寿一が担任に呼ばれているから先に行け、といつものように屋上でいつものメンバーを待っていた。何故か遅い東堂を待つこともないだろう、と俺は昼飯を食べ始めたのだが、律儀にも人が揃わないと昼飯を食べないのか荒北は舌打ち混じりに「東堂のやつ遅すぎだろ…」と未だ開かぬ扉を睨み付けていた。全く、不器用なやつだな。そう思いながら頬張っていたメロンパンを嚥下したその時、漸く待ち人は普段よりも喧しく、現れた。

「新開!新開!!」
「どうした尽八、おめさんうるせーぞ」
「それはいつものことだろーがヨ」
「それもそうか」
「ええい!今はそんな話をしている場合ではない!みょうじさんが告白するのだぞ告白!」

焦っている様子で俺にそう告げた尽八の言葉に、まさか俺に告白してくれるんじゃ、なんて思うほど俺は夢を見ていない。事実、尽八がこんなに慌ててやって来るという行動でその相手が俺で無いことは明白だ。…長い間片思いして来たが、まさか気持ちを伝えるまでもなく、ここで俺の恋は終わるのか。そう考えると、スプリント勝負した後よりも脚に力が入らないような心地がした。

「は、灰になるのではない、新開!」
「お前がさせたんだヨ」
「はは、俺にはもう無理みたいだ…頼んだぜ…尽八、靖友…」

戯けた口調でそう言えば、靖友は「面倒くせェ」とベプシを口に含んだ。尽八はと言えば、にやぁっ、と口角を持ち上げていた。尽八がこういう表情をする時は嫌な事しか起きないので、一体何を言い出してくるんだろうか、俺は緊張で息を呑んだ。


―――


「ウサ吉の絵?」

ああ、そう尽八はこくりと頷いた。箱根学園の二年生としてのインターハイが終わって、夏が明けてすぐのことであった。夏に屋上は暑くて嫌だ、という理由で食堂でミーティングも兼ねて昼食を食べていた俺達であったのだが、ミーティングが終わった途端に尽八が「ウサ吉の絵が文化大臣賞を頂いたようだぞ」と唐突に告げたのだ。

「何だ、知らなかったのか!ならば見に行こうではないか!」

尽八がそう言うと心底面倒そうに靖友が舌打ちをしたのだが、寿一が珍しく東堂の意見に「それは名案だな」と賛同したことに驚いて椅子から転げ落ちそうになっていた。

「福ちゃんが東堂に同意するなんて珍しいんじゃナァイ!?」
「あれは一度見ておくべきものだ。特に…新開、お前はな」

寿一のその意味ありげな言葉にその時俺は首を傾げたのだが、数十分後、目の前に現れたその絵を見て…寿一がそう言った意味を理解する。

写真と言っても差し支えない、いや写真よりも精密かもしれない…その絵。写実的でありながら絵画であることの特性を生かした、独特な色彩を取り入れた見るだけで惹き込まれてしまうその絵に。息をすることすら忘れそうなその時に、ふとこの絵を描いた人物を見たいと思った。自然と絵の下へと動かした視界に写った名前とその絵のタイトルは“学校のウサギ みょうじなまえ”であった。何とも簡素なものだ、と思うも…その兎の名はウサ吉だと、教えてあげたくなった。みょうじなまえ、…彼女は誰だろうか、そう思った時に尽八が俺の肩を叩いた。

「ほらな!とても美しいだろう。普段のみょうじさんは物静かだが彼女の瞳にはこの様に世界が映って見えるとは素晴らしいとは思わんかね?」
「ッ!尽八、おめさん知ってんのか?」
「知っているも何も…同じクラスだからな。ほら、彼処に本人がいるぞ」

ビシッと指差したその先には、掲げられた絵画に向かって指を差しながら隣にいる友人であろう子の腕を引っ張っている顔を赤くした女の子がいた。ああ、彼女か。一瞬でスッ、と心の中に入り込んできたみょうじなまえさんは…正直、今までの俺の付き合ってきた女の子とは見かけから真逆であるし、はっきり言ってしまえば印象に残らなそうな物静かな女の子である。きっとあの絵を描いたと聞かなければ記憶に残ることはなかったであろう。…だが、俺は彼女をもっと知りたいと、そう望んでいた。

「…綺麗だな、流石はみょうじだ」
「あ?福チャンもこれ描いた奴のこと知ってんのか」
「ああ、少しな」
「…へェ」
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