青赤緑黄紫…世の中いろんな色に溢れている。今の私は、多分…橙色がとても好き。だってそれはあの人と同じ色をした髪の色。太陽みたいな、綺麗な色。私の髪の色は痛んで毛先が少し明るくなっているとはいえ、まるで鴉みたいな真っ黒で。彼の横に立つのには不釣り合いだと…ある日、彼の腕にするりと細く白い腕を絡ませた女の子の鮮やかな茶色の髪に息苦しくなった。女の子の腕が彼に絡むのは仕方ない、だって彼の彼女だから。それよりも何よりも、私の胸を抉ったのは、彼と、所謂住む世界が違うという事を否が応でも自覚してしまったからだ。
きっと、私は彼の瞳に映ることはないのだと。
ーーー
「渡辺君、あの、あのね…わたし…」
何故この状況に陥っているのか、よくわからないけれどまるで私はわっち…渡辺君に恋心を抱いていて、これから告白をするかの様に緊張で身を縮こまらせている風に見える“ように”演技をしていた。勿論内心凄く恥ずかしい上に逃げ出したいぐらいなのであるが、わっちもまた演技をしなければならない謎の状況であるので仕方ない。何故マキちゃんの私への罰ゲームがわっちを巻き込んだ告白劇になっているのか私にはよくわからないが、取り敢えずはこれが罰ゲームなのである。
「わ、わたし…渡辺君のこと、す、」
「待て!みょうじ!」
「へっ!?福富君!?!」
ガッサァッ!近くの茂みから激しい音が鳴ったかと思えば同時に聞き慣れた高校生にしては低めの声がその場に響き渡った。私はそのサプライズに演技をすることも忘れてただただ驚いてしまったのだが、視界の端で捉えたわっちも何があったのかよくわかっていないのか首を傾げながら目を見開いていた。
「お前、その程度の気持ちだったのか!」
「おいおい福チャァン!黙ってるって話だっただろ!」
「そうだぞフク!バレてしまったではないか!」
ガッサァッガッサァッ!と連続で同じ音が鳴ったかと思えば、福富君が身体を出す横から荒北君、東堂君までもが姿を現した。いつものメンバー、だけど一人足りない、もしや、そう思って三人が顔を出した草叢の約一人分ほどの隙間をじっと見つめていると、予想通りとなんというか、そこからは呆れたような表情をした新開君が顔を出した。びくんっ、と跳ねる心臓のわかりやすさに苦笑したい。
「渡辺、ここで何してたんだ?」
いやそれ俺のセリフ…というわっちの小さな呟きは新開君のその問いに続いた東堂君の「まったく、これじゃ台無しじゃないかフク!」という言葉で掻き消された。
「し、しかしだな…俺はみょうじから色々と話を」
「あーっ!そ!それは駄目だよ福富君!!!」
慌てて福富君の側まで駆け寄って、何も言わないようにその唇に蓋をするために両手の掌を福富君の唇に押し付けた。モゴォッ!?と焦った声を出した福富君なのだが私としてもめちゃくちゃ焦っていて周りを見ることなどしておらず、隣で目を見開いている東堂君と荒北君には気付けなかった。苦しそうにもがく福富君の震える指先が、私の手を剥がそうと手首を掴もうとした時、それよりも先に優しく私の手首は暖かく、少しだけ硬い何かに触れられていた。
「みょうじ、寿一が死にそうだ、落ち着いてくれ」
優しく、ただ綿毛が触れているだけのような、感覚。だというのに身体はそれを自覚した途端に猛烈な熱を生み出し始めて、自分でも頬が赤くなるのがすぐにわかった。
「あ、わ、ご、ごめんね!福富君!だ、だいじょう…」
「大丈夫か寿一?」
「ゴホッ、あ、ああ、心配には及ばない」
私が慌てて福富君の唇から手を離し、咳き込もうとする福富君の背中をさすろうとしたものの、その私の手を制するように新開君が私よりも早く福富君の背中をさすっていた。私に一瞥もないその仕草に何故か、心臓が軋んだ。
「…つか、結局なんでこんなとこで告白してんだヨ、こっちはウサ吉に昼飯やろうとしてたのに」
がしがし、と後頭部を掻いてそっぽを向いた荒北君を驚いたように見ている福富君と東堂君が心に引っかかるものの、私はわっちの方を向く。目が合うと、わっちは明らかに私にどうしようか、と話しかけていて私もどうしよう?とわっちを見返していると背後からさくっ、さくっと誰かの足音が聞こえてくる。ハッとして振り向けば、そこにいたのは案の定マキちゃんであった。マキちゃん、と呼ぼうとした声は私よりも先に大きく響いたわっちの「マキぢゃん!!!」という(はっきり言って気色悪い)声に遮られた。
「さっきの、芝居だよ。」
「…芝居?」
「そう、うちのクラスの文化祭の出し物。聞いてない?」
さも当然とばかりに言い放つマキちゃんに、私もわっちもぱちぱちと瞬きを繰り返すだけであった。ねえマキちゃん、それ私たちにとってもサプライズなんだけど。