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あの日は雨でいつもの場所で喋っていたときに仕事の連絡がきて私はそこを出た。 その時先生が待ち合わせの場所まで送ってくれて、そこから数メートル歩いたところで私は車に轢かれそうになって… 先生が私を突き飛ばして… ドンッと鈍い音が聞こえて、先生は車に轢かれた。 「先、生……?」 「良かっ…た」 かけよって先生の手を取るとぬるりとした液体が付く。 「最後に…教えたばか、りの歌…うたって、あげ…るね」 「やだ…最後なんてやだよぉ!」 「あら…泣けたじゃ、ない」 雨に混じって流れる涙を見て先生は微笑んだ。 先生は途切れ途切れにその歌を歌い出してさらに涙をこぼす。 「この、歌…ど、なとき…歌うん、だっけ…?」 「私が、私らしく素でいられて…安心できる場所が見つかったとき」 そういうと先生は微笑みながら頷いて静かに息を引き取った。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」 雨の音と私の号哭が辺りに響いていた。
数日後の葬式に私は出席して家族の方々に謝った。 すると、 「良かった。真奈美ちゃんが死ななくて」 そう口々に言ってきた。 さらに葬式に来ていた人達が 「彼女も真奈美ちゃんを助けられて良かったわよね。それに比べたら…」 そう口々に言っていて、私はそこからさらに人間不信になった。 …先生は死ぬべき人じゃなかった。 私が死ねば良かったのに…そもそも死ねないのだから轢かれても平気なのに。 私はその時、初めて自分の無力さを知った。 そして他人の前で自分を偽るようになっていった。
その日以来雨の日は嫌いな日になった。
2年後私は14歳になった誕生日に誘拐された。 その日も雨の日、しかも雨の日の次に嫌いな誕生日だった。 「久しぶりだね真奈美」 「…お、とうさん?」 それは1歳の誕生日に離婚した産みの父親だった。 「酷いよね。離婚してから俺は働きづめで頑張ってるのにあいつは真奈美のおかげで働かなくても良いなんて」 そういいながらじりじりと近寄る父に思わず後ずさりをする。 「仕事あるから…ここから出してよ」 「嫌だ。お前は俺のものだ誰にも渡さない」 そう言うと壁まで追い詰めた私の服を破き、そのままレイプした。 それから一ヶ月監禁されていて、やっと出られたときには心も身体もボロボロに近かった。 私はその一ヶ月の記憶を思い出したくないから記憶を封印したので今は覚えてはいないけど最悪だったのだけは封印してもちゃんと覚えてる。
「恐らく父は狂ってた、私が産まれたときから…」 そう言うと私は未だに抱き締めてくれている三蔵を押して離れる。 「…汚いよね私。それに…連れ去られたときも…」 人形野郎との事を思い出して俯く。 「関係ねぇ。お前はお前だ」 そう言って離れた私をまた抱き締める。 「やだ、三蔵が汚れるから!せめてお風呂で触られたところ洗わなきゃ」 「うるせぇ」 そういって口を塞がれる。 ぽかんとしていると口内を蠢いていた舌が抜かれた。 「これで俺が汚くなったか?」 そう言われて横に首をふる。 「ならお前も汚くねぇ」 「え…」 「この話は無しだ続き話せ」 抱き締められたまま私は固まっていた。 今…キス、え?!キス?誰が?三蔵が?誰に?! 「え?!ちょ、え!?い、いい今な、何、え?!」 「動揺しすぎだバカ」 そう言うと額にでこぴんをされる。 「おら、さっさと話さねぇと撃つぞ」 彼なりの気遣いなのだろうか、思わず笑みがこぼれた。
「このあとは特には何もなくって16歳の時、親に内緒で役者を辞めて…荷物を全部持って死のうとしたらここに飛ばされました。」 それで皆と会って… 「ここにこれて良かったって凄い思う。ここに来てから素でいられるときが増えたし、笑ったり泣いたり怒ったりできるようになった。だから、あの時の選択は間違いだったけど間違いじゃなかったんだって思ったの」 そう言うと三蔵が力強く抱き締めてきた。 「三蔵、ありがと聞いてくれて」 そういうとおそるおそるだが三蔵に腕を回して抱き締め返した。
こいつにも何か過去があるとは思っていたがこれほどまで酷いとは思っていなかった。 恐らく話していないこともまだあると思う。 そう思いながら腕の力を強めた。
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