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私は三蔵の部屋から出るとため息をついた。 まだ言っていないことを思い出しながら… 私は睨み付けるように天井を見上げるとなにもいないそこに向かって短剣を投げた。
その夜、外で僅かな音がして目を覚ました。 窓の外を見れば三蔵がいて森に向かって歩いていく。 私は風になるとその背中を追った。 「…いるのはわかってんぞ」 「あれ?バレた?」 暫くするとそう言われて元の姿に戻る。 まだ痛むであろう腹部を庇いながら歩く様子に私はそこを撫でる。 「一応ある程度の痛みは取ったから」 そういうと近くにあった岩に三蔵が腰掛けた。 「お前はここにいるのか?」 そう言われて私は小さく頷く。 「無理されて倒れたときに運ぶひとがいなきゃでしょ?」 そういうとクスリと笑われた。 私も小さく笑ってそれから三蔵の座る岩の後ろに座った。
ガサリと音がして人間だかわからぬ気配の男が表れた。 「お前をこの手で殺す為だ」 三蔵のセリフに私は六道を思い描く為、目をつぶる。 過去に縛られて狂った男。 まるで私の過去みたいだと自分を嘲笑う。 三蔵と六道が戦っている音がするが私はそれには加わらない。 この二人の対決だ。 私は手出ししてはいけない。 そう言い聞かせて私は暗い空を見上げた。
なんだかわからないお経が聞こえて私は術が掛からないように心の中で唱える。 ちらりと岩影から覗けば三蔵の上に六道が乗っていて、私は思わず三蔵を助けようとしたがこれは二人の戦いという事を思い出して首を引っ込める。 そもそも"三蔵なら死なない"そう思えた。 知っているけれどそれでもそう思えた。 と、六道の呻き声と何かの飛び散る音。 私は目をつぶるとこれからの事を思い返す。 六道は、三蔵は、何を思っているのかわからない。 けれど、六道は過去の柵から抜け出せたんだと銃声を聞きながら勝手に思っていた。 何故か零れてきた涙で歪む視界の中、空を飛ぶ鳥を見て私と六道は三蔵が幼い頃聞いた光明の言っていた"本当の自由"を手に入れられたのだろうか、そう考えていた。
「帰るぞ」 そういって手を差し伸ばす三蔵の手。 多分私は皆と共に旅をしていくうちに"本当の自由"を見付けられる。 そう感じて笑顔で、その手を掴んだ。
「お客さん何処までー?」 「初乗りいちまんえんだよン」 既にジープに乗っている三人に三蔵は顔をしかめ、私は笑顔で笑っていた。 「西に決まってンだろ」 そう言って三蔵は悟空に銃を投げる。 私は悟空の頭を撫でて一万円を渡す。 「真奈美真に受けるな」 そう言われて三蔵の上に兎となって乗った私は 「違うよお礼としてだから」 そう言って八戒には十万円を渡す。 「え、真奈美ちゃん俺には?」 「無いです」 そう言って私は三蔵の膝で眠りに落ちた。 和やかな空気の車内は心地が良く、なんだか幸せな夢を見たような気がした。
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