女の子はみんな可愛いと俺は思っている。どんな子も女の子であることに変わりはない、そこに美醜の差などは存在しない。俺は常々そう考えている。女の子らしい仕草は女の子が自然とやるから美しく、態とらしい仕草には何の意味もない。普段からファンクラブの子達は大切にしようと心掛けてはいるが、珠に中にはそういった態とらしい女子がいることがある。だからと言って俺から直接何かを言うわけではない。正直なところ、俺に害はないから何もすることはないのだ。…だが、一つ言うならば、そういった表も裏も無いような女の子に恋をして、恋をされたいと…みょうじさんを見て、そう思った。
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「マキちゃん、本当に凄いよなあ…」
先程の光景を思い出すと、今でも少し心が震えた。揃っているのは箱学で人気の自転車競技部の三年生、可愛らしいから密かに人気のマキちゃんに人気者なわっち。…何でもない、私。こんなところに居ていいんだろうか、なんていつもは思わないことを思ってしまったのだけれど、振り返った時に何かを察したのか私の手をぎゅっと握ってくれたマキちゃんのおかげで私はなんとかそこに立っていられた。
マキちゃんの口から出任せ、のようなあれは実のところあながち嘘ではなかったらしい。どうやらうちのクラスでは水面下ではあるが、文化祭で劇を発表しようという流れになりそうなんだそうだ。そこからはマキちゃんの流石たるや、何かを言おうとした自転車競技部の皆さんが何かをいう前に私とわっちに帰ろうと告げたかと思えば相手が何かを言う前にさっさと去ってしまったのだ。マキちゃんに何も言えない私はヒエエ、と口からでかかった悲鳴を封じ込めてマキちゃんに着いて行ったのであった。
一件落着、かと思われたそれはそうではないらしい。そのすぐ後に私の携帯にはメールが一件入っていた。一体誰だろうか、そう思いながら受信フォルダを開いてみれば、
福富寿一
件名:話がある
本文:放課後、部室に来てくれ
なんていう単刀直入にも程が有るメールを受信していたのであった。はっきり言ってこのメールによって私の心臓は止まりかけた。でも、いつもお世話になっている福富くんの申し出なら、私は断るべきではないのである。彼には了承の旨を返信した。
そして今、私は自転車競技部の方扉の前に立っていた。
美術部の後輩には今日は休ませてもらう、そうしっかりと告げた。真面目な部活であったのなら注意されてしまうかもしれないが、箱根学園の美術部は顧問が公言する通り“緩い部活”であるので咎められることはなかった。…しかし、それは大して問題ではないのだ。問題は、私が自転車競技部の扉の前で開けることが出来ないことが問題なのだ。…というのも、なんというか、流石は全国常連の箱根学園自転車競技部、放課後という時間が始まってまだ30分も経っていないというのに部室の扉の向こうから凄まじい程の音が、するのだ。ペダルを回す音、それによって動く何かの音、掛け声。誰もが本気で、自転車に全てを注いでいるその空間を壊すことなど出来ず、ただ足踏みしていたのだ。そうしてうんうんと唸っていた私は、目の前の扉が開こうとしているのに気付かなかった。
「…え」
「…へ」
ガラリ、開いた扉の先で長い睫毛の男の子が驚いたように瞬きを繰り返していた。その度に揺れる睫毛の美しさに、すぅっ、と私は息を呑んだ。