「貴女が例の女?」
開けた所へと辿り着けば中からそう声がした。一歩足を踏み入れれば目の前の機材の前にはあのクソばばあ"玉面公子"がいた。
「私はなぜ妖怪たちに拐われそうになる身となったのですか?」
わかりきっている質問を口にすればむっとした顔をされた。
先程までの人を見下すような顔より幾分もましだが、私としては顔すら見たくない。
『牛魔王に触れれば私はその力を手に入れることができる。
そしてあの腐れ人形野郎によって洗脳すれば私は此方側の操り人形にする。』
という算段だろう。
この考えが本当にならないよう逃げるべく踵を返すと後ろに気付かぬうちに人がいたらしく、私は顔からその人にぶつかった。

すみませんと一言呟いたが反応がない。
顔を確認するのに見上げれば
「げっ」
腐れ人形野郎が目の前にいた。
離れようと一歩後ろへと下がろうとしたが後ろにはこの男の腕があり、抱き締められている状態になっていることにやっと気付いた。
「初対面なのに『げっ』って酷いなぁ」
頭の上から聞こえる軽口に冷や汗が背中を伝う。
この状況は不味い。
すぐに心で"洗脳はされない。毒は水に身体は傷付かない"と唱えるがその途中、首に痛みが走り視界は黒く染まっていった。



先程気絶させた人間の少女を実験室という名の自室へと運び入れた。
瞼の閉じられたその顔はかなり整っておりまるで童話の白雪姫の様。
「キスはしないけどねー。起きられたら大変だし?」
笑いながら独り言を呟くと、その少女の服を脱がせ器具を取り付けると水槽の中へと入れた。
「さぁて、綺麗な操り人形ちゃんを作りますかー」
目を細めて水槽の中を見ながらパソコンを起動させた。


重たい瞼をあけるとそこは水中だった。
…さっき、確か…そうだ、腐れ人形野郎に気絶させられたんだ。
そう記憶を巡らせて目の前を見ればそいつがいた。
「っ?!」
思わず口を開けば液体が口の中に入り酸素を奪う。
もがき苦しんでいると液体の量が減り、首だけが出る状態となった。
思わず咳き込み酸素を取り込めばガラス越しに聞こえる笑い声。
涙の膜の張った目でそちらを睨み付ければ腹を抱えて笑っている。
「"ガラスは出れる大きさだけ割れて液体は零れること無く私はここから出られる"」
そう言うと飛び散ることもなくガラスは割れて、液体もそのまま留まっている。
私は水中から出ると近くのかごに入っていた先程まで着ていた白いワンピースを着た。
「…下着は何処よ」
上も下も下着は見当たらず腐れ人形野郎に問うた。
「んーさぁ?でも不思議なんだよねー
なぁんで洗脳されてないのかなー?」
水槽の前に立ちまじまじと水槽を見ていた視線を私に移すと、そう人形片手に首を傾げて聞いてきた。
私はこの男が大嫌いだ。何故現世で人気があるのか理由がわからない。
「ねぇ腐れ人形野郎。…いや、烏哭三蔵さん?人形なんて悪趣味なものが好きなんですね」
皮肉めいて言えばピクリと反応する。
「なんで知ってるのかなー?」
途端に纏うものが禍々しいものに変わり、私もそれに合わせて深い笑みを作る。
「理由なんて教えるわけが無いでしょ?敵なんだから、ね」
危険信号が鳴り響く脳内を叱咤して余裕のあるように演じる。
と、彼はいきなり近づいてきて両腕を掴んできた。
「…君はさー嫌いな相手に抱かれたとしたら壊れたりする?」
そう言い放った男を思わずきょとんとした顔で見上げる。
その顔は大嫌いな笑みを浮かべていているが目は脅しじゃなくて本気だ。
これはまずい。
危険信号が鳴り響く脳内に従って逃げればよかったと、後悔してももう遅い。
『ねぇ真奈美愛してるよ』
前のセカイであったことを思いだしサアッと血の気が一気に引いて嫌な汗が背中を伝っていく。
私のその様子に目の前の男の顔が楽しそうに変化した。
逃げようにもこの男の持つ無天経文がどのような威力を持っているのか未だ未知数のために下手に動けない。
絶体絶命とはまさに今のような状況なのだろう。
顔が近づいてきて自分と男の唇が重なりぬるりと熱を持ったモノが口に侵入してきて私は躊躇なく噛みついた。
「っ…優しくなんてしてやんなーい。壊してあげるよー」
軽口に似合わない表情をするの男に鼻で笑い挑戦的に言い放った。
「壊されないわよ」

▼危険な男

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