟さんはぽつり、と独り言のようにそう呟いた。近距離にいた私にそれが聞こえない筈もなく、自分の手に持った写真が、自分に向けられたものであることを知らされた衝撃で声が出なかった。